第20話:パーティ決め
◇
それから20分ほどで全員の自己紹介が終わった。
俺は既にクラスメイト全員の顔と名前を覚えている。『賢者の実』を食べてからというもの、どういうわけかわからないが、記憶力が飛躍的に上がった気がする。
賢者の実に記憶力上昇の効果はなかったはずなのだが……前世の大学受験で鍛えた暗記術が多少今でも意味を成しているのかもしれない。
「それでは、今日は皆さんにパーティを組んでもらい、パーティリーダーを決め終わったパーティから解散としますね」
パーティとは、冒険者などがよく使う言葉であり、パーティリーダーとそれ以外で構成される小規模な仲間集団の最小単位とされている。
「来週、早速ですが一年生は親睦を深めることを目的としたクラス対抗戦があります。クラス対抗戦は各クラスから代表パーティを選び、その代表者が第二校庭——闘技場でぶつかり合うことになります。Sクラスの皆さんは成績上位者ですが、実戦となると下克上が起こることはあり得ます。注意して臨んでくださいね」
そう説明すると、シーファ先生は黒板に10パーティ分の名前が書けるよう線を引き、区分けした。
「パーティ構成は原則3人。ただし、このクラスは31名ですから、1パーティのみ4人の構成を認めます。代表パーティとなった場合クラス対抗戦に出場できるのはパーティのうち3人のみとなってしまいますが……。それでは、自己紹介も終わったことですし皆さん自由に席を立って決めてくださいね」
シーファ先生の説明が全て終わるのと同時。
教室の中がガヤガヤと騒がしくなってきた。
……こういうのは勘弁してほしいんだがな。
前世の俺は自由に決める系のやつが苦手なんだ。
誘って断れたらどうしようと不安に思い、誘われるのを待つうちに誰にも誘われず一人ポツン。
お情けで枠が余っていたところに入れてもらうという構図がいつの間にか出来上がっている。
はあ……。
俺はため息をついた。
転生しても性根の部分は変わっていないらしい。
どうせ前世と同じことになるのだろう。
と、そんなことを思っていた時だった。
「三人ってことは……アレンとアリエルと私でちょうどですね!」
「そうね、バラバラにならなくて良かったわ」
前の座席に座っているルリアがパズルのピースがハマったが如く嬉しそうな顔で呟き、アリエルもそれに同調していた。
「え、俺も二人のパーティに入っていいのか?」
「と、当然じゃないですか!?」
「なんでアレンをハブろうって話になるのよ!?」
二人が目を丸くして、意外そうな顔をしていた。
ふむ、どうやらいつの間にかグループ分けで自然に組めるようになるほどには仲を深められていたようだ。
意識できていたわけではないのだが、学院生活の中でなかなか良いスタートを切れていたらしい。
「ふむ、じゃああとはパーティリーダー決めるだけか。ちょうど三人だし、多数決で決めるか?」
「決めるまでもなくリーダーはアレンですから!」
「アレンの他に誰がいるのよ!?」
二人はなぜか呆れたように俺を見ていたのだった。
「なんで俺なんだ?」
「だって一番強いですし、それに頼りになります!」
「学院生同士とはいえ、本来的にパーティリーダーはパーティメンバーの命を預かる立場よ。一番強い人がなるべきだし、それに……」
「それに?」
「アレンに指図するなんて私にもルリアにも無理よ。アレンは私たちの力量を理解できているけれど、私たちはまだアレンの全部をわかっていないもの」
「なるほど、そんなもんか」
「ということで、決まりですね!」
二人の中では、俺がパーティリーダーになることは当然らしい。
常識を失っている関係でピンと来ていなかったのだが、アリエルの説明を聞くと確かに納得できる。
俺がパーティリーダーとして相応しいかどうかは微妙なところだと思うのだが、まあ全力を尽くそう。
そんなこんなで、俺たちのパーティ決めは開始一分ほどで全てが定まってしまった。
なのだが……。
「アレン君……だよね。俺たちとパーティを組んでくれないか?」
「俺たちが全力でサポートするからパーティリーダーになってくれないか!?」
「私たち、アレン君に従いたいです〜!」
一人が俺に声をかけてきたのを皮切りに、多数のクラスメイトたちが俺を同時に誘ってきたのだった。
めちゃくちゃありがたいのだが、困ったな……。
たくさん誘ってもらえても、俺の身体は一つしかない。
どこか一つのパーティに所属するしかないのだが……。
「アレン、他のパーティに行っちゃうんですか……?」
「アレンが行きたいなら私たちに止める権利はないけど……」
ルリアとアリエルの二人はソワソワしているようだった。
さっきパーティが決まった時とは対照的な不安そうな感じだった。
常識がない俺でも、俺がパーティを抜けることで二人が悲しんでしまうのはわかる。
「誘ってくれてありがとな。でも、悪いがもうこの二人と先にパーティを組むことに決まったんだ。また機会があったらよろしくな」
俺は迷わずそう答えたのだった。
「なるほど、それなら仕方ないね」
「ルリアちゃんとアリエルちゃんならお似合いだよなあ」
「もっと早く声かけてれば良かったぁ……でもでも、同じクラスならまたチャンスはあるわよね、うん!」
どうにか納得してもらえたようで良かった。
まったく誘いがこないのは当然辛いが、誘いがありすぎるというのもなかなか心にくるものがあるんだな。
断るだけでかなりエネルギーを使ってしまった気がする。
「というわけで、先生に報告に行くとするか」
「は、はい! 良かったです……アレンがどこかに行ってしまうと思いました……」
「ま、まあ勝つためにはアレンが必要だし? 私も良かったと思うわ」
二人も安堵しているようで何よりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます