第14話:無詠唱魔法の修行

「今日は初級魔法『火球』を使えるようになるところまでが目標だ。具体的な方法なんだが……まずはそうだな、ルリア、詠唱魔法をここでやってもらっていいか?」


「『火球』を詠唱魔法で……ということですよね?」


「その通りだ」


「わかりました!」


 ルリアは入学試験の時に使ったカカシの方に右手を伸ばす。

 そして、詠唱を始めた。


「神より賜りし我が魔力、魔法となって顕現せよ。出でよ『火球』——!!」


 ルリアが可愛いからまだ様になっているが、やはり詠唱魔法は何度見ても中二臭いな……。


 真っ赤な火の球が出現し、真っ直ぐ飛んでいく。


 ドオオオオン!!


 カカシに着弾し、爆発が起こった。

 数値が表示される。


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 威力:358

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 ふむ、確か俺の一つ前の受験生が威力192で褒められていた。

 192ですごいということは、ルリアのこれは一般的には凄まじいのだろう。


「実演ありがとう。詠唱魔法で魔法使う時、体内の魔力はどんな動きをしてる?」


「魔力の動き……ですか? 何かが動いているのはわかりますが、正確にどういう風に動いているか感じとるところまでは……」


 アリエルも頷いているので、同様の感覚なのだろう。


「なるほど、いやちょっとでも掴めているようなら話は早い」


「……?」


 ルリアは俺の言葉の意味がまだよくわからないようだ。

 アリエルもピンとこない顔をしている。


「魔力の動きがわかったらどうなるの?」


「無詠唱魔法っていうのは、魔力の動きを意図的にコントロールするってのが最重要ポイントなんだ。だからこれが理解できればすぐに使えるようになる」


「そういうことね。でも、意図的にコントロールするなんて……」


 確かに、すぐに使いこなすのは難しい。

 しかし今日は最も簡単な無詠唱魔法を使えるようになるのが目標。

 そのくらいなら、今がこの状態でもなんとかなる。


「魔力の動きに集中して何度も魔法を撃つうちに自然と身体が覚えるようになるぞ。ただ……」


「ただ……?」


「ただ……なんでしょう?」


「早くても一年はかかるな」


 俺は『賢者の実』により一瞬で理解することができたが、これを普通に理解しようと思えばこのくらいの年月はかかるだろう。


 実際にやってみたわけじゃないので、センスの良い人間ならもっと早く理解できる可能性はあるが、おおよそこんなものだろう。


「そ、そんなにかかるんですね……」


「でも、一年で使えるようになるなら全然……というか、すぐに習得できるなんて、そんな都合が良いことがあるはずないわよね」


「いやまあ、それがあるにはあるんだ」


「「!?」」


 二人は顔を見合わせ、驚いた表情で俺を見た。


「さっき言ったのは『普通』に理解する方法の最短だけど、これは時短することもできるんだ」


 二人がゴクリと固唾を飲む音が聞こえた気がする。


「その方法なんだが……魔力の口移しだ」


「く、口移しですか……!?」


「つ、つまりアレンとキ、キ、キ、キスしろってこと!?」


「そうだ」


 何を驚く必要があるんだろうな?

 

「俺の魔力に『二人が魔力の動きを知覚することができるようになる魔法』を書き込み、それを口移しすることで吸収させ、体内で魔法を発動する。……そうすることですぐにでも無詠唱魔法の基礎くらいは使えるようになるぞ」


「で、でも……口移し以外はできないんですか……?」


「それは無理だ。体内に悪影響を及ぼさないほどに小規模な魔法だから、粘膜に直接入れないことにはすぐに書き込んだ魔法がダメになってしまう。もちろん唇以外の粘膜でもできるんだが……手っ取り早く一番都合が良いだろ?」


「そうですね! ちょっと驚きましたけど、アレンなら私全然大丈夫です!」


「まあ、アレンなら私も許せるかも……」


 二人の合意も取れたところで俺は一人ずつ唇を合わせて、俺の魔力を注ぎ込む。

 俺の魔力が吸収されたところで、魔法を発動。


 二人はハッと目を見開いた。


「わ、わかります……! 魔力の動きがハッキリと……!」


「ま、まるで別世界だわ……。第六の知覚……ってところかしら」


 第六の知覚……なかなか良い表現だな。

 俺もそんな気がする。


 視覚・味覚・嗅覚・痛覚・触覚……これに加えて、魔覚とでも名付ければ理解しやすいか?


「これが理解できた上で、詠唱魔法を使えばどんな風に魔力が流れているのかわかるはずだ。詠唱っていうのは単なる魔力を流す合言葉にすぎない。自分の意思で魔力を流しても同じ結果になるはずだ」


 俺の言葉を聞いた後すぐに二人が実践する。


「わかった気がします!」


 ルリアがそう宣言し、無言でさっきのカカシに右手を向ける。

 そして、詠唱することなく——


 ドオオオオン!!


 と、詠唱していた時と同様の火球が繰り出された。

 数値が表示される。


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 威力:358

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「で、でも威力はアレンのようにはいかないみたいです……」


 結果を見て肩を落とすルリア。


「そりゃあまったく同じ魔法式ならそうなるだろう。でも、無詠唱魔法なら自由に魔法式を書き換えられる。少ない魔力でより強い攻撃にすることもできるはずだ。これから研究していけばいい」


「そ、そうなんですね!」


 ルリアの表情がパッと明るくなった。


「私もできたわ。こんなに短期間で無詠唱魔法が……信じられないわ。アレンの指導力も凄すぎるわ……!」


「いや、俺がやったのは魔力の動きを理解させるところまでだ。これを正確に再現するにはちょっと時間がかかってもいいはずなんだが……ルリアもアリエルも大分センスが良いと思うぞ」


「そ、そうなの……?」


「アレンに褒められて嬉しいです!」


 まだよく理解していないようだが、俺の予想を大幅に上回っている。

 この調子ならすぐに初級魔法はマスターし、中級魔法にとりかかれるだろう。

 入学までに上級魔法もいけちゃうかもしれないな。


 これから、忙しくなりそうだ。


「よし、じゃあ今日は日が暮れるまで覚えたことを復習しよう。魔法の修行は積み重ねが大事だからな。……まあ、魔法に限らないが」


「わ、わかりました!」


「ええ、望むところよ」


 こうして、月日が流れていき、あっという間に二週間が経ったのだった。

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