第39話:隠しダンジョン

 ◇


「——よし、これで旗はゲットだな」


 順調に第十層に進み、旗の場所を探してみたところ、第十一層へ繋がる階段の手前に赤色の旗が十個横並びで置かれていた。


 次の階層へと繋がる階段周辺は魔物が寄り付かないので、ここに置いたのだろう。


「あっさり旗まで来ちゃいましたね。あとは魔物をどれだけ倒すかですが……今の時点で何体倒してましたっけ」


「ちょっと確かめる」


 俺はアイテムスロットからドサドサと第九層と第十層で倒した魔物の死骸を取り出した。


 第九層からの魔物はポイントになるので持ち帰りたいが、解体には時間がかかるのでそのまま持ち帰ってしまおうと考えて丸ごと詰め込んでいたいた。


「全部で二十体。一体につき二百ポイントだから、これで二千ポイントだな」


「結構倒したのね。……このまますぐに戻っても何とかなりそうな気もするわ」


「私もそう思います! 他のパーティが魔物で二千ポイント取っているとは思えないです……」


 二人は揃って今の時点で優勝は間違いないだろうという見解だった。


 他のパーティも普通にこれ以上の魔物を倒すのではないか? ——と考えると念には念を入れてもう少し魔物を倒してから帰還した方が良いんじゃないかと思うのだが、常識のない俺のことだからこれも非常識なのかもしれないな。


 図書館で勉強した結果、俺の常識の無さはマナーというよりも感覚値のおかしさに起因している気がする。

 俺が普通だと思ったことは大抵普通ではないので二人を信じた方が良さそうだ。


「なら、大人しく戻るとするか。でもまだ時間もあることだしちょっと気になってたことを調べてからでもいいか?」


「気になってたこと……ですか?」


「ええ、もちろん構わないけど……こんな変わり映えしない景色で気になることなんてあったかしら」


「ああ、ちょっとな。ついてきてくれ」


 第十層の旗を探す際、他の階層と同じように魔力による階層内の構造を調べた。

 その時に、気になる部分を発見した。


 なぜか、何もない壁から繋がる通路のような影が見えたのだ。

 通路は壁により塞がっているから、壊さない限り目視することはできないものだし、そもそも通路は途中で切れてしまっているので、まるで開発を諦めたトンネルのような様子。


 ダンジョン内にこんなものができるのは面白いので、一度この目で見たいと思ったのだ。

 謎の通路……おそらくただの行き止まりなのだろうが、こういったものを調べるのは妙に子供心をくすぐられる。


「ここだ」


 俺は、一見ただの壁にしか見えない場所をコンコンと叩く。

 すると、普通の壁の反射音ではなく、中で反響するような音が聞こえた。


「普通の壁にしか見えないですけど、確かに何かがありそうです」


「ここに空洞があるということかしら。ダンジョンの中にこんな空間があるものなの?」


「普通はないはずなんだが、実際に存在してしまってるみたいだからな。……まあ、俺もよくわからないからこの目で確かめたいってだけだ」


 そう言って、俺は空洞に繋がる壁に火球を放った。


 ドゴオオオオンンンンッッッッ!!


 パラパラ……と岩の壁が崩れ、予想通りパックリと空いた空間が見えた。

 中を覗くため、空洞の中に足を踏み入れる。


 空洞の先は通路のようになっていたが、約三メートルほどと本当に短かった。

 しかし、その先には奇妙なものがあった。


 蒼く禍々しく輝く渦巻き型のもや。


「な、なんですかこれ!? ダンジョンの中にポータルですか……?」


 ポータルというのは、ダンジョンの入口にある通常の世界との境界線。

 さっき、地上からこの地下ダンジョンに入る際に見たばかりなので、見間違えるはずもない。


「つまり、ダンジョンの中なのに、ダンジョンがあるということよね……?」


「ああ、俺も情報としてしか知らないが、強力な魔力を持つダンジョンは稀に二重ダンジョンができることがあるらしい。それなのかもしれないな」


 というより、他に原因は考えられない。


「二重ダンジョンって、普通のダンジョンなのですか?」


「例が少なすぎてよくわからないみたいなんだ。普通のダンジョンに繋がっている場合もあれば、普通じゃないダンジョンに繋がってる場合もあるらしい。まあ、見てのお楽しみってことだろう」


「なるほど……どうしましょうか」


「一度戻って先生に確認をとってからの方が良いわよねって、アレン何入ろうとしてるのよ!?」


 俺が身体の半分だけポータルに入ったところでアリエルからそんなことを言われてしまった。


「確認を取ったらダメって言われるパターンだと思ってな。二重ダンジョンがどんなものか気にならないのか?」


「た、確かに止められそうですが……」


「まあ、気になるわね」


「なら、決まりだな。危なくなったら逃げればいいんだし、気にすることはないよ」


 そう言って、俺は二人を連れて二重ダンジョンの中に入った。 

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