第12話:新居の夜
◇
食事は学院寮内にある食堂で購入するか、材料を買ってきて部屋に備え付けのキッチンで調理して自分たちで用意するのが基本になっている。
基本……というのは朝から夕方までは学院の外に出ることもできるが、門限があるため現実的には学院寮で済ませてしまうことが多いと言う意味だ。
ルリアとアリエルはせっかくキッチンがあるのだからと料理をしようとしていたが、今日は引っ越しでバタバタしていたのと、明日からは修行で忙しくなるのでまたの機会に……ということになった。
明日の朝は早いので、早めに寝ることになり、22時頃には消灯した。
そこまでは良かった——
「…………眠れない」
今、俺はベッドの上でルリアとアリエルに挟まれた形になっているのだ。
二人は眠っているので無意識なのだろうが、左腕をアリエルに、右腕をルリアに掴まれている格好。
温かい肌の温度が伝わってくる。
なぜこうなったのかと言えば——
実は、寝る直前にアリエルがベッドの上で水を溢してしまい、乾くまで使えなくなってしまったのだ。
しかし床の上で眠るのでは十分に疲れが取れないし、かといって乾くまで待っていると睡眠時間が短くなってしまう。
苦肉の策で、俺とルリアが使うベッドを二つ横並びにして、二つのベッドを三人で使うことにしたのだ。
そこで問題になるのは、どういう並びでベッドを使うかだった。
「ほ、本当は未婚の男女が同じベッドで眠るというのは良くないことだけれど、これは私が原因なんだから、私がアレンの隣にするわ」
さすがに常識を失っている俺でも同じベッドで男女が一緒に寝るのが良くないというのは理解できた。
しかし、三人で二つのベッドを使うと言うことは、どんな並びにしてもルリアとアリエルのどちらかは俺の隣になってしまう。
もちろん俺は変なことをするつもりはないし、アリエルも俺のことを特には警戒していない。
ルリアのことを想って出てきた言葉なのだろう。
少なくとも俺はそう理解している。
しかしルリアの反応は耳を疑うものだった。
「なっ、アリエルそれはズルいですよ!」
「……え?」
「アレンのことを独り占めしようとするなんて……私がアレンの隣にいきたいです!」
なぜか、ルリアは俺の隣で眠れることを喜んでいるようだったのだ。
その理由はよくわからないが……。
「まあ、ルリアがそう言うならそれでいいんじゃないか?」
「……ダメよ」
「え?」
おかしいな。
アリエルはルリアの気持ちを汲んで提案したはず。
ルリアが喜んで俺の隣に来るというのなら、止める理由はないはずなのだが……。
「私がアレンの隣をもらうわ。ルリアがその気なら……私も負けていられないわ」
「アリエルは物わかりが悪いですね……」
……え?
なんでこんなバッチバチの展開になっちゃったんだ?
意味がわからない……。
「えーと、二人とも俺の隣が希望ってことなのか……?」
「ええ、そうよ」
「そうです」
同時に答える二人。
「……なら、いっそのこと俺が真ん中ならそれで解決なんじゃないか?」
——と、このような流れで頓珍漢なことになってしまった。
吐息が聞こえてくる。
変なことをする気がない俺だが、さすがにちょっとドキドキする。
ルリアとアリエルのパジャマはどちらも薄手な感じで、暗がりに目が慣れてくると目のやり場に困るのも相まってなかなかきつい状況だ。
「んん……ん」
ルリアが寝返りをうったタイミングで、俺に抱きついてくる。
豊満な胸が顔に当たり、ちょっと息苦しい。
な、なんだと……!?
ど、どうすればいいんだ!?
同時に、ルリアの体温がさっきより温かくなった気がする。
変な夢でも見てるのか?
「んんん……」
少し遅れて、アリエルまでルリアと同じように俺に抱きついてきた。
こっちもかなり胸が大きいため、かなり圧迫感を感じる。
アリエルの体温もさっきより温かくなっているように感じる。
二人とも少し呼吸が荒い。
暗くてよく見えないが、顔も少し赤くなっているような気がする。
それにしても二人がほぼ同時に寝返りで抱きつくなんてことあるのか……?
いや、現実に起こっているのだから疑う余地はないか。
役得なんて喜んでる場合じゃなくこの状況はちょっとまずい。
しかし、しっかり寝ろと言った俺が二人を起こすのもあれだしな……。
ここは俺が耐えるとしよう。
がんばれ、俺。
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