第33話:放課後の図書館

 ◇


 三〜四限の講義時間が終わり、担任講師から事務連絡などがあるショートホームルームの時間になった。

 特に大きな連絡事項がなければ十分ほどで解散となり、そのあとは自由時間になる。


「初日の講義、みなさんお疲れ様でした。連絡事項ですが、今週土曜のクラス対抗戦についてです」


 クラス対抗戦……か。

 この学院には様々なイベント事があるのだが、入学して早々に行われるのがクラス対抗戦。

 確か昨日のホームルームでそんな説明があった。


 俺とルリア、アリエルの三人でパーティを組んだので、この組み合わせで参加する予定になっている。


「代表パーティの選出については、先生が決めるというのもアレですから皆さんに決めてもらおうと思います。しかし何の材料もないというのは困ってしまいますよね」


 シルファがそう説明したところ、教室の中がざわざわとし始めた。


「アレン君で良くない?」


「アレンのパーティが良いよね!」


「アレンがいるなら安心だと思う!」


 ふむ、どうやらクラスメイトたちは俺たちのパーティを推薦してくれそうな感じだな。

 シルファの懸念は払拭されたかと思ったのだが——


「えーとですね、今の時点でどれかのパーティを推薦するという考えもあると思いますが、もう少し熟考しても良いのではないでしょうか。……ということで、明日皆さんにはダンジョン実習を行ってもらおうと思います!」


 もともとこれを話すつもりだったのだろうから仕方ないが、なかなか強引だな……。

 というか、そもそもダンジョン実習って何だっけ。


 と思っていると、説明が始まった。


「ダンジョン実習というのは初めて聞いた人もいるかもしれません。ダンジョン実習というのは、この学院の地下にあるダンジョンを使った実習のことです」


 この学院の地下にダンジョンがあるのか。

 ダンジョンというのは、フィールド上に自然発生する魔物の巣窟。


 本来は魔力が集中する場所——魔物が多い場所にしか発生しないものだが、魔物から取れる魔石を利用することで人工的に作ることもできると聞いたことがある。


 ダンジョンを生成するほどの強力な魔力を含有する魔石など簡単には想像できないが、長い歴史の中ではそんなこともあったのだろう。


「昨日皆さんが組んだパーティでそれぞれ実習をスタートし、ミッションをクリアするまでの成果を競ってもらいます。この実習で優勝したパーティが必ず出場しなければならない……というわけではありませんが、選出するパーティを決める材料になるはずです」


 なるほど、シルファなりに色々と考えてくれたのだろう。

 なぜか俺たちのパーティが有力という見られ方をしているが、他のパーティの方が良い結果を出すこともあるかもしれない。


 他のパーティが優勝すればSクラスとしてはそれで良いし、俺たちが優勝すれば、俺を目立たせたいシルファにとってはメリットになり得る。


 どちらに転んでも良いということだろう。


「詳しい話は明日、また説明します。それでは、今日は解散です」


 こうしてショートホームルームが終わり、放課後になった。

 他のクラスも一斉に終わったようで、廊下には人が溢れていた。


「アレン、放課後は何しましょうか……」


「修行もあまり無理するのは良くないって言ってたわよね」


 アステリア魔法学院には前世での部活動などのように放課後の課外活動もあるのだが、まだ一年生には案内が来ていない。


 二人は時間を持て余してしまっているようだ。


「実は、昨日行きたいところがあったんだが……行けなくてな。今から行こうと思うんだが」


「え〜、一緒に行ってもいいですか!?」


「やることもないし、私も行きたいわ!」


「一緒に行くのは全然構わないんだが、多分そんなに面白いところではないと思うぞ……?」


 当然といえば当然なのだが、敷地内にはレジャー施設のような場所はない。

 俺が行きたいと思っていたところは、何の変哲もない図書館なのだ。


 ◇


「初めて中に来ましたけど、めちゃくちゃ広いですね!」


「本がギッシリ……こんなに立派だったのね」


「春休みの間は改修をしていたらしくて、一昨日まで入れなかったんだ。それにしても、なかなかだな」


 百万冊以上の本が蔵書されていると聞く。

 異世界では本は貴重なものだというのに、ちょっとした大学図書館並みの規模である。

 さすがは名門魔法学院といったところだろうか。


「それで、アレンには何か目当ての本があるのですか?」


「というよりも、実は調べたいことがあったんだ」


「これだけ博識なアレンでもまだ知らないことってあるのね」


「そりゃな……」


 俺を何だと思っているのだろうか。

 全知全能の神とかじゃないぞ?


 前世は普通のサラリーマンなのだ。いくら『賢者の実』を食べたからといって、知らないこともある。

 というより、あの実のせいで失ってしまったものを取り戻したいのだ。


「何を調べるのか教えてもらえたら、私もお手伝いしますよ!」


「そうね。これだけの数の本があると探すだけでも一人じゃ骨が折れそうだし」


「二人とも探してくれるのか!? めちゃくちゃありがたいよ」


 前世の図書館ならコンピュータを操作するだけで簡単に目当ての本を探し出すこともできたし、何ならネット検索をすれば本を読まずとも情報を入手することができた。


 こういった文明の利器がない世界では、頼れるのはやはり信頼できる仲間だけなのだなと実感する。


 しかし……目当ての情報が載っている本を探してもらうためには、まず俺が隠していたことを告白しなければならないな。


 変な人だと思われないように避けてきたが、寝食を共にする仲になったのだ。

 そろそろ言っても問題ないだろう。


「実は、二人はまだ気づいてないかもしれないんだが……俺には常識がないんだ」


「ああ〜、そうですね」


「え……うん。今さら……? 多分みんな気づいてるわよ?」

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