第37話:ダンジョン無双

 俺がそう言うと、ルリアとアリエルの二人は口をぽかんと開けていた。

 何か変なこと言っただろうか?


「それはつまり……どういうことなのですか?」


「言葉のままだぞ。一番速く旗を取りに行って、第十層でどのパーティよりも多く魔物を倒す。そして一番乗りで地上に帰ってくるんだ」


 これの何が難しいのだろうか。

 極めてシンプルだと思うのだが……。


「ま、まあそうですね」


「まあ、アレンだものね」


 なぜか呆れられている気がするのだが、気のせいか……?

 まあいい。


「よし、俺たちのスタート地点はここだな」


 そんな会話をしているうちに、地図で示されたスタート地点に着いた。


 ダンジョンの内部は前世のファンタジー系ゲームでよく出てくる感じの様相だった。洞窟のようになっており、松明がメラメラと燃えてくれているおかげで視界が確保できている。


 開始の合図はシルファが笛の音を鳴らしたタイミングなので、まだ時間はありそうだ。


 その間にできることをやっておくか。

 俺は、考えなしに『両方重視』などと言ったわけではない。


 一見無謀に見えたとしても、確かな戦略があれば十分に現実的な作戦になり得る。


 約十秒ほどかけて俺の魔力を薄く伸ばし、第一層全体に張り巡らせる。

 こうすることで、ダンジョンの構造を分析するのだ。


 シルファからもらった第一層の地図には、第二層へと繋がる階段部分が意図的に消されている。

 つまり、この時間を短縮できればかなり早く第十層に到達することも現実的になる。


 ダンジョンの体積は有限かつそれほど大きくないため、俺の魔力量なら第一層全体を包み込む分には余裕で足りた。


 全ての構造分析が終わった瞬間——


「ピー!」


 ミッション開始の合図であるシルファの笛の音がダンジョンに鳴り響いた。


「ルリア、アリエル。こっちだ」


「え? あ、はい!」


「そっちでいいの?」


 俺は無駄なくダンジョン内を駆け巡っていく。

 途中で何度か別のパーティとも遭遇するが、どうやら他のパーティはしらみ潰しで第二層への階段を見つける作戦らしい。


「なんだかアレン……迷いがないですね?」


「もしかしてダンジョンの中がどうなっているか分かっていたの?」


「ああ、さっき笛が鳴る前に調べたからな」


 二人も俺が何の当てもなく進んでいるわけではないと気づいたらしい。


「さ、さっき!?」


「あの一瞬でどうやって……?」


「まあ、やり方は後で教えるよ。それよりも、今はミッションが優先だからそっちを考えてくれ」


「そ、そうですね……わかりました!」


「本当にアレンって何でもありなのね……」


 まあ、他のパーティが時間をかけているおかげで、こんな会話ができるくらいには余裕があるのだが……。


「あっ、魔物がいました!」


「アレン、魔物はこっちで対処するわ」


「頼んだ」


 俺はただひたすらに分析結果から得られた最短ルートを突き進み、道中の敵はルリアとアリエルの二人が倒していく。


 二人とも、修行の成果があったようで——


 ドオオオオオンンン!!


 ダンジョン内に火球による爆発音が鳴り響く。


 安定して無詠唱で高火力を出せるようになったようだ。

 俺の目から見ればまだまだ腕を上げるポテンシャルはあるのだが、短期間でよくぞここまで仕上げたものだなと感心させられる。


 あとでちゃんと褒めておこう。


「素材はどうしますか?」


「第一層の魔物はたった1ポイントだし、放っておけばいいと思う」


「そうですね、わかりました!」


 二人が協力して魔物を倒してくれているおかげで、かなりの高スピードで第二層へ繋がる階段が見えた。

 張り巡らせた魔力で階段周辺を監視していたのだが、まだ誰もここには来ていない。


 俺たちが一番乗りだった。


「スタートしてからまだ五分も経ってないわよ……すごすぎるわ!」


「私もアレンみたいにできるようになりたいです〜!」


 なぜか二人とも褒めてくれるが、本当に大したことはしていない。

 やり方さえ教えれば無詠唱魔法を覚えた二人ならすぐにできる程度のものなのだからな……。


 まあ、褒められることに関しては悪い気はしないので、構わないのだが。


 こうして、俺たちは第二層へ足を進めた。

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