第18話:入学式
◇
講堂に入ると、もう既にほとんどの学院生が席につき、静かに入学式の開始を待っていた。
階段状に席が並んでおり、自由に座っていく方式。
前世の日本では入学式にせよ卒業式にせよ、式典ごとは音楽に合わせて行進して入場するという段取りになっていることが多いが、ここアステリア魔法学院はそうではないようだ。
さっきの上級生二人は『烙印』の席はないと言っていたが、普通に余っているな……。
さすがに最前列は残っていないが、後ろは空いている。
しかし二人横並びで座れる場所は……なさそうだな。
「最後列でもいいか? 前で見たいなら別れてもいいと思うが」
「いえ、アレンと隣がいいです! 前にこだわる理由もありませんし」
「ん? そうか」
俺はどちらでも良かったのだが、ルリアは俺と隣が良いらしい。
確かに見知らぬ他人がいきなり隣になるのは緊張するのかもしれないな。
最後列の座席にルリアと横並びで座り、しばらく待っていると、入学式が始まった。
校歌を聞かされたり、上級生からのお祝いの言葉をもらったりと、順番に進行していく。
意外性などは特にないので、眠くなるばかりだ。
ルリアも俺と同じらしく、時々ガクッと身体を揺らしている。
いや俺はさすがに寝てはいないが。
「あ、アリエルですね!」
新入生代表の挨拶になり、ルリアが元気になった。
さすがに小声ではあるが、我慢できないらしく伝えてきた。
「あの様子なら大丈夫そうだな」
入学式の数日前から毎日寝る前に練習していたのを見ていた。
大勢の目の前でもさほど緊張していないようだし、練習量も十分。
心配は無用だろう。
五分後。
俺の予想通りアリエルは卒なくこなし、挨拶を終えた。
ここまでは眠くなるほどに何事もなく進行していた。
いや何事もないのが当然なのだが……。
「次は学院長からお祝いの言葉です」
そうアナウンスされ、壇上に出てくる学院長。
さっきちょっとしたトラブルになった爺さんだ。
……あれで本当に学院長なんだな。
嘘であってほしかった。
俺の思いとは関係なしに、入学式は進行する。
学院長がお祝いの言葉を話し始めた。
「うむ、今年も総勢300……いや失礼、今年は301人か。入学を祝福する。ようこそアステリア魔法学院へ」
301人の部分でややニヤついたのが気になったが、さすがに最低限の良識は弁えているらしい。
特にこの部分には触れることはしなかった。
まさか大勢の前で何か俺について変なことを話すんじゃないかとほんの少しだけ心配していたが、杞憂だったらしい。
「しかし貴様ら、一人だけ変な制服の男を見なかったか? ワシからそいつがなぜ制服が違うのか教えてやろう。そいつはただの庶民なのじゃ……ふふ」
……と思ったのは大間違いだった。杞憂ではなかったらしい。
俺ははぁ……とため息をついた。
「そやつの名はアレン・アルステイン。アルステイン男爵家の家名がついておるが、ただの庶民じゃ。庶民じゃが学院生であることに違いはない。間違えて通報せんようにな」
異世界……というか、この国では姓・名の形で戸籍管理されているため、家名が必ず必要になる。他のものに変えられればいいのだが、名前を簡単に変えられるようでは悪用の恐れがあるため、かなり慎重な運用がなされているらしい。
俺としてもこんな家名はさっさとおさらばしたいのだが、結婚以外で名前を変えるのはかなりハードルが高い。
勘当程度では変えられないのだ。
と、そんなことはともかく。
学院長のせいで、新入生たちが一斉に俺に注目した。
あまり注目されたくないのだが、彼らが悪いわけではない。
ルリアも心配そうに俺を見つめているが、見られたところで死ぬわけでもない。
俺は涼しい顔で注目を受け流した。
学院長は何かが気に食わないのかチッと舌打ちすると、無難なお祝い言葉に切り替えて話を続けたのだった。
こうして入学式は終わった。
皆一斉に講堂を出て、校舎の方へ向かう。
この後はホームルームを行い、クラスメイト同士と先生の顔合わせ。
本格的な授業は明日からになる。
どうせこの後も変な目で見られるんだろうなあということは容易に想像できるので、気が重くなるばかりだ。
はぁ……とため息をついた。
「アレン、大丈夫ですか……?」
「ん? ああ、大丈夫だよ。運よくルリアとアリエルも同じクラスになれたしな」
入学式の後、クラス分けが発表された。
合計10クラス。
Sクラス、Aクラス、Bクラス〜とアルファベット順にクラス分けがなされており、今年は一組だけが31人で、他は30人ごとらしい。
この組み合わせは入学試験の成績順らしいので、1〜30位の学院生と、301位の俺が同じクラスということになる。
俺をなんとかして落ちこぼれさせようとでも考えているのか?
何がしたいのかわからないが、ルリアとアリエルが同じクラスになったのはラッキーだ。
あとは……ちゃんと成績を維持して二年生、三年生も同じクラスになれるように頑張らないと……という感じだ。
「なら良いのですが……」
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