第11話:アイテムスロット

 ◇


 学院寮の入居手続きを終えた後、俺たちは一度宿に荷物を取りに戻ってから部屋にやってきた。


 三人で部屋を共有するということで手狭になるかと心配だったのだが、思っていたよりも快適そうだった。

 十五畳ほどの洋室。


 俺たちが入る前にリフォームされているのか、新築同様の綺麗さだった。


 シングルベッドが三台とキッチンスペース、バス・トイレ別のユニットバスが完備され、これが無料で利用できると考えると破格の待遇だ。


 この学院の学院生には、将来的にこれだけの投資をしても余りある価値があると期待されているのだろう。


「わーっ! そこそこ良いお部屋ですね! 実家に比べるとちょっと狭いのが気になりますけど……!」


「学院生時代は修行みたいなものだもの。仕方がないわ」


 感動している俺とは対照的に、ルリアとアリエルの二人は少しだけ不満があるようだった。

 そういえば、ルリアは子爵家の娘であり、アリエルは侯爵家の娘。


 貴族の令嬢ともなれば、良い暮らしをしていただろうから比較すると環境はやや劣ってしまうのかもしれない。


 俺もちょっと前までは貴族だったとはいえ、実家の俺の部屋は離れにある豚小屋のような場所だったので、ちゃんとした部屋というだけでありがたいのだが……ちょっとこれは特殊だったのかもしれないな。


 兄ユリウスはそれなりに良い部屋を用意してもらっていたみたいだし……。


「荷物はこの収納スペースに入れておくのが良さそうですね。ちょうど三人分あるみたいです」


 クローゼットは上に洋服を掛けられるようになっており、下は三つの仕切りが設けられている一般的なものだった。


「ルリアはどこにするの?」


「う〜ん、一番左でいいですか?」


「ええ。じゃあ私は真ん中で。アレンは右でいい?」


「俺はどこでも」


 平和的に個人割り当てが完了し、ルリアとアリエルが荷物を詰めていく。


「あれ? そういえばアレンは荷物を取りに戻ってないのですか?」


 大荷物の二人と比較して、俺は手ぶらだったので、違和感を覚えたのだろう。


「まあもともと荷物が少なかったからな」


 約二週間前に実家を追い出された時には、荷物らしい荷物はなかった。

 それから多少生活に必要なものを購入して持ち物が増えたが、もともとそれほど多くない。


 しかし多少はあるので、取り出しておこうか。


 俺は異空間収納魔法『アイテムスロット』を使う。

 右手の先に幾何学模様の魔法陣が出現し、異空間と繋がる。


 そこから生活用品を取り出して、クローゼットに詰める。


「な、な、な、なんですかそれ!?」


「ちょ、ちょっと……! 無詠唱魔法にはもう驚かないとしてもこれは初めて見たわよ!?」


 どういうわけか、二人とも驚いているようだった。


「うん? アイテムスロットだけど?」


 そういえば、まだ二人には説明していなかったな。

 確かにこれも無詠唱魔法と同じく、今の時代には一般的に知られている魔法じゃないので、こういう反応になるのも自然なのかもしれない。


「は、初めて聞きました……! それってどういう魔法なんですか……?」


「見た目の通りだよ。異空間の入り口を開けて、物を入れたり出したりできるんだ。アイテムスロットの中に入れておけば時間が固定されて食べ物が腐らなかったり、壊れやすいものでも形を維持して持ち運べる。重いものを運ぶのにも重宝するぞ」


「す、すごい魔法ですね……!」


「まったく、アレンは驚くことばかりだわ。まだ何か隠してるんじゃないかしら?」


「い、いやそんな大したことじゃないし……べつに隠してることは何もないぞ!?」


 やれやれ。

 まさかアイテムスロットを使ったくらいでここまで驚かれるとは思わなかったな。


 無詠唱魔法と比べれば、かなり地味な気がするんだけど。


「まあこれも知りたかったら無詠唱魔法を教えるついでに教えるよ」


「その魔法も私たちにも使えるものなのですか……?」


「これは無詠唱魔法を覚えてからじゃないと習得がかなり難しいんだ。でも、無詠唱魔法を覚えられたらルリアとアリエルも問題なく使えるはずだぞ」


「こ、こんなとんでもない魔法が私にも……」


 ルリアもアリエルも大袈裟すぎないか?

 ただ物を収納するだけの魔法だぞ……?


「こんなの、例えば戦争で使えば大量の兵器を詰め込んで相手に悟られずに撃てるじゃない……?」


「ああ、そういう使い方もできるのか」


 アリエルの言うとおり、この性質自体は地味なものだが、使い方によってはかなり活躍しそうだ。


 それと同時に、広まりすぎると危険なのかもしれない。


 ルリアとアリエルは俺の目から見て悪い人間じゃないから大丈夫だとは思うが、教える相手は選んだ方が良さそうだな。


「まあ、ともかく無詠唱魔法を覚えないことには話にならないからな。明日から早速修行してもらうぞ。俺の指導は厳しいが、ついてこられるか?」


 アステリア魔法学院の入学式は今から約二週間後。

 俺のように賢者の実なしで覚えさせなければならないため、やや時間はかかるのだが、入学までに基本くらいは押さえておきたい。


「ええ、心配はいらないわ」


「わ、私も頑張ります……!」

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