第12話 呪印
額にでかでかと刻まれたギャオスの文字。
確かにこれなら、あだ名がギャオスなのも頷ける。
――だが、問題はそこではない。
問題は奴の額の文字。
それが呪印であるという点だ。
呪印は一言で言うなら、デメリット付きで対象を強化する魔法技術。
そう、この世界に無い筈の魔法技術なのだ。
……知られていないだけで、この世界にも魔法はあるって事か?
「あらあら、随分情熱的に見つめて来るわねぇ。もしかして、おねぇさんに見惚れちゃったかしら?」
「その額の呪印。それはアンタが彫ったのか?」
「呪印?ああ、額のこれ?オシャレでしょ」
オシャレって……
なんか色々と狂ってるな、こいつ。
まあ呪印による精神的影響なのだろう。
「12歳の時、ふと気づいたら額にあったのよねぇ。最初は寝てる間に誰かにラクガキでもされたのかと思ったんだけど、全く消えなくって。まあでもデザインは気に入ったから、それからずっとそのままって感じよ」
急に額に刻まれてた……か。
魔法を扱える人間なら、相手に気付かせず施す事も不可能ではないだろう。
まあこのおカマの言う事を信じるのならば、ではあるが。
「にしても……私の弟分達を随分かわいがってくれたみたいねぇ」
ギャオスが俺の横を通り抜け、倒れてる三人の様子を確認する。
「貴方ぐらい喧嘩が強いなら、ここまでする必要はなかったんじゃないの?」
「言いがかり付けてこんな所まで連れて来たアホ共相手になら、十分過ぎるほど手加減してると思うけど?」
最初に喧嘩を売って来たのは相田で。
その相田を撃退したって理由で、これまた喧嘩を売って来たのは郷田だ。
そして相田と青髪はそれを期待しての卑劣な行動をとっている。
俺に落ち度が全くない事を考えると、この程度なら相当優しい裁定と言えるだろう。
まあ多少見せしめは入っていはいるが、誤差だ誤差。
「見解の相違いかしら。けどまあ……ここまで弟分を可愛がられたんじゃ、黙って返す訳にはいかないわよねぇ」
ギャオスの額の呪印から、魔力が溢れ出す。
効果は肉体強化と。
あと成長加速って所か。
呪印は外法に分類される技術だったのであまり詳しくはないが、魔力の流れから効果は何となくだが分った。
ただ呪いとしてのデメリットの方は判別不能だ。
まあ身体的に問題が起きている様には見えないので、精神的な物で間違いないとは思うが。
おカマだし。
美的感覚おかしいし。
まあその辺りの正常な感覚を壊してしまう類の物なのだろう。
これ位ならデメリットとしてはかなり軽い物だが、その分効果も低いので妥当と言える。
「相手してもいいけど。その代わり、勝ったらその額の文字の事を詳しく聞かせて貰うぞ」
「それなら今話したでしょ?そんなにこれが気になるのかしら?」
「まあな」
呪印が発動しているのに、ギャオスの肉体からはそれ以外の魔力を一切感じない。
気づいたらって話は本当の事なのだろう。
だがそうなる前に何らかの前兆があったはずだ。
魔法技術を持つ人物が、ギャオスに呪いを与えようとしたきっけかの様な物が。
まあ無作為にバラまかれていた場合はその限りではないが、確認しても罰は当たらないだろう。
え?
それを調べてどうするかだって?
俺に関係ないなら何も問題ないんだが、現に今、間接的に関わりが出来ているのだ。
この先どういった形で関わって来るか分からない以上、調べておきたいと言うのが人情という物である。
「そうなんだ。でもざんねんねぇ……貴方じゃ私には勝てないわよ!」
ギャオスはその巨体に反して軽やかにステップを踏み、一気に間合いを詰めて来た。
そして高い位置からその岩の様な拳を俺に叩きつけて来る。
「——なっ!?」
その拳を俺は片手で受け止めてやる。
自分の攻撃が止められるとは夢にも思っていなかったであろうギャオスが、驚愕に目を見開く。
普通の人間なら受けた掌どころか、下手したら衝撃で腕の骨まで折れてもおかしくないパワーだ。
だが異世界で生き抜いた俺にとって、この程度の一撃は脅威でも何でもない。
「これで全力か?」
「私の拳を止めるなんて……あ、あんた何者よ。まさかアンタも風早みたいに気の使い手なの?」
気?
拳法系の映画や漫画なんかであるあれか?
俺はそう言った力は持ち合わせてはいないが、現代日本にそんな物があるのだろうか?
興味深い。
其の辺りも含めて、色々このおカマからは聞き出すとしよう。
「はぐぁっ!?」
驚いているギャオスに、程ほどの力で腹パンする。
「あぁ……ぐぅ……」
やつは腹を押さえて膝から崩れ落ち、そのまま気絶してしまう。
少し強く殴り過ぎた様だ。
回復魔法で叩き起こす事も出来るが……まあ話を聞くのは後でいいか。
まだ昼ご飯食べてないし。
「おい、起きたらギャオスに伝えろ。放課後ここに来いってな。いなかったらお前ら含めて全員ボコボコにするからな」
俺は周りの不良共にそう告げ、教室に戻るのだった。
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