第38話:第九層の魔物

 ◇


 さっきの手順と同じように第二層全体に俺の魔力を張り巡らせ、第三層への道を探る。


「こっちだ」


 俺は二人を誘導し、次々と迷路のようなダンジョンを攻略していった。


 第二層は第一層と魔物の質は対して変わらない。

 二人に任せて、次へ次へと進んでいく。


「も、もう階段なの!?」


「早すぎですよ!?」


「今回は近かったからな」


 そして、何の問題もなく第四層へ。

 その後は特筆することなく同じ手順で突き進み、第九層に到着した。


「……っ!」


「て、手強くなってきたわね……」


 第八層までの魔物は苦戦することなく一撃で仕留めていた二人だったが、ここに来てやや苦戦するようになってしまった。


 一撃では倒せず、何度か攻撃を当ててなんとか倒しきれてはいる。


 確かに俺の目から見ても第八層と第九層は、敵の質がやや変わっているように感じた。

 シルファが設定した魔物のポイントを見ても、第九層と第十層は100ポイントと他の階層の魔物に比べて桁違いにポイントが高い。


 それだけ手強くなっていることの証左だろう。

 苦戦しているとはいえ倒せているので特に問題はないのだが、二人を見ていると勿体なく感じてしまう。


 やり方次第でルリアとアリエルならまだ余裕で倒せるはずなのだ。


「今の二人じゃ力技ではどうにもならないかもしれないけど、ちょっと工夫すればどうにでもなるぞ」


 俺はそう言いながら、ルリアとアリエルが理解しやすいよう手本を見せる。

 目の前にいる魔物——金色の狼に出力を抑えた火球を無詠唱で放つ。


 ドゴオオオオンンンンッッッッ!!


 この威力では、本来あの魔物を一撃で倒すことはできない。

 しかし——


「す、すごいです……私たちと同じくらいの威力だったはずなのに、一撃で……」


「瞬殺だったわ……信じられない……」


 二人ともかなり衝撃を受けているようだった。

 無理もない。本来ならこれは、賢者の実による知識がないと難しいからだ。


「魔物の弱点を狙って攻撃したんだ。今回の場合は、狼の首の部分。基本的に多くの魔物は首に神経が通ってるから、その神経を切断するようなイメージで攻撃すれば大ダメージを与えやすい」


「シンケイ……というのはよくわかりませんが、とにかく弱点になりそうな部分を狙えばいいんですね!」


「首や胸に攻撃をするとダメージが入りやすいとは聞いたことがあるわ。でも、敵の動きが素早くてなかなか……」


 確かに、この世界でも『何となくこの辺が弱点だろう』ということは分かっている。その部分を攻撃することに課題があるのだ。


「それは、目で見てるから追えなくなるんだ。目じゃなく、魔力を感じ取れば追えなくなることはない。そのための練習を二人はしてきただろ?」


 無詠唱魔法とは、体内の魔力を詠唱に頼らず意図的に操作して使う魔法のこと。

 実はかなり高度なことをしているのだが、それに比べれば対象の魔力を感じ取るくらいは難しくないはずだ。


「あっ! なるほどです」


「確かに、それならできそうかも……?」


 二人とも気づいたようだ。

 ちょうど別の魔物が二体同時に出てきたので、様子を見守ることにしよう。


 ルリアとアリエルはそれぞれの魔物と対峙し、俺のアドバイスに従って魔力の動きを視ていることが伝わってくる。


 というのも、魔力の動きを視るというのは俺がダンジョンの構造を調べていた時と同じように自分の魔力を薄く広げて反応した部分の影を追うことだからだ。


 俺も邪魔にならない程度にこっそり魔力を広げて確認している。


「視えます! 魔力の影が見えました!」


「私も見えたわ。なるほど……さっきアレンがダンジョンの構造を確認してたのも同じ原理なのね。仕組みが分かっても魔力量が違いすぎて真似できる気がしないけど……」


 そんなことを言いながら、二人は無詠唱で火球を放った。


 ドゴオオオオンンンン!!


 ルリアの攻撃は首に、アリエルの攻撃は胸にそれぞれ命中。

 無事に急所への攻撃に成功し、一撃で第九層の魔物を一撃で葬ることに成功したのだった。


「言っただろ? できるって」


「ほ、本当にできました! アレン、ありがとうございます!」


「アレンのアドバイスのおかげよ。色々と、レベルアップした気がするわ」


「そうか、それは良かった」


 無詠唱魔法の修行においては、俺は師匠の立場に当たる。

 弟子である二人が成長してくれることは、自分の成長以上に嬉しく感じてしまう。


 ふっ、俺だってまだまだ成長途中なのだから、これで満足していてはいけないのだがな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る