第8話:不思議な試験結果

 ◇


 入学試験の翌日。

 今日の朝9時に試験結果が発表されるということで、俺は朝一でアステリア魔法学院に来ていた。


 桜が咲く門の前で、顔見知りの女の子と目が合った。


「アレン、おはようございます!」


「おはよう、ルリア」


 ルリアとは入学試験前日にチンピラ冒険者から助けて以来だった。

 『以来』と言っても二日ぶりでしかないのだが。


「アレンは昨日の試験どうでしたか?」


「どうっていうのは?」


「感触とか……」


「うーん、そうだな。筆記試験にはあまり自信がないな」


 あまりにも簡単すぎて、何かの罠なんじゃないか? と未だに疑っている。


「た、確かに今年の試験は特に最後の問題が難しかったですからね……。でも、難しいのはみんな同じのはずですよ!」


「うん、それはそうだな」


「それ以外はどうだったのですか?」


「実技試験もちょっと不安は残るな」


 的であるカカシを壊してしまったので、きちんと計測できているのか心配だ。


「確かに、数字で見えてしまいますからね……。最後の実戦試験はどうだったのですか?」


「あれは手応えを感じるよ。良い点数がついてるはずだ」


 一応は試験官を倒しているわけだしな。


「一つでも自信があるのは良いですね! それならきっと大丈夫ですよ!」


「だといいんだがな」


 そんな他愛もない会話をしながら、校舎の前に設置されている合格発表の掲示板を見にいく。

 掲示板の周りには、たくさんの受験生が集まっていた。


 笑っている者、泣いている者、笑いながら泣いている者と様々。


 掲示板を上から確認していく。


 ————————————————————

 一位:アリエル・スカイネス 筆記試験80/実技試験181/実戦試験190

 二位:ルリア・イグニスト 筆記試験88/実技試験156/実戦試験178

 ………………

 …………

 ……

 ————————————————————


 なんと、二位にルリアの名前があった。

 筆記試験の満点が100点、実技試験が200点、実戦試験が200点だから、約84%の得点率。


 最難関と言われるこの学院の入学試験でこれだけの点数を取ったのは贔屓なしに凄いことだ。


「ルリア、すごいな……」


「わ、私が二位……!?」


 本人も信じられないといった様子だった。


「おめでとう、ルリア」


「ありがとうございます! アレンの名前もきっと載ってるはずですよ!」


 ルリアはそんな優しい言葉をかけてくれるが、少なくとも上位には俺の名前はなかった。


 不安が的中し、筆記試験と実技試験で失敗してしまっていたのだろう。

 だとすると300位まで確認してもない可能性が高いな。


 そんなことを思いつつも、一応は確認しておく。


「あっ、アレンの名前ありましたよ!」


「なっ、本当か!?」


 俺より先にルリアが見つけてくれたようだった。


「はい、301位で合格してますよ! でも……なんか、変ですね」


「301位……?」


 毎年、アステリア魔法学院の新入生は300人のはず。

 今年から一枠増えたということか?


「301位というのもそうなのですが、他にも……」


「何が変なんだ?」


「いえ、得点が……今までこんなの見たことなくて」


「……?」


 ルリアの話を聞くだけではよくわからないので、俺も掲示板を覗く。


 ————————————————————

 【庶民枠】アレン・アルステイン 筆記試験100/実技試験200/実戦試験200/庶民補正-200

 ————————————————————


 なんと、俺は全ての試験で満点を取っていたようだった。

 しかし、ルリアが言っていた通り、気になるものがあった。


 他の合格者にはなくて、俺にだけはある不可解な数字。

 それに、【庶民枠】という特別な文字列。


「庶民補正……? 庶民枠……?」


 俺は、思わず呟いた。


「文字通り読めば、貴族ではないから点数を普通より減らす……ということでしょうか?」


「そうとしか思えないが……ここは誰でも合格できるチャンスがあるアステリア魔法学院だぞ……? 200点も引いたら、満点でも取らない限り絶対に落ちるじゃないか」


 例年の合格者ボーダーラインは得点率60%。

 本当にギリギリの合格だった。


「あの、そもそもアレンは貴族ではないのですか……? アルステイン村の名前は聞いたことがあるのですが……」


「ああ、俺は実家を勘当されたからな……もう貴族じゃないんだ」


「そ、そうだったのですね……! すみません、変なことを聞いてしまって……。でも、アレンほどの人を追い出すなんて信じられません。何を考えているのでしょうか……」


「さあな。……まあ、ギリギリでもなんでも、合格できただけ良かったよ。これからもよろしくな」


「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 ルリアは嬉しそうに微笑み、俺の胸に飛び込んできたのだった。


 こうして合格の喜びを噛み締めていたところ——


「あなたがアレンなの?」


 銀髪赤目の美少女に声をかけられた。

 ルリアと同じくらい髪が長く、胸も同じくらい大きい。

 少し生意気そうなルビー色の目が俺をジッと見ていた。


「ああ、そうだが……?」


「……やっと見つけた。私はアリエル・スカイネスよ」


「そういえばその名前……」


 さっき、掲示板で見た気がする。

 確か、今年の合格者で一番の成績——主席合格者。


「私はスカイネス子爵家の次女にして今年のアステリア魔法学院主席——のはずだった」


「うん? そうじゃないのか?」


「ええ、あなたのおかげで二位になってしまったわ。例年なら確実に一位の成績だったけどね」


「例年ならも何も、アリエルは主席だろ?」


 掲示板に書かれていたことが嘘だとでも言うのだろうか。


「あんな紛い物の一位に価値なんてないわ。よくわからない補正を抜けばあなたが主席じゃない」


「まあ、そう言われてみればそうだが……そんな細かいことを気にしなくてもいいんじゃないのか?」


「こ、細かい……!? 私がどれだけ一位のために……くっ、こんなことを平気で言う男に負けたなんて、惨めでしかないわ」


 やれやれ、面倒くさいやつだな……。


 どんな形であれ、一位は一位だろうに。

 なんでこうも過程にこだわるんだろうな。


 そもそも、入学が決まったのなら、入学試験の結果なんてどうでも良いと思うのだが……。

 俺とルリアが困惑していると、アリエルは俺に人差し指を向けてきた。


「私と決闘しなさい。あなたに負ける気がしないわ」


「うーん、やめた方が良いと思うけど……」


「実質主席の余裕ってやつ? そんなの、やってみなくちゃわからないじゃない」


 アリエルにも譲れないものがあるのだろう。

 正直面倒だが……これから3年間同じ学院に通い、もしかするとクラスメイトになるかもしれない人物。


 仕方ない、相手をしてやるか。


「わかった。そこまで言うのなら、決闘を受けよう」

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