第26話:二人の詰問
◇
シルファの部屋で夕食を食べた終えた後、学院寮の俺たちの部屋に戻ってきた。
あの後も気になったことを都度聞いていたので、時間にして三時間くらい滞在しただろうか。
想定していたよりも長くかかってしまった。
明日は初めての授業日でもあるし、予習をしたら寝るだけになりそうだ。
「ただいま……って、どうしたんだ!?」
部屋に入って早々、ルリアとアリエルの二人に両サイドで挟まれ、じーっと視線を向けられた。
「何か言いたいことはありますか?」
「ただいまとは言ったが……」
「そうですか。言い訳は特にないと」
「じゃあ事情を話してもらおうかしら」
アリエルが言うと、ルリアもうんうんと頷く。
「待て待て、何のことだ? 状況が全く掴めないんだが……?」
「アレン、時計を見てください」
ルリアに言われて、部屋に備え付けの壁掛け時計を確認する。
なんの変哲もないただの時計である。
チクタクと一定周期で針が動いている。
壊れているようではなかった。
「21時30分……それがどうかしたのか?」
「シルファ先生の部屋に向かったのは何時だったかしら?」
「18時過ぎだったかな……? あまり正確には覚えていないが」
「ええ、まあそのくらいね。つまり、何が言いたいかわかるわね?」
………………。
俺は、頭を捻って二人が何を意図しているのか考えてみた。
二人と離れてから戻ってくるまで約3時間30分。
これは俺の感覚と一致している。
しかしこれ以外は全くわからない。
「すまん、さっぱりだ」
「はあ」
「やれやれですね」
ため息を吐かれてしまった。
なんだ? これは、前世で子供が遊びでやってたなぞなぞとかそういうアレなのか?
「いいですか、私とアリエルはアレンの帰りが遅かった理由を聞きたいのです!」
「その通りよ。ご飯を食べて少し話をするだけでこれだけ遅くなってしまうものなのかしら」
なぜか二人から疑いの眼差しを向けられてしまう。
なんか、すごく大きな誤解をされている気がする……。
「思いの外、長話になっちゃっただけだぞ!?」
「ほう……長話ですか」
「そこ詳しく」
より疑いの色が濃くなった気がする。
なんか話すたびに状況が悪化している気がするぞ……?
「待て待て、何か誤解しているようだが……二人きりじゃなかったぞ? 実はシルファの部屋には俺とシルファの他にもう一人いたんだ」
「な、な、な、なんですって!? だ、誰ですか!」
「アレンがそこまで見境のない男だとは思わなかったわ……」
怒り心頭のルリアに、落胆するアリエル。
「誰って、オーガスだけど……」
オーガスっていつの間にかそんなに嫌われていたのか……!?
などと心配していたところ——
「あ、なんだ。オーガス先生なんですね」
「男性の先生も一緒ということね。最初からそう言ってくれればよかったのに」
「……なんかすまん」
どうやらオーガスは嫌われていなかったらしい。
……よくわからん。
ひとまず二人が落ち着いてくれたので良しとしよう。
「あっ、それでどんなお話をしてきたのですか? オーガス先生まで一緒というのが少し気になります!」
「ああ、それは話そうと思ってたんだ。ちょっと長くなるが……」
ルリアとアリエルは同じクラスメイトであり、パーティメンバーなのだ。
目的達成のためには二人にも協力してもらった方がいい。これはオーガスとシルファも同意してくれている。
まだそれほど長い付き合いとは言えないが、寝食をともにしていることもあり、密度が濃い関係を築けている。
話しても問題ないだろう。
俺はさっき聞いた話をなるべく正確に伝えるよう努めた。
「なるほど……そういうことだったのですね!」
「つまり、アレンが目立てるように協力すればいいのね?」
「そういうことだ。変なお願いなんだが……協力してくれるか?」
俺は、やや緊張した面持ちで二人を見る。
「もちろんですよ〜! 私もアレンの凄さを知ってもらうのは大賛成です!」
「私も当然協力するわ。そもそもアレンは凄いのだから勝手に目立つと思うけどね」
「あ、ありがとう……!」
『そもそも』俺が凄いのかどうかは議論の余地があると思うが、パーティメンバーの二人が協力してくれるのは心強い。
色々な作戦が考えられるだろう。
明日からの授業……不本意だが、なるべく目立てるように頑張るとしよう。
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