第40話:謎の剣
◇
二重ダンジョンの中は、円柱型の部屋になっていた。
といってもこの部屋から次の部屋へ繋がる扉や通路もなく、完全な行き止まり。
最奥の巨大な砂時計の前に銀色の剣が刺さっていること以外は、特筆することがない場所だった。
「こんなダンジョンもあるんですね……」
「普通じゃないダンジョン……ではあると思うけど、魔物がいないダンジョンなんてあるのね」
「特殊とはいえ、魔物が一切出てこないというのはさらに特殊だろうな」
壁や床をコンコンするなど隈なくダンジョンの内部を調べてみるが、特にこれといったものはなかった。
すると、やはり自然と砂時計とその前にある剣に注目してしまう。
「うーんんんんん……抜けません」
ルリアが剣を引き抜こうとしてみるが、地面に完全に埋まっているせいか抜けないようだ。
「私がやってみるわ」
アリエルが交代で剣を引き抜こうとするが、やはり抜けない。
見たところ半分ほどは埋まっているようだが、頑張れば抜けないほどではないように見えるのだが……。
「ダメね。これ、剣先がめちゃくちゃ長いのかしら……?」
「アレンもやってみてください!」
「ん、俺もやるのか? まあ、やるだけやってみるか」
確かに男の俺なら二人よりは力があるだろうし、抜ける可能性もなくかもしれない。
抜けたところで地面にずっと埋まっていた剣が使い物になるのかどうかは知らないが……。
剣の柄を握り、無理矢理引き抜こうと力を込めてみる。
「……っ!」
しかし、同様にビクともしなかった。
「アレンでもダメなんて……!」
「いや、ちょっとわかったかもしれない」
これだけの力を込めて抜けないということは、これは筋力で無理やりに抜けるという性質のものではないだろう。
そして、さっきからこの剣から反発するような魔力を感じる。
魔法による位置固定が行われている状況で人間がどれほど力を込めても抜けなくて当然だ。
「これならどうだ?」
俺はありったけの魔力を剣に注ぎ込んだ。
反発する剣の魔力を押さえ込み、さらに俺の魔力を押し通すようなイメージだ。
すると——
ピキピキピキピキ……。
剣が刺さった周辺の地面にヒビが入り、ゆっくりと剣が地上に顔を出した。
まるで宙に浮くかのように地上に出てきた剣だが、完全に剣先が地面から離れたところで浮力を失い、コロンという音を立ててその場に転がった。
「ぬ、抜けてしまいました……!」
「ど、どうやったらこんなことが……?」
「筋力で無理やり引き抜くんじゃなくて、魔力でこじ開けるようなイメージだったかな。かなりの魔力が要るみたいだけど」
そんな説明をしながら、地面に転がった剣を拾い上げる。
「……っ!?」
持った瞬間。
急に身体が軽くなり、漲る力を感じるようになった。
宝具——と呼ばれる装備の中には、所有する者の能力を引き上げてくれる性質があるものがある。
非常に珍しいものだが、二重ダンジョンという非常に特殊な空間ならば、あってもおかしくはないのかもしれない。
とはいえ、膨大な魔力が必要だったとはいえ、これほどの性能の宝具がこんなにも簡単に手に入ってしまうなんて——
と思ったその時だった。
ガシャン!
という音がなり、サーと砂が落ちる音が聞こえてきた。
「す、砂時計が動き始めました!」
「急に動いたわよね……へ、変なことも起きるもの……って、なんか何もないところから魔物が!?」
突如起こったことの情報量が多すぎて、二人は状況を把握しきれていないようだった。
俺もよく分かってはいないのだが、状況的にこんなところだろう——程度のことは言えるので、二人に説明をすることにした。
「この剣を地面に封じていたのは、そこにある砂時計のはずだ。この剣を抜いたことがトリガーになって砂時計が動き出し、このダンジョン本来の魔物が出現したということだろう」
この剣は単体でも強い魔力を感じるが、さっき引き抜いた時に感じた時ほどの反発を感じない。……ということは、この剣を封じていたのは剣自体ではなく、砂時計ではないか——という程度の推測だが、おそらくこれは正解のはずだ。
「この剣を無事に持ち帰りたければ、出てきた魔物を倒せ——ということなんだろうな」
「な、なるほど……。それにしても、魔物の数が多すぎます!」
「一瞬で軽く百体は出てきてるわよ!? しかも、強力な魔力を感じるわ……」
確かに、第九層と第十層にいた魔物より一回り強い魔力を感じる。
二人も見ただけでここまで判断できるようになったとは……大したものだ。
「さすがに二人でこれは無理だな。ここは俺がなんとかするから、アシストを頼む」
「わ、わかりました!」
「アレンの邪魔にならないように攻撃するわ!」
俺はさっき手に入れたばかりの剣を右手で強く握り、駆け出した。
魔法師としての修行をしてきた俺だが、実は剣も同じくらいには扱える。
剣を持つ敵と戦うことも考えて、魔法師だとしても剣がどのような性質を持つのか、どのような動きをするのかを知る必要があるのだ。
そんな理由から、俺の父——レイモンドからは剣の修行ばかりをさせられていた記憶がある。
素振りを千回やれ——とかな。
今思えば魔法師として大成しないようにするための嫌がらせだったと思うのだが、ここにきて役に立ちそうだ。
それに加えて、前世での俺はゲームというものを暇があればやっていた。
剣での戦闘の経験値はもう十分に溜まっている。
これまでの努力がまさかこんなタイミングで実を結ぶことになるとはな……。
人生とは何があるのかわからないものだ。
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