第78話 変わり身

「孝仁、母さん行くけど……本当に大丈夫」


母さんがベッドに寝る俺を心配そうに見つめる。


「だ、大丈夫。心配しないで」


ごほごほと、ちょっと咳をしつつ俺は母さんに返事した。

当然だが、俺は風邪などひかない。

仮にひいたとしても、魔法で一瞬で治せるしな。


つまりこれは仮病だ。

昨日はしゃぎ過ぎて、風邪を引いたって体の。


――目的は今日の学校を休むため。


こういう時、相手に余計な時間を与えれば与えるほど碌な事にはならないのが相場である。

だから早々に動かなければならない。

その為、風邪を引いた事にして学校を休むのだ。


「そう、温かくしてゆっくり休んでおくのよ。お昼用のおかゆは鍋に入ってるから。それと、母さん出来るだけ早く帰ってくるからね」


「ごめんね、母さん……でも、心配しなくて大丈夫だよ」


「じゃあ行って来るわね」


「行ってらっしゃい」


母さんが仕事に出かけた後起き上り、俺は一言呟く。


「腹が立って来たな」


と。


何故、嘘で母さんを心配させなければならないのか?

そう考えると腹が立って仕方がない。


全ては帝真の奴らのせいだ。

いっそ、片っ端から皆殺しにしてやろうかという気分になってしまう。


いかんいかん。

怒りに飲まれてはダメだ。


怒りは判断を鈍らせる。

必要なら大量虐殺でも何でもするが、怒りに任せてそれをするのだけは絶対にアウトだ。

やるなら冷静にいかないと。

取り返しのつかない事になりかねない。


「気分を切り替えて行こう」


俺は自分の髪を一本引き抜き、そしてそれにをかける。


モルモット共を使っての蘇生魔法のテスト中——体を真っ二つに裂いて、片方だけで蘇生した時——俺はふと、残りの半身にも蘇生魔法を掛けたらどうなるのだろうか?という疑問が頭に浮かんだ。


当然疑問が浮かんだら即テストする。

相手は所詮モルモットなので、遠慮する必要もない。

で、やってみたところ、見事に残り半身の蘇生にも成功する。


どうやら本人が生きていても、魔法による蘇生は有効な様だ。

不思議な魔法である。

まあ何にせよ、これで――


分身が作り放題!


……とか思ったのだが、残念ながらそうはいかなかった。


何故なら、中身が無かったからだ。

あ、中身ってのは内臓って事じゃないぞ。


精神。

もしくは、魂って奴である。


そのため後から蘇生させた体は生命活動こそしている物の、それ以外の意識を伴う様な反応が一切ない状態だった。

要は植物状態。

もしくは生きたお人形さんって所だな。


だがお人形さんにも、お人形さんなりの使い道がある。

例えば、俺の代わりに風邪で寝込む役とか。


「母さんが思ったより早く帰って来た時、俺が居なかったら心配させてしまうからな」


そんなに時間をかけるつもりはないが、万一長引いた時の保険としてこいつを置いて行く。


「じゃあ留守番頼んだぜ」


俺は蘇生魔法で生み出した、中身の入っていない抜け殻に自分の着ていた寝間着を着せ、そのままベッドへと放り込む。


「まあ大丈夫だとは思うけど、念のためタリスマンも身に付けさせておくか」


ダメージの心配?


まさか。

タリスマンを装着させたのは、意識がないって事で、早く帰って来た母が心配して救急車を呼ぶ可能性を考慮してだ。


その場合病院に運ばれる事になるから、搬送先が分かってないと困るだろ?


いやまあ、そんな事には絶対ならないとは思うが。

一応念のため。


「さて、じゃあ行くか」


俺は汚れてもいい拷問用おでかけようの服に着替え、帝真グループの支部へと向かう。

佐藤という男と面談する為に。

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