第16話:魔法学院の劣等烙印者

 ◇


 入学式当日。

 俺たちは制服を着て、入学式が行われる講堂に向かっていた。


 アリエルは入学試験一位——主席合格者ということで新入生代表挨拶があるということで、俺たちより先に到着している。


 しかし、奇妙な違和感があった。

 違和感……と言うにはハッキリしすぎているのかもしれないが……。


「俺だけ制服が違うようだな……」


 他の男子生徒は、白を基調とした爽やかなブレザーにパンツの格好だったが、俺だけが黒色の制服のようだった。


 学年による差異があるのではなく、入学式が執り行われる行動に向かっていく者たち全員が共通。

 慣れた様子で学院を闊歩する上級生たちも皆同じ制服を着ている。


 合格発表日に制服を受け取り、学院寮に入った後、もちろん確認はした。


 すぐにルリアとアリエルとは違う色だと気づいたが、男女の差によるものだと勝手に理解していたのだが……どうやら違ったようだ。


「おかしいですよね……。学院に連絡した方が良さそうです」


「そうだな。……でも、これは不手際で起こるようなものでもなさそうだが……」


 肩にはアステリア魔法学院の校章——杖の模様が刻まれており、他の学院のものと間違えたわけではない。


 俺の制服一着だけを間違えたというよりは、俺の制服だけが特別製だと考えた方がしっくりくる。


 とはいえ、そんなことをする合理的理由もないのでやはり結論は出ないのだが。


「入学式の受付はこちらです」


 講堂の前で、上級生と思しき二人組の男子生徒が新入生を案内してくれているようだった。


 どうやら、ここで新入生の出欠確認をしているらしい。


 俺とルリアは受付に歩いていく。


「ここで名前を名乗ればいいのか?」


「ああ、名前をこの紙に書いて——って、ふっ、黒い制服……『烙印』の名前はわざわざ書く必要ねえわ」


 なぜか、初対面だというのに嘲笑されてしまった。


 烙印? なんのことだ?


 これがこの学院での常識なのか? かなり不愉快だったのだが……。


「隣のお嬢さんはここに名前書いてね」


「え? はい……」


 ルリアもちょっとした違和感を覚えたような雰囲気。

 おかしいと思ったのは俺だけじゃなかったらしい。


 ルリアが名前を書いて、上級生に手渡す。


「ルリア・イグニストね。君はどこでも空いてる席座っていいよ。横の烙印の男は立ち見な。席空いてても座るんじゃねーぞ!」


 『烙印』というのは俺のことを指しているらしく、二人組の男は両方がニヤニヤと俺を見ていた。


「……は? どういうことだ?」


「へへっ、烙印に席はねーって決まってんだよ!」


「そうそう、まあ新入生はまだ知らねえだろうがじきに分かるだろうよ」


 立っていられないわけではないが、空いている席があっても座っちゃいけないっていうのはどういうことなんだ?

 というか、普通は新入生の座席は人数分用意するものだろう。


 意味がわからない。


「あ、あの! それおかしいと思いますよ! その冗談は面白くないです」


 ルリアは、俺の言葉を代弁してくれた。

 本気で怒っているようだ。


 まだ出会ってからそれほど長いわけではないが、それでも二週間以上同じ屋根の下で過ごした俺が初めて見るルリアだった。


「うん? なんだてめえ烙印のくせにこの可愛いお嬢ちゃんとデキてんのか?」


「いや……」


「へへっ、そうだよなあ! んなわけねえよなあ! 黒い制服……それは庶民枠の雑魚……いや、ゴミを示している! 知ってるか? その制服、通称『劣等烙印』って呼ばれてるんだぜ。へへ、烙印野郎にわざわざ教えてやるなんて俺優しいー! ねえルリアちゃん惚れたでしょ?」


 なるほど、この制服はそういうことだったのか。

 確かに俺の名前は合格発表の際、【庶民枠】と書かれていた。


 この黒い制服は、庶民を示すものだったとはな……。


 こんなことを天下のアステリア魔法学院がやっていたことにまず驚くが……意図がよくわからないな。


 他の合格者に対する当て馬ってことなのか?


 全員を平等に教育するのではなく、一人は捨て駒とし、他の生徒のガス抜きに使うとすれば、意図はわからなくもない。


 しかしこれを考えた奴は人の心があるのか心配になるな。


「こ、こんなクズに惚れるわけないですから!」


 デリカシーの欠片もない男子生徒にビンタをしようとするルリア。


 ガシッ。


 だが、俺はその手を止めた。


「な、なぜですか!?」


「そんなことをしたら、ルリアの手が穢れる。……入学早々、問題を起こすべきじゃないだろう」


「そ、それはそうですね……」


「それに、俺のために怒ってくれるのはありがたいが、学院側の意思によるものが大きい。こいつらに何か言ったところで何の意味もない」


「……」


 俺の説得により、ルリアは手を下ろした。


「おいおいおいおい、黙って聞いてりゃ、誰が穢れてるだって……?」


「聞こえなかったのか? お前たち二人にそう言ったんだが。頭だけじゃなくて耳まで悪いようだな」


「こ、こいつ一年のくせに……それも烙印の分際で生意気なんだよ!!」


「ああ、先輩を侮辱したらどうなるか、思い知らせてやる!」


 何かイラつかせるようなこと言ったかな?

 だとしたらこんなやつとはいえ一応謝っておこう。


 あまり面倒ごとを起こすのは好きじゃないからな。


「俺はどうも常識がないみたいでな。思ったことを素直に言ってしまう癖があるんだ。イラつかせてしまったようなら済まないな」


「ンだとゴラアァ!」


「こ、こいつ……もう謝っても勘弁しねえからな……!」


 あれ? なぜかわからないが、余計にイラつかせてしまったようだな。

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