第19話 万能薬《エリクサー》

 身体が回復した後、妖精達の住処に案内された。

 大木の上に小さな家を建てて、暮らしているようだった。

 なるほど、こんな場所で暮らしているのか。

 一段落ついて、妖精達にあそこに囚われていた経緯を聞くことにした。


『そういえば、どうしてあそこに囚われていたの?』

『私達は普段隠れて生活をしているのですが、それを闇の精霊は見破ってきて、森で暮らしている妖精はみんなあの場所に閉じ込められてしまいました』

『闇の精霊……一体何者なんだ?』

『闇に溶け込んでいて、姿が見えなかったので精霊なのかどうかも分かりません……』

『そっか、それは仕方ないね』

『お役に立てなくてごめんなさい……』

『ううん。そんなことないよ。とりあえず、この先また闇の精霊に襲われるかもしれないからその対策をしよう』


 今後また闇の精霊が襲ってくるかもしれない。

 《傀儡の箱庭》のゴーレムはそれだけ強力なもので、妖精をあの空間に閉じ込めていたのは何か重大な意味があったようにしか思えない。

 ……まぁゴーレムはファフニールが一瞬で倒してしまったけど。


『は、はい! ありがとうございます!』

『ノア様っ! ありがとうっ!』

『ノア様万歳!』


 それを聞いた他の妖精達も喜んだ。

 誰かから感謝されるのはとても嬉しいことだ。

 これ以上、平和な生活を脅かされてほしくはない。


 妖精達が暮らす住居スペースに転移陣を描き、それに付随するように古代文字(ルーン)を記した。

 これは《空間転移》を古代魔術にしたものだ。

 転移先を俺のもとに設定し、任意のタイミングで転移陣の上のものを空間移動させる。


 そのことを妖精達に説明すると、


『ありがとうございますっ!』

『これで安心だ~!』

『ノア様が助けてくれるなら怖いものなしだね!』


 これでひとまずは安心できるだろう。

 それから妖精の花について聞いてみた。


『妖精の花ならみんなで作れるよ~!』

『あれは僕達が生活してると勝手に出来るものなんだ!』


 そうだったのか。

 妖精の花が見つかりにくいのは妖精達が普段は大木の上で生活しているからなのかもしれない。


『妖精の花が無いと死んでしまう女の子がいるんだ。その子を助けるためにも妖精の花を作ってくれないかな……?』

『『『『『もちろんです!』』』』』


 そう言って、妖精達は森に向かって行った。


『あった! この花だ!』


 見つけたのは白い花弁が特徴的な花だ。

 これは白月花か。

 白月花はお茶なんかによく使われる。

 なんでも気持ちを落ち着ける効果があるだとか。


 妖精達は白月花の周りを飛び回った。

 花弁に青色に輝く粉が溜まっていく。

 すると、不思議なことに白月花の花弁は徐々に色が青に変わっていく。


 そして、白月花の花弁が綺麗な青色に染まると、妖精達は舞うのをやめた。


『『『『『できたよ! 妖精の花!』』』』』

『ありがとう。助かるよ』


 青色に輝く妖精の花を【アイテムボックス】に入れる。

 そして妖精と別れ、ルベループに戻った。

 いつの間にか、夜明け前の空になっていた。



 ◇



 それから俺はカールさんに妖精の花を届けた。

 娘さんの容態は深刻で錬金術師を呼んで、エリクサーを調合している場合ではなかった。

 錬金術は古代魔法で調合ぐらいなら応用が出来た。

 俺ならエリクサーを調合できることを伝えると、カールさんは、


「ノアさん……よろしくお願いいたします……! どうか娘を助けてください……!」


 そう言って、俺を信用してくれた。

 妖精の花を見つけてきたとはいえ、F級冒険者の俺をここまで信用するのは難しいことだと思う。

 それなのに、カールさんは疑うことなく俺を信用してくれた。


 ──その期待に応えなければ、失礼というものだ。


 聖水、人魚の涙、万能草、妖精の花。

 それを釜の中に入れて、古代魔法を詠唱する。


「《万物調合》」


 釜の中の液体は自然にぐるぐると混ざり合わさっていく。

 ぐつぐつと水面からいくつもの泡が出てきて、湯気が立ち上る。

 すぐに水温は沸点に達し、そして泡は消え、水温も徐々に下がっていく。

 釜に入れていた素材は全て混ざり合い、透き通るようなライトブルーの液体──エリクサーが完成した。


 エリクサーをガラス瓶に入れ、カールさんに渡す。


「エリクサーが完成しました。早く娘さんに飲ませてあげてください」

「わ、分かりました……!」


 カールさんは一度深呼吸をして、ガラス瓶を受け取った。

 そして寝たきりの娘さんの身体を起こして、ゆっくりとエリクサーを飲ませてあげた。


「…………あれ? お父さん……?」


 瞳を開けた娘さんは不思議な表情でカールさんを見つめていた。

 それを見たカールさんは娘さんを思いっきり抱きしめた。


「よかった……! 無事で本当によかった……!」


 涙声でそう言い、カールさんの奥さんも一緒に涙を流しながら、二人に抱き着いた。


 本当に娘さんが治って良かった。

 そして、これだけ愛されている娘さんを俺は少しだけ羨ましく思った。


 さて、家族水入らずの時間を邪魔するのも無粋だ。

 俺はカールさん宅を静かに立ち去り、宿屋へ向かった。

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