第32話 確実

相談を受けた日の深夜。

俺は現場であるホラースポットまで、亜美の車に乗って移動していた。

到着まで1時間はかかるそうなので、事前に用意してきた参考書を助手席で眺めていたら、横から亜美に声をかけられる。


「暗いのによく見えるね」


深夜なので、言うまでもなく車内は暗い。


「やっぱそれも魔法?」


「単に目が良いだけだ」


光の完全にない真っ暗闇ならともかく、異世界帰りの俺にとって、多少暗い程度は大した障害ではない。


「ふーん、魔法じゃないんだ。ねぇ、安田君ってどうやって魔法なんて物覚えたの?」


何故こいつは参考書を開いて勉強している俺の邪魔をする?

運転だけじゃ暇なのか?


「……異世界だ」


一瞬答えるかどうか迷ったが、亜美はもう魔法の事を知っているのでそっちを隠す意味はないかと判断して答えた。

そもそも、知られた所で彼女が行ける訳でもないしな。


「異世界って、漫画とかに出て来るあの異世界?」


「ああそうだ。まあ信じる信じないは好きにしろ」


「もちろん信じるわよ。安田君はそういう冗談言うタイプじゃないもんね」


魔法が使えるとは言え、いきなり異世界と言われてすんなり受け入れるのは難しいものだ。

にも拘らず、亜美は俺の言葉をすんなり受け入れる。

まあ多分馬鹿だからだろう。


「それで、そこはどんな世界ったの?楽しかった?」


「漫画やゲームみたいに楽しい感じじゃない。後半は延々生きるか死ぬかの殺し合いだったしな」


異世界で楽しい事が全く無かったと言えば嘘になるが、魔王軍との戦いが激しくなってからは地獄だった。


戦いの度に、周りで人が死にまくる様な状況の連続。

とてもじゃないが、異世界の事を詳しく語る気にはなれない。


「あー、ひょっとして……詮索しない方がいいパターン?」


「そう言う事だ」


「そっか。安田君も苦労してるんだね」


「まあな」


亜美は気を利かせてか、その後話題をたわいない物へと切り替えた。

まあそもそも本当に気を使うなら、参考書を開いてる俺に話しかけるなと言いたい所ではあるが。


「ついた。ここよ」


車は山の中にある、古い建物の前で止まる。

建物の周りは大きな柵で覆われており、意図して侵入を試みなければ中には入れない様になっていた。


「元々大きな旅館だったらしいけど、10年ぐらい前に大きな事件があって放棄された場所なの」


「いい年した男女7人が、夜中にこんな場所に肝試しで忍び込んだのか?」


頭の痛いお話である。


「あたしも止めとけとは言ったんだけどね……」


「もっと強く止めておくべきだったな」


俺は廃旅館を見つめてそう言う。

いきなり連絡が途絶えた以上、亜美の友人達に何かあったのは疑い様がない。

だがここに来るまで、それが本当にこのホラースポットで起こった物かの確信はなかった。

ここを出た後、別の場所で何かあった可能性も十分考えられたからだ。


だが廃旅館を目にした今ならハッキリ言える。

亜美の友人達。

ついでに一緒にいた男達の身に、此処で何かが起きたのだと。


何故なら――


「ひょっとして……何かわかったの?」


「ああ」


――目の前の建物のあちこちから、魔法の痕跡が感じられたからだ。

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