第47話:DNA
◇
クラス対抗戦の終了後、俺は父——いや、父だったレイモンドに第二校庭を出たところで声をかけられた。
「ア、アレン……今日の試合、なかなか素晴らしかったじゃないか! いやあ、さすがは我が息子だ!」
「つい最近勘当されたような気がするんだが?」
「そ、それは取り消す! お前は優秀な息子だよ。たとえ血が繋がっていなかったとしても、俺が手塩にかけた息子であることには変わらん! あの時の俺はおかしかったんだ!」
『成人になればお前を追い出せる。この日を何度待ちわびたことか……』——こんなことを言っていた人物と同一とは全く思えないほどの変貌っぷりだった。
はあ。
俺は嘆息する。
これが手のひら返しというやつか。
もともと父レイモンドが俺を嫌っていた理由は、俺のことを母さんが浮気してできた子供であり、レイモンドと血が繋がっていないのではないか——そんな疑念を持たれていたからだった。
今でもそれが消えていることはないのは発言からも明らかだ。
しかし、名門アステリア魔法学院のSクラスに入学し、期待をかけていた兄ユリウスをも余裕で凌ぐようになってしまった今、俺は将来を期待できる人物になってしまった。
ここで寄りを戻すことができれば、俺の成果はアルステイン家の実績になる。
もはや血が繋がっていようがそうでなかろうが、どうでも良くなってしまったといったところか。
「じゃあ、一つ良いことを教えてやろう」
俺は、どうしても母が浮気をしたようには思えなかった。
母ユリスは優しく健気だった。そんな母が裏切りをするとは考えにくい。
そこからヒントをもらった。
「これを見てみるといい」
俺は、無詠唱魔法でAR映像のようなものを投影した。
そこには俺が映した二重螺旋構造をした細胞核内の物質——DNAの姿がある。
さらに俺が事前に調べていた父レイモンドと俺との間で遺伝情報が一致する塩基配列を抽出して、文字を映し出した。
実は、実家を追放された後に一本だけポケットの中にレイモンドの髪の毛が混じっていた。それを材料に色々と分析してみたのだ。
塩基配列を見比べ、どの程度一致しているかを調べることで親子関係がわかる。
現代日本のDNA鑑定と同じやり方で調べた結果、99.9%の確率で父子関係を否認できない——つまり、俺とレイモンドの間は親子関係であると言い切ってしまって良いくらいの確度で証明することができた。
「これが何を指しているのか理解できないかもしれないが、これは俺とあんたが親子であることの証明だよ。この部分の塩基配列が繰り返し一致している。まったくの他人ならありえないことだ」
この結果を見た時、俺は母が浮気などということをしていなかったことで安心したと同時に、レイモンドが血縁上は本当に父親だったことを知り、微妙な気持ちになってしまった。
「そ、そうなのか……! な、ならば尚更良いではないか! 過去のことは水に流してだな!」
「残念だが、もう戻ることはないよ。あんな追い出し方をしておいて、謝ったら水に流す——俺はそんなことができるほど人間ができていない。話は終わりだ」
「なっ、おい! 待ってくれ! アレン、我が息子よ!」
俺はギャーギャーとうるさいレイモンドを放っておき、少し歩いた先で待ってくれているルリアとアリエルの元へ駆けていった。
「あれで良かったのですか?」
「アレンのお父様、納得してなさそうな感じだったわよね」
二人は喧嘩別れをしたままで良いのかと心配してくれているようだ。その気持ち自体はありがたいのだが、俺の気持ちが変わることはない。
「ああ、あれでいいんだ」
多分、ルリアとアリエルには修復不可能な親子仲など想像できないのだろう。
かなり育ちが良さそうな感じがするから、大事にされてきたのだろうということが伝わってくる。
それが悪いと言いたいわけではない。こんな経験はしなくていいならしない方が良いに決まっているのだ。ただ、どうしてもこの微妙な感情を伝え切ることはできない。
だから、このように端的にしか答えられなかった。
「それよりも、明日はやっと休みだよな? 休みの日は学院の外にも出られるし、王都に出かけるのもいいなって思ってるんだけど」
「ああ〜! それいいですね! 私、お洋服買いたいです!」
「私も久しぶりにあのカフェに行きたいかも。試験前に立ち寄ったんだけど、すごく良くて」
やや暗かったムードが一転して明るくなった瞬間だった。
「よし、じゃあ決まりだな。明日はショッピングとカフェ……あとまあ、適当に街をぶらぶらって感じだな。あっ、もちろん朝の修行が終わってからな?」
「ええ……まあ、そうですよね。わかってます……!」
「遊ぶのはやることをやってから……当然ね」
さっきはレイモンドに冷たい対応をしてしまったが、唯一俺が感謝している点を述べるとすれば、それは実家を追い出してくれたことが挙げられる。
あのおかげで結果的にはロミオさんから『賢者の実』をもらうことができ、常識を代償にはしたもののアステリア魔法学院でも十分に通用する様々な力を手に入れることができた。
そのおかげで、ルリアとアリエルという心が通じ合う仲間と出会うことができたのだ。
前世からずっとボッチだった俺にとって二人は何者にも代え難い大切な存在になった。
ある意味、これだけは感謝してもしきれない。
それにしても、二人と出会ってからもう一ヶ月か。
なんだかんだで楽しい日々を過ごしていたせいか、時の流れが早く感じる。
しかしまだ俺の学院生活はまだまだ始まったばかり。精一杯青春を楽しむとしよう——
魔法学院の劣等烙印者〜「初級魔法しか使えない無能は出ていけ」と貴族の実家を勘当されたけど、今までの努力が報われて名門魔法学院最強の魔法師になる。俺が我が家の誇り?いやいやもう関係ないですから 蒼月浩二 @aotsukikoji
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