第15話 《次元の狭間》
ぷか~、と水面に浮かぶシーサーペント。
俺は水上に出て、ファフニールと合流する。
『派手にやりおったな』
『ファフニールと同じぐらいの威力にしたらこうなっちゃったんだ』
『バカ者、我とシーサーペントごときを一緒にするでない』
『でもファフニールは命乞いとかしてたような……』
『な、何を言っておるのだ? あ、あれは……へ、平和的解決を試みたのだっ!』
どんっ、とファフニールは胸を張った。
巨竜のときならまだしも、今の小さい身体では威厳を感じられなかった。
『とりあえず、このシーサーペントを回復してあげよう』
『どうしてだ? 放っておけばよかろう』
『気になることを言っていたんだ。この湖を支配する
『闇の精霊……。確かにそれは気になるな』
闇の精霊様、と言っていたからシーサーペントはその精霊の部下になるのだろうか。
もしかすると、この結界についても知っているかもしれない。
「《治癒》」
シーサーペントを暖かな白い光が包み込んだ。
しばらくして、シーサーペントは意識を取り戻した。
『……む。俺様は一体何をしていたのだ。……確か人間と戦っていたような』
『やぁ、お目覚めかい?』
俺はシーサーペントに話しかけた。
『き、貴様は先ほどの人間! 今度こそ喰らってやるぞ』
『やめておけ。お前、実力の差も分からないのか?』
『なんだ貴様、小さいくせに偉そうにしやがって。俺様にたてつく気か?』
ファフニールはその言葉を聞いて、ムカッとした表情を浮かべた。
『好き勝手言いおって! 貴様、どうなっても知らんぞ!』
『なっ! オイ! 止め……ぐああああああああああっ!!!!」
怒ったファフニールがシーサーペントをボコボコにしてしまった。
シーサーペントは再び気を失い、水面にぷかぷかと浮かんでいる。
『……すまんな、ノア』
『今度は穏便に済まそうね……』
『う、うむ』
俺は再び《治癒》を唱えた。
『……ハッ! 俺様は一体なにを……! って、ギャアアアアアアアア!?』
シーサーペントは俺たちを見ると、悲鳴をあげた。
ガクガクと震えた様子で、目から涙を流していた。
魔物って泣くのか……。
『質問があるんだけど、答えてくれるかな?』
シーサーペントは涙を流しながらコクコクと頷いた。
怯えているところ申し訳ないけど、こうでもしないと中々真相に辿り着けない。
『まず、闇の精霊ってなに?』
精霊は「地」「水」「火」「風」──4つの元素を司る。
これ以外の精霊は書物を読んでいても見たことがない。
だからこそ、シーサーペントの言う
『闇の精霊様は俺様をここに連れてきた精霊だぜ……。それ以上は分からん。ただ、とんでもなく強い奴だったな……。逆らえば殺されると本能で察した俺様は、大人しくここでこの結界を守っているぜ』
闇の精霊がこの湖にシーサーペントを連れてきたのか。
ならば、シーサーペントが淡水でも順応できるようにしたのは闇の精霊だと考えるべきか。
『この結界の中には何があるの?』
『分からん。何も聞かされてないぜ』
『本当だろうな?』
ファフニールがシーサーペントを睨み付けた。
『ほ、本当だ! 信じてくれよ!』
『分かったよ。信じてるから安心して』
『う、うむ。これ以上は俺様が戦っても敵いそうにないから、そこらで見守っていることにするぜ』
『そうしてくれると助かるよ』
『へへ、悪かったな。馬鹿な人間って──あ、あが、あがが』
シーサーペントの様子が一変した。
瞳が白目を剥き、口から涎を流している。
『ガアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!!』
突然、俺に噛みつく動作をした。
詠唱は間に合わない。
回避も厳しい。
ならば、無詠唱で対応するしかない。
使う魔法は《魔力衝撃》でいいだろう。
気絶させるぐらいなら簡単にできるはずだ。
──そう思ったが、俺よりも素早くファフニールがシーサーペントを倒してしまった。
シーサーペントの血で湖は紅く染まった。
シーサーペントが急変したのは何故だ?
古代魔法なのか?
だが、俺はこんな古代魔法を知らない。
何か俺の知らない闇の精霊の能力だったりするのだろうか。
何にせよ、危険な存在であることは確かだな。
『ノア、この状況でシーサーペントを倒すという選択をなぜすぐに取らなかった?』
『え? だって、さっきまで楽しく話していたし……』
『相手は魔物であり、我と違ってノアの従魔になった訳でもないのだ。弱肉強食の自然界では、その油断が命取りになることがある。それだけは心に留めておいた方が良い』
『……うん、分かったよ』
ファフニールは俺のことを心配してくれている。
その気持ちがとても嬉しかった。
ただ、それでも俺はなるべく会話が出来る魔物は殺したくないと思ってしまう。
しかし、それで命を落としてしまっては元も子もないことも分かっている。
……そうか、冒険者とはこういう仕事なんだな。
憧れだけでやっていけるほど甘くはない。
いつか俺はファフニールに突きつけられた問題に対する答えを明確に出さなければいけないのだろう。
でも今は妖精が消えた謎を突き止めなければいけない。
ある程度気持ちを切り替えて、行動しよう。
カールさんの娘さんを死なせる訳にはいかないのだから。
再び俺は結界を解除するべく、湖の底に潜っていく。
湖の底には石版が沈められていた。
石版にはちゃんと古代文字(ルーン)で結界の古代魔術が記されていた。
古代文字(ルーン)を解読し、この結界の術式を見破る。
「《刻印》」
《刻印》は古代文字(ルーン)を記すための古代魔法だ。
結界の術式は条件面では見事なものだったが、術式としては少しお粗末だ。
いくつか欠陥があり、そこをいじってやれば機能しなくなるはずだ。
俺が古代文字(ルーン)を記すと、水中が一気に暗くなった。
結界が解除された証拠だ。
水上に行くと、黒い楕円形の空間が結界の内部から現れていた。
それは周りの空間を呑み込むように存在している。
「これは……《次元の狭間》だ」
古代魔術に続き、これも古代魔法か。
闇の精霊は古代魔法にかなり精通しているらしい。
『なんだ? 《次元の狭間》って』
ファフニールは首をかしげた。
《次元の狭間》とは《空間転移》と似た性質を持った魔法だ。
簡単に差別化させるのなら《次元の狭間》は設置式の《空間転移》である。
《次元の狭間》に入ると、指定の座標に空間移動することが出来る。
そのことをファフニールに説明すると、
『それでこの次元の狭間とやらに飛び込むのか?』
『うん。それしかやれることがないから』
『ふむ。では行くとしよう』
そう言って、ファフニールは先に《次元の狭間》に飛び込んで行った。
俺もそれに続いて、飛び込んだ。
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