第32話:大発明
「え〜、まずは我輩の指示通りに詠唱するのじゃ」
クラスメイトたちがクロムの指導で卓上扇風機作りに勤しむ中、俺は別の作業を始めた。
エアコンといえば、冷房と暖房と除湿を自由に切り替えられるようになっているのが一般的だ。
本来なら室外機を設置し、冷媒ガスによる熱交換を利用する仕組みを整えなければならない。
しかしこの世界は魔法が存在する世界なのだから、そのような面倒な仕組みを使わずとも直接熱を発生させることもできるし、逆に直接冷やすこともできる。
こんな感じかな?
俺は、五つの魔石にそれぞれ魔法を刻み込んだ。
・風を吸い込む魔法
・風を吐き出す魔法
・空気を温める魔法
・空気を冷やす魔法
・空気中の水分を取り去る魔法
そして複雑に相互の魔石同士の機能を絡ませ、まとめることで一つの装置で全てを担えるようにすることができた。
卓上扇風機用の外装なので、ボタンが一つしかない。
そのため、一回押すと暖房、二回押すと冷房、三回押すと除湿とすることで解決した。
これで完成だ!
魔道具の作り方は知識としては知っていたものの、実際に手を動かしたのは初めてだった。そのためやや苦労したものの、クラスメイトたちが卓上扇風機を完成させるタイミングには間に合わせることができた。
ボタンを一回押してみる。
空気を吸い込み初め、やがて温かい空気が出てきた。
その後冷房と除湿も試してみたが、問題ないようだった。
「な、なんか急に暖かくなったような……?」
「この時間から自然に暖かくなるわけがないわよね……」
前の座席に座っているルリアとアリエルは気が付いたらしい。
「もしかして、急に暖かくなったのってアレンが……?」
「まあ、そんなところだ」
「す、すごいです! アレンは魔道具まで作れるのですね……!」
「まさか本当にやってしまうなんて……さすがだわ!」
二人が絶賛してくれたことで、クロムが俺の席までやってきた。
「まさか、本当に魔道具を一から作ってしまったのかね……。それもこんな最小限の魔石と外装で……」
「まあ、そんなところだな。こうやって一回ボタンを押すと暖房、二回押すと冷房、三回押すと除湿だ。ちなみに四回目を押すとオフになる」
クロムの目の前で実演して見せた。
俺が作った卓上エアコンを自分でも触ってみるクロム。
「す、凄いのじゃ……! 本当に凄すぎるのじゃ……! 奇抜なアイデア自体もそうじゃが、少ない魔石でありつつも最適な処理がされておるし、魔石の刻印自体も性能を最大限に引き出しておる。……文句の付けようがないのじゃ」
「そ、そんなにか……?」
アステリア魔法学院で魔法工学を教えている講師——ということは、魔道具作りの分野においてはトップクラスの人物である。そんな人から褒めてもらえるとは……。
知識があったとはいえ、初めて作ったものなんだがな。
「もはや我輩もわからぬ技術を使っておるな……なあ、名前をなんと言う?」
「ん、アレン・アルステインだが?」
「アレン、我輩にどうやって作ったか教えてくれなのじゃ……!」
「ええ……?」
も、もしかしてだが……実力を認めさせただけじゃなく、この道のプロに勝っちゃったのか……?
いや……今に始まったことではないか。
「頼む、頼むのじゃ! あ〜、教えてくれないと気になって気になって、夜しか眠れない気がするんじゃ……」
夜眠れれば十分だと思うのだが、まあいいか。
「わ、わかったよ。でも今は講義時間だろ? そのうち、手が空いてる時間があったら教えるからさ……」
「ほ、本当じゃな!? 約束じゃぞ!? 嘘だったら我輩泣くからな!?」
「お、おう……わかったから」
俺がそう返事を返すとクロムは満足そうな顔になり、踊りながら教卓に戻った。
同時に、チャイムが鳴る。
「じゃあそういうことで、今日の実習は終わりなのじゃ〜!」
そう言うと、そそくさと教室を出て行ったのだった。
「……」
最初はグイグイ来たので驚いてしまったが、冷静に考えると変なプライドを持たずに誰からでも教えを請える……それこそが一流たる所以なのかもしれないな。
オーガスにせよ、クロムにせよ、そういうところが共通している。
俺も、誰かから教えてほしいんだが……。
まあ、今日のところは目立てたから良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます