第21話:不良生徒
◇
初めてのホームルームで早々に俺たちだけ退出するというのも憚られたので、他のパーティが決定し、教室を出るタイミングで俺たちも教室を離れた。
この後は明日の授業まで自由時間。
学院図書館にでも行ってみようか。
そんなことを思いながら階段を降り、一年生校舎を出た時だった。
「おい、アレン・アルステインはいるかぁー!!」
「大人しく出てこい!!」
何やら、俺を呼ぶ騒々しい声が聞こえた。
俺の名前を呼ぶのは、いかにもガラが悪そうな男たちだった。
人数は五人。
しかし何となくだが、中央の刺青が入ったスキンヘッドの男二人以外の他の三人はただの取り巻きのように見える。
制服を着ているので学院生であることは間違いなさそうだが、その制服はギラギラの装飾品が付いているなど、改造されている。
ダラシなく着崩しているのは……まあ、気にするほどのことでもないか。
初日からここまで荒れている新入生はいないだろうし、おそらく上級生だろう。
「えっと……アレン、どなたですか……?」
「アレンの知り合いなの?」
ルリアとアリエルが訝しげに男たちを見た後、俺に尋ねた。
「いや、初対面だ。何の用なのかさっぱりだが……」
まったく思い当たることがない。
しかしわざわざ俺が校舎を出てくるまで待っていてくれていたのだ。
無視するわけにもいかないか。
「俺がアレンだが……何の用だ?」
「やっと出てきやがったか」
「あんまり待たせんじゃねえぞ!」
決してこの男たちと会う約束をしていたわけでもないし、怒られる理由がわからないんだが……?
それとも、俺が常識を失ったせいで無自覚のうちに何か無礼を働いていたのか?
初対面のはずなんだが……。
「へへっ、そこを動くなよ?」
ニヤニヤ笑いながら、そんなことを言うスキンヘッドの男。
狙いがわからず突っ立っていると、急に拳が飛んできた——
「オラァ!!」
「……!?」
俺は咄嗟に身体を捻り、拳を避けた。
「チッ、外したか」
「いきなり何のつもりだ? 恨まれることなんかした覚えはないんだが」
突然攻撃されたことに衝撃を覚えながらも、心を落ち着かせ、冷静に対応する。
「安心しろ、てめえに恨みはねえ!」
「そうだ、ちょっと痛い思いしてもらうだけだ!」
そう言いながら、二人同時に魔法の詠唱を開始。上級魔法『
さっきは油断していたが、今回は違う。
俺は賢者の実により高まった動体視力を活用し、はっきりと拳の軌道を把握する。
遅い——
まるで、止まっているかのようだ。
反撃に転じようと足に力を入れた瞬間、入学式前のことを思い出す。
上級生二人から攻撃を仕掛けられ、その後理不尽にも学院長に詰められてしまった。
あの時オーガスがたまたま見てくれていなかったら、いきなり停学などになってしまっていたかもしれない。
俺は魔法を何も使わず、攻撃を避けることだけに徹した。
ドオオオオオン!!
炎の礫が校舎の壁に衝突してしまう。
「チッ……すばしっこいな」
「こうなったら、もっと規模のデカい魔法を……」
不穏な話が流れるや否や、後ろの取り巻きの一人が二人に近寄った。
「親分、これ以上はやべえっすよ」
「ンだと! ここで俺たちに引き下がれってか!」
「冗談じゃねえ! メンツが潰されたままになっちまうだろうが!」
「ち、違うっすよ。それよりもこっちの方が……」
突然の戦闘からの小休止。
周りには多数の学院生もいたことから、ざわざわとした声で男たちの声は聞こえなくなってしまった。
「よし、それでいくか」
何か妙案を思いついたとばかりに、スキンヘッドの二人が拳を握り締めた。
「おい、アレン・アルステイン。てめえに決闘を申し込む。断ることは許さねえ」
なるほど……。
闘技場ならもっと大規模な魔法を放っても怒られることはないということからのアイデアなのだろう。
しかし、どうにも腑に落ちない点がある。
「決闘を断るつもりはないが……いったいなんで俺を目の敵にするんだ? 理由を教えてくれよ」
あの二人……いや、それどころか五人ともに面識がない。
決闘をする理由もわからないままに上級生と戦いたくなどないのだが……。
「てめえに教える義理は——」
スキンヘッドの男がそう言おうとした瞬間。
取り巻きの男たちの後ろから見たことがある上級生二人がやってきたのだった。
「あっ……さっきの……」
なんと、講堂前でトラブルになった上級生たちだった。
「アレン・アルステイン……てめえのせいで俺たちの優秀な成績にケチがつくハメになっちまった! これは許されねえ!」
「そうだそうだ! 俺たちはお前がボコボコにされるところを見物してやろうってわけだ! お前がこれから相手にするのは三年生だ! それも三年生の最高峰! 俺たち二年生とは一味違うんだぜ!」
なるほど……自分たちでは敵わないから、さらに上級生の力を借りようというわけか。
アステリ魔法学院の学院生は、一年の単位でグンと強くなると言われている。
個人の才能は言わずもがな、その教育の素晴らしさによるものだ。
しかし……さっき少し戦った感じからすると大したことがないと思ってしまったのは俺の気のせいだろうか。
「でも、どうしてその二人に手を貸すんだ? 手を貸したところでメリットなんかないだろ。むしろここで暴れるのはリスキーだと思うが……」
これは、純粋な疑問から出た言葉だった。
俺に恨みを持つ二年生の二人が三年生の手を借りたいと思うのはわからなくもない。
しかし、いくら素行が悪そうな三年生だとしてもわざわざ手を貸してやる必要はなさそうに思える。
何か弱みでも握られているのか?
いや、だとしても力で勝るのだから、脅す脅されるの関係にはならないはずだ。
「それはまあ……大人の事情ってやつだよ。てめえには関係のないことだ!」
さっきと比べると、やや歯切れが悪いな。
力で劣る二年生の頼みを聞く理由……。
なるほど……ピンときた。
カネで俺への復讐を引き受けたのだろう。
着手金いくら、成功報酬いくらなど……具体的にどういった契約になっているかはわからないが、それくらいしかなさそうだ。
だからさっきも俺に恨みがないにもかかわらずカッとなっていたのか。
そうだとすれば、納得できる。
やれやれ。
学院生はそんな余計なことはせずに本業である学業に打ち込めば良いものを……。
「アレン、こんな理不尽な決闘受けなくていいと思います」
「そうよ。オーガス先生に報告した方が」
ルリアとアリエルの二人は俺を心配していた。
しかし二人が心配する方向性は俺が負けるのではなく、また学院長に目をつけられ、不利な状況になってしまわないかという懸念だ。
同じ屋根の下で生活しているからか、考えていることがなんとなくわかる。
「それも一理ある。でもちゃんと力の差を見せつけないとしつこく迫ってきそうだし、それに——」
「てめえ、断ったらどうなるかわかってるよな? 困るのはてめえじゃねえぞ! Sクラスの連中を手始めにボコボコにしてやる。そこにいるお前の女は特別に可愛がってやるよ!」
「ちょ、何勝手なこと言ってるんですか!?」
「そ、そもそもまだアレンの女とかじゃないわよ!」
こういうことを言うのは想定できていた。
この手の輩は嫌がらせの手法に精通しているのだ。
それにしても、アリエル……言葉の綾だとは思うが、『まだ』っていうのは変な誤解をされそうなので注意した方が良いぞ……。
後で注意しておくとしよう。
「逃げも隠れもしねーよ。じゃ、第二校庭に向かうとしよう」
「へへっ、物わかりがいいじゃねえか」
「そうこなくっちゃな。おい! この辺にいる一年連中もまとめて闘技場に来い! 『烙印』の無様な姿を見せてやるぜ! 来なかったらぶっ殺す!」
おいおい……そんなこと言って、自分たちの首を絞めていいのか……?
俺が負けることは天地がひっくり返っても100%ないだろう。
後のことは知らないぞ……?
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