第28話:余り者
◇
一限目の座学が終わり、十五分の休憩を挟んで二限目。
二限目の科目はオーガスが担当する実技の講義だ。
俺たちSクラスの面々は、事前に知らされていた集合場所——第三校庭に集まっていた。
使う校庭は必ずこれと決まっているわけではなく、日によって異なるとのこと。今日は一年生Sクラスが第三校庭を割り振られていたということらしい。
元王国魔法騎士団でも最強と名高い魔法師による実践的な指導が受けられるとのことで、クラス中が湧いていた。
「あのレジェンドの講義……期待しかないぜ!」
「落ちこぼれないようにしないと……!」
「オーガス先生の指導は厳しいって聞くけど頑張る!」
俺もこの講義には期待をしていた。
入学試験で既にオーガスに決闘で勝っているのだが、それと指導力とは必ずしもリンクしない。
そもそも、勝ったといっても全盛期のオーガスではない。
見習うべき点は多いだろう。
キーンコーンカーンコーン。
講義時間開始のチャイムが鳴るとほぼ同時に、オーガスがサングラス姿でやってきた。
前世の知識を持つ俺としては、この外見は魔法師というより中学、高校あたりの体育教官に見えてしまうな……。
まあ、魔法実技の講師なのだからあながち間違いでもないのだが。
「うむ、全員集まっているようだな」
オーガスは名簿にチェックをつけた。
それから、今日の講義の説明を始めた。
「よし、始めるぞ。俺の指導スタイルは実戦重視だ。いくら理屈を詰めようが実戦で役に立たなきゃ意味がねえ。……ということで、俺の指導を意味あるものにするには皆の実力を正確に把握して最適な組み合わせを考えなくちゃいけないんだが……あいにく俺は入試で全員と手合わせしたわけじゃない。かといってこの講義時間中に全員と相手をするというのも難しい」
なるほど、自分が足りていない部分を他のクラスメイトから吸収させるということか。
実戦を意識するのならこの方法は理に適っているな。
それに、一定以上魔法を使える者たちが集まる場所——魔法学院のようなところでないとできない指導だ。
しかし、何やら嫌な予感がしてきた。
前世の中学、高校時代には柔道や剣道の授業でペアになって練習しろなんていう体育教官がいたのだが——
「そこで、二人一組になって決闘形式で戦ってもらおうと思う。今日のところはペアは自由に決めてくれるといい」
やっぱりかぁ……!
やめてくれ、こういうのは苦手なんだ……。
というのも、このクラスの生徒数は31人。
二人一組の組み合わせでは、一人余ってしまう。
俺は経験則的に知っている。
こういう時、俺は余り者になり先生に相手になってもらう羽目になってしまうのだ。
もしくは、先生にお願いしてもらってペアになったところに混ぜてもらうか。
憂鬱すぎる。
俺ははぁ……とため息をついた。
しかし——
「アレンは私とペアですよね?」
「何言ってるのよ、私とペアに決まってるじゃない」
ん……?
なんと、ルリアとアリエルが俺をめぐって取り合いを始めてしまった。
しかも、そればかりか——
「アレン君、私とペアになってください」
「俺と組んでくれ! 手合わせしてほしいんだ!」
「ずりーぞ! 俺が先に予約してたんだ!」
一斉に俺の周りにクラスメイトが集まってきた。
な、何が起こってるんだ……?
ボッチになって肩身の狭い思いをするかと思いきや、まったく違う反応で驚いてしまう。
住む世界が違えば扱いも変わるということか……?
それはそれとして、二人一組になるのならルリアかアリエルとできるのがベストではある。
しかし、今日の講義では二人一組の指定だ。
ルリアかアリエルのどちらかを選べば、どちらかが余ってしまう。
仕方のないことなのだが、それはなんか嫌だな。
そんなことを思っていた矢先——
「おっと、うっかりこの今年のSクラスは31人だったこと忘れてたぜ……! ふん、ちょうどいい。アレン、お前は俺とやるぞ。他の連中が弱いとは言わねえが、アレンだけあまりにも学院生レベルから離れすぎて実のある時間にもならんだろう」
「えっと……まあ、それなら仕方ないな」
結果的には想定していた通りペアはオーガスになってしまったが、孤独感はなかった。
「えー、オーガス先生ずるい〜!」
「せっかくチャンスだと思ったのによぉ」
「ってか、先生がアレンとやりたいだけなんじゃねーの?」
口々にクラスメイトたちが名残惜しんでくれた。
「ば、バカモノ! 俺が公私混同などするわけがないだろう! ちょうど一人余っちまうし、何よりアレンのことを考えて提案しただけだ! 変な勘違いをするなよ!」
なぜか焦っているように見えたが、まあそうなのだろう。
オーガスまで俺の取り合いをしようなどとは思うはずがないからな。
「アレン、一緒にできないことは残念ですがチャンスですよ! ここで目立てば目標に一歩近づくはずです!」
「それはそうね。頑張って!」
「お、おう……」
と言われても、何をどうすればいいのかさっぱりなのだが……。
「じゃあ、私とアリエルで始めましょうか」
「そうね。よろしく頼むわ」
ルリアとアリエルは自動的にペアになることが決まり、俺のスカウトに失敗したクラスメイトたちも全員がペア組みに成功したようだ。
こうして、本格的に魔法実技の時間が始まった——
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