第20話 考古学者ユン

 カールさんの娘さんが患っていた魔力経絡硬化症候群はエリクサーによって完治した。

 もうすっかり元気になっていて、家族全員でお礼を言われた。

 料理をご馳走してもらったりもした。

 俺はその気持ちがとても嬉しかった。


 数日、娘さんの様子を《魔力分析》で確認した。

 魔力は全身にしっかりと流れていて、健康そのものだった。

 カールさんが依頼していたクエストは俺が達成したことになった。

 受注する前に妖精の花を納品しており、本来ならば無効のところを依頼者でギルド関係者のカールさんが話を通した。

 そして、報酬金の白金貨5枚を頂いた。


 俺は娘さんのために使って欲しいと断ったが、


「もう娘のために使いましたよ。さぁノアさん、受け取ってください」


 そう言われては返す言葉が見つからなかった。


『くっくっく、ノアよ。これは一本取られたな』


 ファフニールも愉快そうに笑っていたのを覚えている。



 ◇



「……へぇー、そんなことがあったのね」


 俺は冒険者ギルド内の席に座り、今までの出来事をセレナに話していた。

 ファフニールの件以来、話す機会がなかった。

 4日ぶりぐらいにセレナと冒険者ギルドで出会い、今は一緒に昼食をとっている。


「それならその考古学者さん? ルベループにやってきてもおかしくはないんじゃない?」

「どうだろうな。案外、忘れているかも」

「そうかなぁ……話を聞く限り、めちゃくちゃノアのことが気になってると思うけど……」


 バタン、と勢いよく冒険者ギルドの扉が開いた。


「F級冒険者のノアさんはいるかしらー? 依頼を頼みたいのだけど!」


 その声の主は周りの冒険者の視線を気にせず、白衣を翻しながらギルドの中央を堂々と歩く。

 ……噂をすればなんとやらだ。

 あれこそ俺が古代遺跡で出会った考古学者のユンだ。

 一応訂正しておくが、俺はカールさんのクエストを達成した実績が認められ、E級に昇格している。


「呼ばれてるわよ……?」

「そうみたいだね。──おーい、ユン! こっちこっち!」

「あら、そんなところにいたのね!」


 ユンは俺に気付くと、駆け足でこちらにやってきて、机の周りに置かれた椅子に座った。


「そちらの方は? ノアのガールフレンド?」

「ガ、ガールフレンド!?」

「ははは、それはA級冒険者のセレナに失礼だよ。ただの友達さ」

「貴方その歳でA級冒険者なの!? 凄いわね! どう? 貴方も一緒に王都リードルフの東にある古代文明の遺跡を探索してみない? A級冒険者が一緒なら心強いわ!」

「古代文明の遺跡……なるほど、それでノアに依頼したいわけね」

「そうそう! 察しが良いじゃない!」

「楽しそうだけど、私は一応ルベループのA級冒険者だから此処を離れる訳にはいかないわ」

「あら、そう。残念ね」

「……そういう訳でノアとはこれでお別れね」


 セレナは寂しげな表情で言った。


「またルベループに来る機会があったら顔を見せなさいよね」

「もちろんだよ」


 俺はセレナと握手をして、この日、ルベループを旅立った。


 王都リードルフにはルベループから馬車で3日かかる距離にあり、結構離れている。

 そのため、王都リードルフ付近のクエストはルベループの冒険者ギルドの管轄外になる。

 正式な依頼として受理してもらうには王都リードルフの冒険者ギルドで手続きをする必要があった。


 ユンは魔導具技師と名乗るだけあって、移動手段に魔導具を自作していた。

 魔導具の名は魔動二輪車。

 魔力が動力となっている。

 魔力の含有量が豊富な魔石を一つ搭載しているため、それなりのコストはかかるが、パフォーマンスは優秀。

 馬車よりも速い移動が可能だ。

 俺はユンの後ろに乗って、移動をすることになった。


 ルベループを旅立ってから1日野宿をして、2日目の昼に王都リードルフが見えてきた。


「あれが王都リードルフか……」


 遠くからリードルフを見たときに特徴的だったのは何と言っても、天まで続くかの如く、雲を突き抜けそうなほど大きい塔──その名も天空塔。

 天空塔はもともと天空都市まで続く地上と天界を繋ぐ架け橋だったらしい。

 真偽は定かになっていないが、天空塔のおとぎ話は世界的に有名だ。


「凄いでしょ、アレ」


 魔動二輪車を運転しながら、自慢げにユンは呟いた。


「はい……! 一度天空塔には登ってみたいと思っていたんです!」


 俺は天空塔を見て、少し興奮した。

 天空塔の謎を解き明かそうと躍起になっている研究者が多いのも頷ける。


 天空塔の頂上は途中で折れたような造りになっているのだ。

 そして不思議なことに天空塔の折れた片方であろう上部は見つかっていない。


 まぁどこまでが本当かは分からない。

 天空塔の頂上は既に改装工事が行われていて、今は辺りを見渡せるとてつもなくデカい塔なだけだから。


「ふっふっふ、天空塔には一般人は登れないけど、考古学者である私が同伴すればノアでも登れるわよ!」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ、本当よ!」

「お願いしても良いですか?」

「当たり前じゃない! ノアは絶対、天空塔が好きだと思うわ! それにあれも古代遺跡の一つだからね」

「それは楽しみですね」

「でも頂上まで登るのは結構キツいから、そこだけは覚悟していかなきゃね」


 王都リードルフに到着すると、冒険者ギルドでクエスト依頼の手続きを済ませ、早速俺達は天空塔を登ることにした。

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