第45話:決勝
◇
その後、俺たちがしばらく休憩している間に準決勝の全ての試合が終了した。
俺たちの相手となるのは、Aクラスだった。
ある意味予想通りの流れになり面白くはないが、俺の思惑通りユリウスとレイモンドの鼻を折る機会でもあると考えればちょうど良かった——といったところか。
俺たちが定位置につき、試合が開始されるかと思われたその時だった。
「今回の一年生決勝では、特別ルールにて試合を行います」
というアナウンスが流れた。
特別ルールだと……?
「例年のクラス対抗戦では、やはり入学当初ということもありSクラスが有利な状況にあります。そこで、あるアイテムを装着して戦ってもらいます。普段とは違う状況の対応力が試されることになります!」
最もらしい理由をつけているが、何か奇妙だな。
Sクラスが有利でそれが面白くないというのはわからなくもないが、事前に告知がないアイテムの対応力を試して何になるというのだろうか。
対応力がもともとあるかないかのある意味運ゲーになるだけの気がする。
これが面白い試合になるというのなら結構だが、決勝戦でやる内容じゃないよな。
……まあ、そんなことを思っていても仕方がない。
決まってしまったことには素直に従うとしよう。
同じ条件になるのなら、平等ではあるはずだ。
しばらくして、学院長テルサが舞台に現れた。
その腕には、何やら怪しげなリング状の魔導具が二十四個もかかっている。
なぜか俺の方を見て少しニヤついているように見えるし、何だか気味が悪いな……。
「このリングは、特殊な魔道具での。手首、足首につけると使用者の魔力を吸って重りになるのじゃ。一つあたり五キロ。それを四肢につけてもらい、合計二十キロの重りを背負って戦ってもらおうというわけじゃ」
Sクラス、Aクラス両者ともからなんとも言えない微妙な空気感が漂うのを感じた。
そんなことをして何の意味があるのか、観客視点からして何が楽しいのか——言いたいことは皆山ほどあるのだろう。
しかし、学院長が言うことなので、無碍にはできない。
「は、はあ……」
「なるほど」
こんな答えになるしかなかった。
しかし、学院長は気にした風でもなく一人につき四つのリングを渡していく。
そして、皆大人しくリングをつけたのだった。
「た、確かに重いですね……」
「こうして立ってるだけでもかなりの重みがあるものね。大きな動きはできそうにないわ……」
俺が鍛えさせている二人でもこの反応ということは、なかなかだな。
俺も後を追ってリングをつけた。
一つ目のリングを右足首に装着した瞬間だった。
「……っ!?」
強烈な重みが足首にのしかかり、ふらっと倒れてしまいそうになった。
明らかにこれは五キロの重りではない。俺の感覚値にはなるが、五十キロはあるはずだ。
もしかして、ルリアとアリエルにも俺と同じ重りが……?
いや、そのはずはない。二人は既に四つもこの重りをつけて動けているのだ。
さすがに無詠唱魔法を使った身体強化を使えない二人がこの状態で立ち続けることはできない。
二人にはAクラスのものと同じ五キロの重りを渡したのだろう。
「どうしたのかね?」
含みのありそうな笑みを浮かべて俺をまじまじと見る学院長。
こいつ……このためにルールを捻じ曲げやがったな……?
そこまでして俺の活躍を阻止したいというのか……。
学院長という名誉ある立場になりながらこんなことをしてしまうとは……。
いや、そんなことをしているから反学院長派である改革派などという存在が自然と出てきたのだろう。
「おっと、言い忘れておったが、今回の試合はさらに特別ルールがあるぞい。普通なら三対三の試合じゃが、今回は特別に一人ずつ戦い、二勝した方の勝ちとする。では、健闘を祈る」
そう言って、学院長は立ち去っていった。
おいおい……ここまでさせるかよ……。
学院長はSクラスが勝つかどうかすらもどうでも良いのだ。
全ては俺の活躍を阻止し、目立たせないようにするためだけを考えているらしい。
これは、力が覚醒して以来の本気を出さざるを得ないようだな……。
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