第17話:責任の所在

「神より賜りし我が魔力、魔法となって顕現せよ。出でよ、炎のつぶて……『太陽の粒サン・グレイン』——!!」


「神より賜りし我が魔力、魔法となって顕現せよ。出でよ、我が大地の災厄……『血塗られた大地ブラッディ・アース』——!!」


 上級生二人が魔法を詠唱した。

 ちなみにどちらも上級魔法。


 かなり殺傷能力の高いものだ。


 無論、アリエルと決闘した時のように魔法の発動を止めることもできるが、今回はそうしないことにした。


 単純に上級生の実力がどの程度なのか気になっていたのだ。

 王国一の名門魔法学院。


 ここで一年か二年かわからないが、学んだ結果どうなったのか——


 『太陽の粒サン・グレイン』は、小石サイズの炎が降り注ぐ火属性魔法。

 『血塗られた大地ブラッディ・アース』は空中から重い赤土が崖崩れのように落ちてくる地属性魔法。


 同時に襲いかかってくる。


 俺は魔力壁——魔力を実体化する手法で防御壁を展開し、前面と空からの攻撃に備えた。


 ドガガガガガガガガアアアアンンンンッッッッ!!!!


 攻撃が衝突すると同時に、魔力壁に負荷がかかる。

 石畳で舗装された学院の地面が粉砕し、砂埃が舞う。


「……っ」


 ……なるほど。

 当たり前といえば当たり前なのだが、オーガスと比べればまったく大したことがないな……。


 高度な魔法ではあるが、使いこなせていない。

 詠唱魔法であっても、これなら中級魔法を極めた方が攻撃力が高く、安定性もあるものになるはずだ。


 しかしだからといって魔法学院の指導が大したことがないとまでは言えない。

 優れた魔法師は人格も優れていると聞いたことがある。


 それが眉唾ものでなければ、この二人は学院最底辺の存在なのだろう。

 最底辺でこれなら、十分健闘しているではないか。


「お、おい……やべえんじゃねえか? こいつ烙印だろ? 死んだんじゃね?」


「あのなぁ、こいつが襲いかかってきたからやむなく反撃したってことにすりゃいいんだよ。新入生の烙印野郎と俺たち三年の学年ツートップ、どっちが信じるに値するかって話だろ?」


「おう、それもそうだな!」


 こいつらがツートップってマジか……。

 こうなると魔法師の実力と人格は全く関係なさそうだな。


 なにやら二人が意味のわからない話をしていると、砂埃が落ち着いてきた。


「それで終わりなのか?」


「……なっ!」


「俺たちの攻撃をくらって怪我一つないだと!?」


 二人とも本気で驚愕しているようだった。

 いったい何を驚く必要があるのかよくわからないが……。


「こ、この……もう一発!」


「ま、まて! 向こうを見ろ!」


「お前なに日和って……ああ!?」


 二人が振り向いた先には、杖をついた人相の悪い老人がこちらを凝視していたのだった。

 老人がこちらに歩いてくる。


「校庭以外での決闘は禁止されているはずじゃが?」


「学院長、こ、これはですね、烙印が襲いかかってきまして……」


「そうなんです! 俺は悪くないんです!」


 この老人は学院長だったのか。

 もうすぐ入学式が始まる時間なので、講堂に入るつもりだったのだろう。


 分かりやすすぎる言い訳を披露する二人の上級生だったが——


「ふむ、この高威力の魔法は烙印が放ったのか」


「い、いえ! それは違います! 烙印が攻撃してきたので、我々が反撃したのです。烙印ごときにこんなマネは出来ませんよ。ははっ」


「ということは、つまりこの烙印が悪いということじゃな?」


 ギロっと俺を睨む学院長。

 いや、なぜそうなる……?


「そうです、こいつが悪いです!」


「そう、こいつが悪い!」


 いい加減な説明を続ける二人。

 しかし、イラ立った様子のルリアが割って入った。


「私、一部始終見てましたけどアレンは何もしてませんから! この二人が一方的に攻撃してきたんです!」


「こ、このアマ……!」


「生意気言いやがって! 訂正しねえとタダじゃおかねえぞ!!」


 ブチギレる二人とは対照的に、学院長は冷静を保っている。

 しかし——


「ふむ、それが事実だとして……証拠は出せるのかの?」


「しょ、証拠って……! 第三者の私が見てたんですよ!? これが証拠じゃないですか!」


「ワシはそうは思わんのう。例えばキミと、そこの烙印君が共謀して上級生を陥れようとしている。そうも見て取れるがの?」


 学院長は気味の悪い笑みを浮かべた。


「そ、そのとおりです学院長!」


「俺たちこの二人に嵌められかけたんですよ〜!」


 息をするように嘘を吐く二人。

 さすがに学院長も真実はわかっているはずなのだが、どうしてこうも肩入れするんだ……?


「アレン・アルステイン。キミは烙印であるだけじゃなくただの下賤な庶民だったな? 失うもののある貴族と、失うものがないただの庶民。どちらが信用に値すると思うかね?」


「……そんなの同じだろ。 貴族も庶民も変わらず嘘を吐くときは吐くし、本当のことも言う。それだけだ」


「こ、この小僧……」


 学院長の顔に青筋が浮かんだ。

 その時だった。


「が、学院長!」


「なんだ、オーガスか。どうした?」


 なんと、俺の実技試験を担当してくれていたオーガスがやってきたのだった。


「私、実は先ほどの騒動を遠くからでしたが一部始終見ておりまして」


「ふむ、それで?」


「先に手を出したのは上級生二人で、アレン君は防御に徹していただけでした」


「チッ。……そうか、報告ご苦労だったな」


 どうやら、俺たちが暴れたという疑惑はオーガスのおかげで払拭されたようだった。

 同時に、嘘を吐いていた上級生の二人の顔が青ざめる。


「……そこの二人、校庭以外の魔法の無断使用は校則違反だ。後で処分を言い渡す。覚悟しておけ」


 渋々といった感じで、学院長はそう宣言した。


「なっ、話が違いますよ学院長!?」


「あんまりです!」


 彼らの言葉は聞かずに、学院長は無言で講堂に入っていった。

 話が違うって言うのはどういうことなんだ……?


 まさかとは思うが、この二人が俺に攻撃を仕掛けてきたのは、学院長の命令だったってことなのか?

 いや、それはさすがに考えすぎだな。


 なにはともあれ——


「助かったよ」


 俺は、オーガスにお礼を言った。オーガスが来て説明してくれなければ、冤罪で入学早々の校則違反になってしまっていたところだった。


 オーガスは俺を見るなり悩ましげな表情になった。


「アレン、今回は俺が見ていたから良かったが……注意しておけ。こういうことが続くだろう。早めに立ち回りを覚えておけ」


「そうなのか。……わかった」


 さっきのように不可抗力の場合はどうすれば良かったのか疑問が残るが、なるべく相手を刺激しないように対応した方が良さそうだ。


 場合によっては相手の魔法使用を封じるのも有効だろう。


「あ、それでさっき烙印の席は用意されてないって聞いたんだけど、そうなのか?」


「そんなセコいことされてたのか……。それは俺がどうにかしておいてやる。気にせず席についておけ」


「ありがとう」


 俺はルリアと式場に入ることができた。

 トラブルはあったが、これで問題なく入学式を迎えられそうだ。

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