第21話 天空塔
王都の外れ。
そこに天空塔は建っている。
この辺りの家屋は王都の中心部よりも古いものが多い。
老朽化していて、既に人が住んでいない家は放置されているようだった。
天空塔の入り口には軽鎧を身に纏った老騎士が一人椅子に座っていた。
老騎士はふわぁ~っ、と欠伸をしていた。
ユンはその老騎士と挨拶をして、
「この人私の連れだから」
「ほいほい。分かったぞい」
とても慣れた様子だった。
ユンはこの天空塔に何度も来たことがあるのだろう。
入り口の前で天空塔を見上げると、空まで伸びていて、まるで終わりがないように見えた。
天空塔に入ると、螺旋状の階段があった。
壁を触ってみる。
古代遺跡の壁と同じ石材を使っているように思えた。
この塔にも松明が設置されていて、《炬火》の古代文字(ルーン)が刻まれていた。
「気付いた? その壁は古代遺跡にあったものと同じなのよ」
「みたいだね。強度もかなりのものに見える」
「ええ。それにこの壁、とんでもない代物なのよね! 石材の加工技術が現代の比じゃないぐらいに優れているわ! まさに|失われた技術(ロストテクノロジー)ね。歴史と共に技術は発展するものだけど、古代文明は現代よりも圧倒的に優れていたところも魅力の一つよね」
「なるほど、この壁に使われた石材もまた|失われた技術(ロストテクノロジー)の一つなんだな」
これは実家の書庫では知り得なかった情報だ。
とても興味深く、面白い。
「よーし、それじゃあ早速登っていきましょう!」
「ちょっと待って」
俺は階段を登っていこうとするユンを引き留めた。
「ん? どうしたの?」
「俺もユンに|失われた技術(ロストテクノロジー)を披露しようと思ってさ」
「……?」
ユンは俺が何を言っているのか分からない様子だった。
「実は俺、古代魔法が使えるんだよね」
「あ! もしかして前使っていた突然消える魔法!?」
そういえば初めて出会ったときに《空間転移》を使っていたな。
それなら話は早い。
「そうそう。じゃあこっちに近付いてきてもらえる?」
「うん!」
ユンが俺の周囲に近付いてきたところで、詠唱を始めた。
「《空間転移》」
転移先は天空塔の最上階。
突如変化した周囲の景色にユンは驚きを隠せていなかった。
「凄い……! まさか天空塔の頂上にこれだけすぐに登れるなんて思わなかったわ!」
「半信半疑だったの?」
「そうじゃないけど、ここまで凄いことだなんて思わなかったわ!」
「でも、俺が古代文字を読んでいたところは見たんでしょ?」
「それで古代魔法が使えるなんて思わないじゃない!」
……あ、そうか。
古代魔法には古代文字(ルーン)を使うってことを普通の人は知らないのだ。
俺は当たり前に思っていたが、自分の間違いだったと考えを改める。
そして俺は天空塔からの景色を一望して、息をのんだ。
空中に浮かぶ島。
大きな赤紫色に光る水晶の山。
各地に建てられた城の数々。
その中でも存在を放つのは、独特なデザインを誇るオブジェクト。
天空塔から見下ろすと、まるで宮殿のようなものが石材で建てられていた。
「凄い景色よね。私、ここからの眺めが好きでさ、この景色を見ていると世界はとても広いんだってワクワクしてこない?」
「うん……! 本当に凄いね、この景色」
「でしょでしょ! 考古学者として一応解説しておくとね、あの四角錐状の巨大建造物や、立方体状の巨大建造物なんかは全部、古代遺跡なのよ!」
「なるほど、あの巨人の腕みたいな建造物も?」
「そう! 古代遺跡なの! 凄いでしょ!? 今の技術でもかなり難しいことを古代の人々は実現しているのよ!」
「ははっ、とても浪漫を感じるよ。いつか行ってみたいな」
「ノアなら行けるわよ! だって古代魔法が使えて、古代文字も読めるんでしょ!? この世界の謎を解き明かすためだけに生まれてきたような存在じゃない!」
「そ、それは言い過ぎなんじゃないかな……?」
「ぜんっぜんっ! そんなことないわ! 貴方しかいないわよ! そんな芸当が出来る人なんて!」
「あはは……ありがとうございます」
どうもここまで褒められると調子が狂う。
今まで褒められた経験がなさすぎて、どう答えたらいいか分からない。
「ノアと共に古代遺跡に行けることを考古学者として誇りに思うわ! 是非、謎を解き明かしましょう!」
「……ああ、そうだね。もちろん俺に出来ることはなんでも協力させてもらうよ」
「ふふ、ノアがいれば百人力よ!」
それからしばらく天空塔からの景色を眺めた。
明日訪れる古代遺跡を天空塔から見下ろすと、宮殿のような豪華な建物だった。
場所によって、古代遺跡の形状は大きく異なっているのがとても面白い。
地上に戻る際は登ったときと同じように《空間転移》を使った。
天空塔から出ると、見張りをしていた老騎士が意外そうな顔をしていた。
「天空塔を登るのは途中で辞めちゃったのかい?」
「もう用は済んだので!」
「ぬぅ?」
老騎士は頭を傾げていた。
天空塔を後にして俺はユンの家に泊めてもらうことになった。
しかし実際は家というよりも屋敷と表現する方が近い豪邸だった。
空き部屋がいくつもあるから好きに使っていいとのこと。
『おお! このベッド、ふかふかではないか! 宿屋のものとは段違いだな!』
部屋にあるベッドでファフニールは飛び跳ねて遊んでいた。
ファフニールの言うとおり、ベッドの品質はとても良くて、その日はぐっすりと眠れた。
そして翌日、ついに古代遺跡の探索が始まるのだった。
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