第24話:シルファの部屋
◇
担任講師シルファとともに、教職寮へ。
学院生向けの学院寮とほぼ変わらない構造だが、講師陣の方が人数が少ないだけに建物自体はコンパクトだ。
階段を上り、二階へ。
シルファの部屋に到着した。
「どうぞ」
「お邪魔します」
シルファの部屋は全体的に白色のカラーで統一されており、女性らしいものになっていた。
学院生用の部屋と広さ自体は変わらないが、講師たちは一人につき一部屋が割り当てられているため、なんとなく広いような感じを受ける。
キッチンからはトントントンという音が聞こえてきた。
何の音だろうと目を向けると——
「おっ、来たか」
と声をかけられた。
「オ、オーガス!?」
なんと、そこには入学試験の際に世話になり、入学式の前のトラブルで助けてくれた魔法師オーガスの姿があった。
トマトとキャベツのスープ、きのこのサラダ、鶏肉のバターソテー。
……どれもなかなか美味しそうだな。
「俺がここにいるのがそんなに意外か?」
「いや、料理できるんだなって」
「そっちかよ……。俺だって料理くらいできるぞ」
よく考えてみれば、確かにその通りだ。
身体のサイズがちょっとばかりでかいからといって料理ができないわけではない。偏見は良くなかったな。
「まあそんなことより、料理を運ぶぞ。手伝ってくれ」
「ああ」
シルファの部屋でなぜかオーガスが料理をしているという奇妙な状況。
初めは驚いたが、よく考えてみればわざわざ密室にまで一人で呼ばれているのだ。
外では話せない何かがあるのだろう。
そして、その話にオーガスも何か関係している。
……だんだんと話が繋がってきた。
「よし今日は完璧だな。味見はしてないが」
彩りよく盛り付けられた料理が食卓に並んだ。
味見をしていないというのはやや気になるが……。
「大丈夫よ、オーガスの料理は美味しいわ」
俺の心の声を察したのか、シーファが自信満々に言う。
まあ少なくとも見た目は美味しそうだし、まずは一口食べてみるとしよう。
パクッ。
「——美味い!」
例によって俺は食レポのプロではないので大した感想は残せないのだが、深みのある味わいがあり、レストランで出てきても不思議ではない。そんな感じだった。
「ふははっ! そうだろ!」
オーガスは満足気に微笑んだ。
「よかったね、オーガス」
「うむ」
顔を見合わせる二人。
なんかこの二人、やけに仲が良いな……。
単純に今日の話のためだけに集まっているというわけではなさそうだ。
「いつも二人で食べてるのか?」
「いつもってわけじゃないが……まあ、たまにな」
「そうなのか」
「そんなに意外かしら……?」
「ああ、シルファがそういう趣味だとは……」
と俺が言うと、シルファの顔が赤くなった。
「そ、そういうのじゃないのよ!?」
「そうだぞ! 俺とシルファは兄妹なんだからな! 変な勘違いはするなよ!」
「あれ、そうなのか……!?」
その話が本当だとすると……。
う〜む……。
「アレン、全然似てないとか思ってるだろ……」
「い、いやそんなことはないぞ……。イヤーメチャクチャニテルナーって思ってたんだ」
「棒読みじゃない!?」
いや、だって仕方ないだろ!?
オーガスは筋骨隆々の戦士のような見た目。
シルファは華奢で転んだら簡単に怪我してしまいそうな見た目。
血が繋がっているとは到底思えないぞ……。
まったく、異世界とはよくわからないことがあるものだな。
とはいえ、二人が兄妹なのだとすれば、男女が同じ部屋で過ごすというのも納得のいくものだ。
あれ……? そう考えると俺とルリア、アリエルの過ごし方がやや常識からズレているような気もするが……まあ、修行のためにその方が都合が良いのは事実だ。
そう考えればそれほどおかしなことではないだろう。
「やれやれ。ところで今日アレンにわざわざ来てもらったのは、ちょっと話しておきたいことがあったってのもあるんだ」
「なるほど、聞かせてもらいたい」
ようやく本題か。
もとより食事以外の理由があるとは思っていたので、特に驚きはない。
「アレンもよく知っていることかとは思うが、学院長はアレンを……というよりも庶民をかなり毛嫌いしていてな」
「……そうだな」
俺は入学当初……いや、入学試験の時点から立場を利用した嫌がらせ受けている。
「でも、学院組織全体がアレンを受け入れていないとは思わないで欲しい」
「……? それはどういうことなんだ?」
「実は入学試験の後……夜に合格者決定会議が行われるんだが、当初はアレンを不合格にしようということで話を進めていた。あの時はシルファが学院長に食い下がってくれてな、『劣等烙印者』……などと蔑称がつく不本意な形ではあるが、他にも賛成者がいたこともあって入学を許可されたという経緯がある」
「……そうだったのか」
全科目満点だというのに最下位……それも例年よりも合格枠を一つ増やした形での合格。
奇妙な入試結果だとは思っていたが、裏でそんなことがあったとは。
「まあ、アレンの場合はつい最近までアルステイン男爵家の子息だったということで、完全な庶民とは言い切れなかったところも妥協を引き出せた理由ではあったと思うがな」
「そうだとしても、俺のために食い下がってくれたおかげで今に落ち着いたんだろ? ……ありがとな」
俺はシルファの方を向き、礼を言う。
「気持ちは受け取るわ。でも、アレンが気にする必要はないの」
「その通りだ。そもそも貴族か庶民かというだけで評価を変えるというのはアステリア魔法学院の主義と異なる。古株にはまだこの考えの者がいるようだが、半数近くは学院長の思想に近くなっている」
……っ!
逆に残りの半数は貴族と庶民で差別をしないのか。
これは驚かざるをえない。
確かにクラスメイトたちは俺を庶民だからとあまりバカにはしなかったが……。
「これは学院長の人選によるものだが……っと、その前に学院長がなぜ庶民を嫌うようになったのかを話さなきゃな」
「え、元から嫌ってたんじゃないのか?」
「違う。……いや、学院長に就任した時には既にそうだったが、昔は違ったようだ」
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