第22話:不平等な決闘
◇
近くにいた一年生を引き連れ、俺たちは第二校庭——闘技場についた。
闘技場を囲むように設置された観戦席は本来全学年とゲストを収容できるほどに大規模なものなのでややまばらな感じを受けるが、ゲリラ的に始まった個人の決闘でこれほどの人数が集まることはそうそうないだろうと思われる。
あまり目立つのは好きではないが、まあ入学試験で多少目立ってしまったから今更か。
俺はやれやれと嘆息する。
「それにしても、五対一で決闘とはな」
「てめえが承諾したんだ! ルール上は問題ねえだろ!」
「いや、べつにルールについて今更何か言いたいわけじゃないんだがな」
怪我人が一人で済むところを五人に増やしてしまうのは、医務室の先生に申し訳ないと思ってしまう。
実は、移動中に決闘のルールについて彼らと話し合った。
一年生全員の安全を人質に取られてしまった俺に反論の余地などなかったので、ほぼそのまま受け入れた形になるが……。
話し合いでは、基本的に一般的な学院内の決闘と同じく『殺しは禁止』、『意図的に障害が残るような卑劣な攻撃は禁止』、『一方の降参か、戦闘不能で勝敗を決する』といったものだった。
しかし、一つ通常の決闘とは明確に異なるルールを押し付けられてしまった。
それは、俺は一人で参加するが、敵となる五人は全員が参加するというもの。
スキンヘッドの男二人と、その取り巻き三人。
正直大した実力はないと判断しているが、このような卑怯なやり方で勝ちに拘るとは……哀れでしかない。
それにしても名門アステリア魔法学院の学院生は皆誇り高い人間だと思っていたが、幻想だったようだ。
いや、学院長がアレなら仕方がないことかもしれない。
「つまんねー会話で時間を引き伸ばそうたってそうはいかねえぜ。さっさと始めようじゃねえか」
「そうだ、卑怯な手を使うんじゃねえ!!」
どっちが卑怯なんだよ……と思ってしまうが、まあツッコミを入れるとキリがない。
「引き延ばすつもりはないよ。さっさと攻撃を始めたらどうだ?」
「この期に及んで先手は譲ると……そのやせ我慢だけは評価してやる!」
そう言った後、同時に詠唱を始める五人。
「「「「「神より賜りし我が魔力、魔法となって顕現せよ。出でよ——」」」」」
「はい、遅い」
パリンッ!
俺はアリエルとの決闘で使ったのと同じ技術——不活化魔法を使った。
この魔法により、構築中の魔法式が崩壊し、彼らの魔法は不発に終わってしまう。
「は!? な、なんだよ今の!?」
「ま、まさかこいつがやったのか!?」
「あ、ありえねえよ!」
「な、何かの偶然に決まってる!」
「もう一回やるだけのことだ!」
ふむ、一回では偶然だと捉えるか……。
人間には正常性バイアスというものがあると聞いたことがある。
自分にとって都合が悪いことを無視したり、低く評価してしまう心理学の概念だ。
今目の前に起こった魔法のキャンセルが俺の魔法だと信じたくないのだろう。
「「「「「神より賜りし我が魔力、魔法となって顕現せよ。出でよ——」」」」」
「何度やっても同じことだ」
パリンッ!
新たに構築を始めた魔法も、俺の不発化魔法により消滅してしまった。
その瞬間、彼らが疑っていた……いや、信じたくないと思っていた事実が現実に突きつけられたのだろう。顔が強張ったのが確認できた。
俺はそのタイミングで勢いよく地を蹴り、二人のスキンヘッドの頭を殴る——
ガツン! ガツン!
「ぐえっ!」
「痛っ……!」
そのまま止まらず三人の取り巻きにもパンチとキックで一撃を与えた。
この程度の相手、魔法を使うほどでもない。
鍛えた筋肉だけで十分だ。
「ちょ、ちょっとやめてくれ! 頼む、この通りだ!」
「降参だ! 許してくれ!」
「俺の負けだ!」
取り巻きの三人が同時に悲痛の叫びを訴えた。
降参は決闘を終了する理由になるが——
「お前たちは五人で一組なんだよな? 全員一致で負けを認めるということでいいのか?」
俺は静かな声で尋ねた。
すると——
「て、てめえらふざけんじゃねえっ! こんなガキに負けを認めてたまるか!」
「そうだ! ここで辞めるってんならお前らの残りの学院生活どうなるかわかってんだろうな?」
スキンヘッドの二人が取り巻きに喝を入れたのだった。
もはや、取り巻きの三人は戦意消失してしまっている。
しかしスキンヘッドの二人の脅しが効いたのか——
「ひ、ひい……わ、わかりました」
「逃げるも地獄か……」
「も、もうどうにでもなれ!」
もう一度向かってきたのだった。
「はあ」
降参してくれていた方が楽だったのに……。
俺はため息を吐きながら、五人を仕方なく蹂躙したのだった——
およそ五分後。
五人は意識を失い、医務室に運ばれていった。
これでやっと正式に俺が勝ったということになる。
彼らが担架で運ばれてすぐ——
「す、すげえええええ!!!!」
「あ、あの噂は本当だったのね!」
「まさか俺たちと同じ一年が三年に勝っちまうなんて!」
「っていうか、さっきの相手の魔法を封じたやつ、どうやるんだ!?」
「きゃー素敵!」
なぜか、観戦席から見ていた一年生が俺を称えていたのだった。
俺としては普通のことを普通にしただけにすぎないのだが……まあ、評価されるのはそれなりに嬉しいものだな。
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