第5話 訪問
「ここが山田んちか……」
学校からそこまで離れていない、ちょっとボロめの一軒家が山田の家だった。
教師に聞いたら入院はしてないと言うので家に来た訳だが……
「出ないな」
インターホンを鳴らすが、全く反応がなかった。
留守かと思ったが、けがで休んでいるのにいない筈もない。
魔法で生体反応を確認してみると、家には反応が二つあった。
確か山田には妹がいたっけかな。
「ふむ……寝てるにしても、兄妹揃ってこの時間にってのは考えられないよな」
なら、居留守を決め込んでいると考えた方が無難だろう。
まあそうだとして、兄妹揃って居留守って尋常じゃないよな。
パッと思いつくのが借金の取り立てとかなんだが……
因みに山田の家もシングルマザーだ。
家と同じで。
なのであんまり裕福じゃないイメージがある。
「闇金の取り立てとかだと、こう壁とかドアを蹴り飛ばしてるイメージがあるんだけど……そういう跡はないよな」
まあそういうのは、所詮テレビやドラマとかから仕入れた程度の知識だ。
大げさに誇張されていると考えると、跡がない、イコールそうじゃないって訳ではないだろう。
――取り敢えず、本気で金に困ってる様なら融通してやろう。
インベントリには魔王討伐の報酬——金銀財宝――や、俺の装備なんかが入ってるからな。
それらを換金すれば、結構な額になる筈である。
「おーい、やまだー。俺だ!安田だ!」
名乗りを上げて、俺だとアピールしてみる。
すると内部の生命体の一つに動きがあった。
「安田……目が覚めたんだね。良かった……」
少し待つとドアが開き、丸い体格で気弱そうな青年が顔を出した。
俺の友人の山田太郎だ。
その顔色は悪く、顔や手にはシップの様な物が貼られているので、怪我をしたと言うのは本当だった様である。
「ああ、この通りだ」
俺は何となく、右手で力こぶを作るポーズをする。
まあこの世界の俺の体は、入院していた影響もあってガリガリなので、全く膨らみはしない訳だが。
「本当に……良かった……俺、俺……」
急に泣き出す山田に、俺は肩を貸してやる。
何かあったっぽいな……
山田が俺の事を喜んでいると言うのは疑いようがないが、それとは別の理由で泣いた事に俺は気づく。
この感じは、どうしようもなく追い込まれた人間の緊張の糸が緩んだ時の泣き方だ。
異世界では、何度もそう言うの見て来たからな。
「ごめん。急に泣いてしまって……」
暫く泣いて落ち着いたのか、山田が申し訳なさそうに謝って来る。
「気にすんな。それより何があったんだ?お前が泣くなんてよっぽどだろ?」
「それは……」
俺の問いに、山田を俯き口を閉ざす。
話せない、もしくは話辛い内容なのだろう。
「その怪我と関係があるのか?」
「……」
「話したくないならいい。けど、俺はいつでもお前の味方だ。それだけは分かってくれ……」
「……外じゃ話せないから……家に上がってくれないか」
「分かった」
俺は山田に案内され、彼の部屋へと入る。
室内はかなり散らばっていたが、恒常的に汚していると言うより、暴れて散らかした後の様に見えた。
山田がベッドに腰掛けたので、俺はその横に座る。
直に腰を下ろすには、物が転がり過ぎていたからな。
「それで、何があったんだ……」
「実は……」
山田はぽつりぽつりと、何があったのか俺に聞かせてくれる。
何かあったのは分かってはいたが、それは思っていた以上に深刻な内容だった。
山田を気にかけて正解だったなと、俺が改めて思う程に。
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