第7話:入学試験の決着
「今の攻撃を凌ぎ切るか……! よし、ならば全力でいくぞ!!」
オーガスはそう宣言し、両手を天に向けた。
「出でよ——『純粋魔力弾』!!」
普通なら隙だらけにしかならない体勢だが、不思議とまったくの付け入る隙がないように見える。
それでも無理やり隙をこじ開けることもできるが……変なリスクは背負わず、お手並み拝見といこうか。
「うおおおおおおおお——!!」
オーガスの両手の上には、巨大な光の弾が形成されていた。
あれは……魔力弾か。
通常、魔法というのは火・水・地・風・聖・闇のいずれかの属性を持つか、あるいは複数の属性が組み合わさって成立している。
しかし、オーガスの魔力弾はそれらとはまったく性質が違う。完全な無属性だった。
理論的にはだが、特定の属性を付与しなくても良い場面では、破壊力を引き出すことにおいては、無属性は最も効率が良い。
俺は無詠唱魔法だからこれも使おうと思えば使えるが、詠唱魔法でこれを使えるようになるまでは途方もない努力とセンスが必要だっただろう。
これはオーガスが現役時代には使っていなかった技術だ。
全盛期に比べれば身体が追いつかなくなったから引退したとばかりに世間では思われているし、俺もそう信じてきた。しかし、そうじゃなかったらしい。
現役を退いてもどんどん強くなっているのだ。
まったく……伝説として流れている話よりも本人はとんでもない規格外だ。
「俺も、全力で応えさせてもらいますよ」
真面目な声で宣言し、俺も天に両手を上げる。
そしてオーガスの『純粋魔力弾』を見様見真似で再現した。
俺なりの解釈で、オーガスよりも効率良く、威力が高くなるよう工夫を施して、魔法式を構築していく——
「とりゃああああ——!!」
オーガスが両手を振り下ろしたと同時に、魔力弾が飛んでくる。
「……っ!」
俺もそれに応える形で、魔力弾を飛ばした。
二つの魔力弾が衝突し、爆発を起こした。
とんでもない爆風が発生する——
ドッガアアアアアアンンンンッッッ————!!!!
俺は『魔力壁』を展開し、衝撃に備える。
あまりの衝撃に魔力壁もビリビリと振動し、壊れてしまわないか心配になるほどの威力だった。
しかし、どうやら俺の魔力弾の方がギリギリ攻撃力が上回っていたらしく——
「くっ、ここまでか……。これは、完敗だな……」
無傷の俺とは対照的に、傷だらけのオーガスが膝をついていたのだった。
俺の勝てるという予感は完全に的中したらしい。
とはいえ、感触的には本当にギリギリの戦いだった。
オーガスがもう少し若ければ、あるいは俺の修行日数があと一日短ければ、勝敗は違っていたものになっていたかもしれない。
俺は『魔力壁』を解除し、「ありがとうございました」と一礼した。
受験生の俺にとっては採点基準はわからないが、試験官に勝ってみせたのだ。
この試験に関しては合格点を確実にもらえるだろう。
「す、すっげええええええええ……」
「ま、まさかあのオーガス様と互角に渡り合うだけでなく、勝ってしまうとは……」
「っていうか、試験官不在でこの後どうなるんだ!?」
俺たちの周辺ブロックの受験生は騒然としていたのだった。
さて、試験も終わったことだし、宿に戻るか。
ちょっと今日は早起きだったのと、魔力を使いすぎたせいで少し眠い。
俺は欠伸をしながら学院を後にした。
◇
入学試験終了後の夜。
アステリア魔法学院では講師が集まり、会議が行われていた。
「学院長、アレン・アルステインを不合格にするというのはどういうことですか!?」
アレンの実戦試験を担当したオーガスが声を荒らげた。
白髪の学院長が、成績表を見ながら冷たく答える。
「アレン・アルステイン……筆記試験満点。実技試験満点。実戦試験満点。……優秀ではあるようだが、所詮は庶民だろう」
アレンはほんの少し前まで男爵家の次男……つまり、貴族の身分を持っていたが、つい最近勘当されてしまったため、現在はただの庶民である。
「それはそうですが……我がアステリア学院は身分を問わない……そう謳っているではありませんか!」
「ふっ、だからどうしたというのだ。開学以来、庶民の入学を許したことはただの一度もない。なぜ貴族を落とし、下賤な庶民を入れねばならん? この世は平等ではないのだ」
「しかし……それでは学院は威厳を失いますよ。後から入試のルールを捻じ曲げるなど……」
オーガスの主張に、他にも賛同する者もいた。
実技試験でアレンの担当だった女性講師。
「私もそう思います。それに、アレン・アルステインは今の時点でも冒険者として最高峰です。それを学院が落としたとあっては、公正な試験が行われたのか疑われるでしょう」
「ふむ、確かにそれは体裁が悪いな。だが……入学を認めるとなればこやつが主席じゃろう。それだけは認められんぞ!」
「では……主席でなければ良いのではないでしょうか」
女性講師にとってはあまり気持ちの良い提案ではなかったが、学院長にもどうしても譲れない点がある。ここが落とし所だと判断した。
「アレンの点数を調整し、2位の合格者とする。……これなら、主席は別の者になるのではありませんか?」
「なるほどの。その手はありじゃな。……じゃが、やはり下賤な庶民を普通に入学させるのは釈に触るのう」
学院長はしばらく押しだまり、手をポンと叩いた。
「そうじゃ、良いことを思いついたわい。かつて、この学院には庶民枠があったのう……。それを復活させるのじゃ」
学院長の言葉に、この場の全員が息を飲んだ。
「が、学院長……庶民枠というのはあまりにも……」
「わしの判断に何か不服か?」
「い、いえ……」
誰一人として、反論できる者はいなかった。
庶民枠でも合格であることには変わらない。しかし、かつての歴史を知る講師たちにとっては驚かざるをえなかった。
庶民枠での合格者というのは、俗称で『劣等烙印者』と呼ばれているのだ。
アステリア魔法学院では、三十年前まで『身分を問わない』という謳い文句の通り、庶民にも枠を用意し、入学を許していた。その枠は庶民の中で上位一名のみ。
基本的に、魔法を学ぶことができるのは余裕のある裕福な家庭の子息だけに限られる。
庶民は上位一名だったとしても、貴族の最下位合格者に劣ることが多かった。
そうしたことから、庶民のイメージは劣等生となり、庶民であるというだけで不遇な扱いを受けていたのだった。
もっとも、庶民の中でも貴族の最下位合格者よりも強いものはいた。
しかし、一般枠から庶民が合格することは不可能。
どうしても庶民のレッテルは避けられなかった。
一般の生徒が白を基調とした制服に統一されているのに対して、庶民枠合格者——劣等烙印者だけは、黒を基調とした特別な制服を着用することを義務付けられる。
劣等烙印者は、他の生徒に対する当て馬役。
見た目ですぐに落ちこぼれであることがわかるため、虐めの対象となることも多かった。
庶民枠で入学してしまった大半の生徒は、三年を待たずに退学してしまうことが大半。
学院長の命令はあまりにも理不尽だったが、これ以上の譲歩は引き出せそうにない。
「では、今日の会議は終わりだ。明日掲示するように」
こうして、アレンが知らないうちにアステリア魔法学院の入学が決まったのだった。
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