第39話 簡易一軒家

「私達も寝床を用意しなきゃね!」

「テントを立てなきゃな」


 一応、《アイテムボックス》の中にテントは収納してある。

 前回ルベループから王都リードルフに移動するときもテントを立てて野宿したから、少しは慣れている。


「ふふっ、今回の私は用意周到よ!」


 そう言って、ユンは魔動四輪車に積まれてあった箱を取り出した。


「その箱、気になっていたけど一体何が入っているんだ?」

「まあ見てなさい!」


 ユンが地面に箱を置き、それに魔力を流した。

 すると、箱は段々と大きくなっていった。

 約10秒が経過すると、そこには扉の付いた長方形の家があった。


「な、なんだありゃ……!」

「箱が家になっちまったぞ!」

「すげえ……!」


 周囲の冒険者はざわざわとしていた。


「これは天才魔導具技師のユンちゃんが作った簡易一軒家よ! おっほっほ!」


 ユンはそれを聞いて、胸を張って自己アピールをした。

 とても満足気だった。


 実際、この魔導具はとても凄い。

 中に入ってみると、家具が一式揃っていて、ベッドが二つあった。

 なんとも便利な魔導具だ。


「ベッドが二つしかないから一人が寝袋を使うことになるわね。ま、ノアとアレクシアは明日戦うことになるから私が引き受けるわ!」

『ノア、ユンはなんて言ってるの?』

『私は寝袋使うから二人はベッドを使ってだとさ』

『それなら私とノアは同じベッドで寝るから問題ないね。3人ともベッドを使える』

『そ、そうだな……』

『うん。ユンにそう伝えてあげて』

『あ、ああ……』


 俺は頭を抱える。

 このことをユンに伝えるのは少し恥ずかしかった。

 ユンの反応も容易に想像できる。


「ユン、そのことなんだがな……俺とアレクシアは同じベッドで寝るから、寝袋で寝る必要はないよ」

「えっ!? 一緒なベッドで寝るの!?」

「アレクシアは夜が不安で眠れないらしくて、それで一緒に寝てるんだ」

「まさか一緒に寝ていたとはね……。流石の私も驚いたわ……」

「だからみんなベッドで寝れるよ。ユンもこれから大変だろうからね」

「そ、そうね……うるさくて眠れないとかはやめてよね!」

「うるさい? 寝るのにどうしてうるさくなるんだ?」

「あ、その様子なら大丈夫そうね。安心したわ」


 ユンはホッと安堵のため息をついた。

 どこに安心する要素があったのだろうか。

 俺は首を傾げた。


「まあとりあえず、これで寝床の用意は出来た訳だな」

「そうね。私もここに到着したことを報告しにいかなきゃいけないわ。ギルドマスターも既に来ているはずだから」

「なるほど、じゃあそのときに巨大亀の詳細も一緒に伝えておいてくれるかな? アレクシアの時代、ルーン族はあの巨大亀と戦った経験があるみたいだから」

「分かったわ。じゃあ詳細を教えてちょうだい!」


 ユンに夢幻亀の詳細を伝える。

 伝えることで夢幻亀の厄介さを改めて認識することが出来た。

 弱点が無いため、ダメージを与えることですら至難の業なのだから。


「……とても厄介そうね。分かったわ。このことは私からギルドマスターに伝えて、関係者達に情報を共有してもらうわ」

「ああ、頼む」

「それじゃあ行ってくるわ。ノア達も到着の報告をした方がいいわ」

「そうだね」


 そう言って、ユンはギルドマスターのもとへ向かった。


「到着した冒険者はこちらに来てくださーい!」


 外からギルド職員の声が聞こえてきた。


『ここに到着したことを報告しなきゃいけないみたいだからアレクシアも一緒に付いてきてくれる?』

『分かった。ユンはどこ行ったの?』

『ユンも俺達と同じだ。向かう場所は違うけどね』


 外に出ると、冒険者の列が出来ていたので、向かう場所は分かりやすかった。

 列に並び、到着の報告をする。

 ギルドカードを見せるだけだ。


「ノアさんですね、Dランクで才能は【翻訳】……後方支援組ですかね」

「前線に出してもらえると嬉しいのですが」

「あー、ちょっとそれは厳しいでしょうね」

「そうですか、まあランクも低いですし、仕方ないですね」


 出来れば、認められたうえで前線に出たかったな。

 こう言われては申し訳ないが、勝手に前線に出るしかなさそうだ。


「ええ。で、えーっと、アレクシアさんもDランクで、才能は【魔法使い】ですか。アレクシアさんも後方支援組になりますね」

「はーい。分かりました。ありがとうございます」


 アレクシアはまだ会話をあまり理解出来ていなかった様子だったので、俺はギルドカードを受け取って、強引に話を終わらせた。

 簡易一軒家に戻ろうとしたところ、先を阻むように冒険者が現れた。


「おい、お前あんな魔導具持っててDランク冒険者なんだな。しかも才能も大したことねえ。あの家、B級の俺様に寄越せよ」

「俺もB級だぞ。俺に手渡すべきだろ」

「いいや、A級冒険者のウォルフ様だ」


 様子を伺っていた冒険者が続々と現れた。

 気付けば、俺とアレクシアを10人以上の冒険者達が囲んでいた。

 俺の冒険者の等級を確認してからの騒動。

 等級の高い冒険者なら放っておいて、低級冒険者ならあの家を奪ってしまおうという話か。


 ……ん、待てよ?

 この冒険者達を上手く利用すれば、公認で前線に出ることが許されるんじゃないか?


 今の俺は実力が無いと判断されているから前線に出られないという状況。

 だったら、ここで実力を示せばいい。


「ははっ、皆さん威勢が良いですね」


 俺は小馬鹿にするような声色で話した。


「「「「「はあぁっ!?」」」」」


 冒険者達の怒号が辺りに響いた。

 さて、ひと悶着起きそうだ。

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