第13話:魔力増強の修行

 ◇


 翌朝。

 地獄なのか天国なのかよくわからない夜を乗り越えた俺は、なんとか今日を迎えることができた。


 パジャマから運動用の服に着替え、朝食を食べた後に寮を出た。


「アレン、なんか疲れてませんか……?」


「そうね。眠れなかったのかしら」


「まあ、新しい環境だったからな……」


 馬鹿正直になぜあまり眠れなかったのか説明するのもアレなので、こんな感じで誤魔化しておくとしよう……。


 万全とは言えないが、今日は俺自身を追い込む修行ではなく、二人に無詠唱魔法を教えるための修行。


 なんとかなるだろう。


 入学案内の資料を確認したところ、昨日アリエルが言っていた通り授業で使っていない間は自由に学院の施設を使っていいらしい。


 ということで、第一校庭にやってきた。


 第一校庭は入学試験の時の実技試験に使った場所であり、王都の外のフィールドを再現したような造りになっている。


「じゃあ、まずは第一校庭の周りをランニング十周な」


 昨日のうちに考えておいた修行のメニューを発表した。


「ええ!?」


「ほ、本気で言ってるの!?」


 あれ……?

 なんか思ってた反応と違うな?


 俺はてっきり、十周なら楽勝くらいの答えが返ってくるかと思っていたのだが。


「第一校庭って、一周五百メートルはあるわよ……? 十周ってことは五キロだし……しかもこれで終わらなさそうな言い方よね?」


「その通りだ。これは無詠唱魔法の修行というよりかは、その前段階としての魔力量の増強を目的にしている」


「魔力量……ですか?」


 ルリアが困惑した様子で聞き返してきた。

 アリエルも言葉にはしていないが、似たような反応。


「無詠唱魔法を使えるようになっただけではすぐにスタミナ切れを起こすからな……。魔力量の伸ばし方は色々あるが、身体能力を上げることで魔力量も伸ばす手法をまずはやってみようって話しだ」


「生命力を増やすのではなくて、魔力量の話ですよね……?」


「一般的には身体的な鍛錬は生命力を伸ばすためだけにやりがちだが、実は魔力量も増えるんだぞ」


「そ、そうだったのですか!?」


「初耳だわ……。魔力量って、魔力が回復するときに少しだけ増えるだけだと思っていたわ」


「魔力消費からの回復による総量増加も狙うが、それと同時にって感じだな」


 なぜか、現代の魔法師は技術の向上のみを目指している。

 もちろん魔力量を増やそうという思想自体はあるのだが、間違った情報ばかりで正しい修行方法というのはあまり知られていない。


 その結果、肉体自体の鍛錬で魔力量が増えることはないと信じられている。


 アリエルが言ったように魔力は筋肉のように消費し、回復するときにも微増する。

 しかし今は魔力量自体が少ないのだから、それでは成長スピードに限界がある。


「とは言っても、あまりに無理をしすぎるのは逆効果だ。五キロなら無理しすぎず楽すぎず、ちょうどいい塩梅だと思ったんだが……無理そうか?」


「いえ、そういうことなら頑張ります! アレンはそこまで考えていたのですね! さすがです!」


「ちょっとびっくりしたけど、アレンほどになるのが楽なわけないわよね。もちろんやるわ」


 二人が納得したところで、五キロのランニングがスタート。

 約三十分ほどで全員終えられた。


 不慣れな二人と同じペースで走っていたから俺は全然疲れていないのだが、二人は——


「はあ、はあ、はあ……し、しんどかったです……」


「五キロ……ちょっと舐めてたかもしれないわ……」


 このようにバテバテだった。


「そ、それにしてもアレンは凄いですね……! 全然息も切れてないなんて!」


「慣れたらこんなもんだよ。ほら、二人ともこれ飲んで」


 俺はアイテムスロットから小瓶を三つ取り出し、そのうち二つを二人にそれぞれ手渡す。

 瓶に入っているのは、薄茶色の液体。


「こ、これ何ですか……?」


「ん? 知らないのか? プロテインって言うんだが」


「ぷろていん……? 私も知らないわ」


 そうか、そういえばこの世界には無いものだったな。

 あまりに日常に溶け込みすぎていたので、みんな知っているものだとばかり思い込んでいた。


「肉や魚からタンパク質だけを取り出して水に溶かしたものなんだ。これを飲むと修行の効率が飛躍的に良くなるんだ」


「な、なるほど……! そうなのですね!」


「まるで魔法の飲み物ね……。こんなものがこの世にあったなんて……」


 そんなことを言いながら、二人はプロテインをごくごくと飲んでいく。

 俺もグイッと飲んだ。


「冷たくて美味しいです!」


「味には期待してなかったけど、美味しい……! まるでバナナみたいな……!」


「もともとの味はちょっとアレだけど、ちょっと工夫してるからな。口に合ったようで良かったよ」


 プロテイン作りのためだけにいくつか魔法を作った。

 味がちょっとアレだったので、いい感じの風味付けができる魔法を開発したのが良かったみたいだ。


「さて、そろそろ無詠唱魔法の練習に入ろうか」


 俺は空になった容器を二人から回収してアイテムスロットに収納した後、説明を始めた。

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