第33話 魔法
「この廃旅館から魔力を感じる」
「それって……安田君みたいに魔法を使ってるって事?」
「ああ。もしくは呪術——呪いだな」
呪術。
呪印を始めとする、呪いと呼ばれる特殊な体系の魔法だ。
ギャオスの事も考えると、其方の線も十分考えられる。
「呪い……それってまさか、皆は何かの生贄にされてるかもしれないって事?」
友人たちの最悪の状況をイメージしてか、亜美の顔色が血の気を失って青く変わっていく。
どうやら彼女の中では、呪いイコール生贄というイメージがある様だ。
まあだがその考え自体は間違っていない。
魔力にプラスアルファを与え、効果を発揮するのが呪術である。
そしてそのための最たる物が生贄だ。
因みに、ギャオスの施された呪印は本人の生命力辺りを消費するタイプだと思われる。
アイツの場合は大した効果じゃないから、本人の日常生活にはたいして影響が出ていないが。
「まあ呪術ならその可能性は高いだろうな」
とは言え、魔法なら生贄に捧げられないという訳ではないが。
例えばタリスマン。
本人の意思を無視できないとはいえ、あれは人の命を加工して生み出すマジックアイテムだ。
本質的な意味では、生贄と大差ないだろう。
俺が以前糞共にやった様に、無理やり相手の心をへし折る手法だってある訳だしな。
後、生贄を使って悪魔を召喚する魔法なんかもある。
「安田君……あの子達、助けられるかな?」
亜美が不安そうにそう聞いて来る。
「分からん」
そもそもこんな場所で攫われた時点で、命が保証される状態を期待すること自体間違っている。
仮に魔法系が関わっていなくとも、臓器なんかが目的なら普通に殺されるだろうし。
まあそんな事を真っすぐ口にする気はないが。
「俺が言えるのは……手掛かりが早々に見つかっただけまし、って事だ」
魔法と関係なく誘拐され、車でずっと遠くに連れ去られたとかだと見つけ出すのは困難だったろう。
だが攫った相手が魔法関係の能力を使っているので、その痕跡から追跡できる可能性が出て来た。
なので魔法が関わっている事は、不幸中の幸いと言えなくもない。
見つかれば救えるとは限らないが、見つけられなければその可能性すらないのだから。
「兎に角、中に入るぞ」
「へっ?きゃあ!?」
俺は亜美を肩に担ぎ上げる。
「あ、あの安田君?何を?」
「なにって?設置されてる柵を乗り越える決まってるだろ」
柵の高さは3メートル程。
探せば亜美の友達が使った侵入口があるのだろうが、簡単に飛び越えられるのにそんな物を探すなど時間の無駄でしかない。
「うわぁっ!?」
俺は亜美を抱えたまま飛び、柵を越えて内部に入り込んだ。
「い、今のも魔法?」
「いいや。単にジャンプしただけだ」
「そ、そうなんだ。安田君って、色々と凄いね……」
「まあ異世界帰りだからな」
俺は担いでいた亜美を肩から降ろし、建物の入口へと向かう。
「うっ、真っ暗だね」
入り口から中に入ると、照明の類のない内部は真っ暗だった。
元旅館なので建物に窓はついているが、それらは全て内側から打ち付けられた板で塞がれており、内部には外部からの光が殆ど入って来ていない状態だ。
まあそれでも、俺はこの程度なら問題なく見通せるが……
「ライト付けても大丈夫かな?」
亜美が態々聞いて来る。
光を灯すのは、内部に誰かがいれば自分達の侵入を知らせるに等しい。
友達が攫われた場所で、しかも魔法があると言われて警戒して聞いて来たのだろう。
「ああ。問題ないぞ。そもそも、此処への侵入はもうばれてる訳だしな」
入り口の時点で魔法が張ってあった。
生命体が中に入ったら察知するタイプの物で、魔法を張った奴に気づかれる以外の弊害はない物だ。
つまりばれてる。
「えっ!?そうなの?」
「ああ、だから気にせずライト付けて良いぞ」
「うん、分かった。でもあれだね。安田君、バレても全然動揺してないし。なんか安心できるって言うか……」
「設置されてる魔法を見た感じ、俺の敵じゃなさそうだからな。不安がる理由がない」
入り口に張ってあったのは普通の魔法だった。
不慣れな呪術系はともかく、通常の魔法なら一目見れば施した者のだいたいの力量は把握できる。
ぶっちゃけ……此処に魔法を張った奴は、異世界だと見習以下のレベルだ。
その程度の奴らなら、相手がそれこそ一万人ぐらい居て奇襲をかけて来たとしても俺には問題ない。
もちろんそれは亜美を守りつつという状況でも変わらない。
それ位、俺には脅威足りえないレベルの相手という事だ。
「さて、じゃあ中を調べるとしようか」
亜美を連れ、俺は廃旅館の調査を開始する。
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