第3話 《終極の猛火》

 さて、屋敷を飛び出してきたが、これからどうしようか。

 俺はうーん、と腕組みをして考えた。


 まずはウチが統治しているアルデハイム領の外に出ていくのは確定として、行き先を決める必要がある。


 所持金は金貨1枚。

 とりあえず当分の生活は凌げるが、どこかで稼ぐ手段を見つける必要があった。


「……うーん、ちょっと自分のやりたいこととかをまとめた方がいいよなぁ」


 という結論に至ったので、アルデハイム領の商業区域にある酒場に足を運んだ。

 酒場の中はとても賑やかだ。

 こんなに賑やかなところに来るのは初めてで新鮮だった。


 席に座り、サンドウィッチを注文した。

 お酒を飲んでみたいと思ったが、考えをまとめようとしているときに飲むものではないだろう。


「さて、どうしたもんか」


 俺は腕を組み、運ばれてきたサンドウィッチをつまみながら真剣に今後のことを考えた。



 ■やりたいこと

 ・世界を旅して色々な文化に触れたい


 ■やらなければならないこと

 ・お金を稼ぐ



 ……こんな感じか。

 色々な文化に触れたいのは昔から本を読んでいた影響かな。

 それに世界を旅するのは単純に楽しそうだ。

 考えただけでもワクワクする。


 でも世界を旅することと並行して、お金も稼がなければならない。

 自給自足の生活をするのも一つの手段だろうけど、便利な生活を送りたいのならば金は必要だ。


 この二つを満たすには……うん、冒険者が一番だろうな。

 冒険者という仕事は人気が高く、実力社会だ。

 実力があれば富と名声を手に入れられる。

 なんとも分かりやすい。


 よし、決まりだな。


 とりあえず冒険者になって、世界を旅しながらお金を稼ぐ。


 これが俺の生き方だ。



 ◇



 酒場を後にした俺は乗合馬車に乗り、アルデハイム領から出ていくことにした。


 アルデハイム領内にも冒険者ギルドは存在するが、ここで冒険者に登録すると俺の素性がバレてしまう可能性が高い。

 そうなればアルデハイム家に迷惑がかかってしまう。

 なので、少なくとも領内を出てから冒険者に登録しようという訳だ。


 魔法で移動してもいいけど、一度乗合馬車に乗ってみたかった。

 銀貨2枚を払って、東にあるルベループに向かう。

 ルべループはワジェスティ領だ。

 ここでなら冒険者登録をしてもよいだろう。


 乗合馬車の中には7人の客がいた。


「アンタ、どこまで乗っていくんだい?」


 背中に大きなバックパックを担いだ青年が声をかけてきた。

 バックパックには色々な物が入っている様子だ。

 商人かな?


「ルベループに行こうかなと」

「ほぉ〜、ルベループか。あそこはなかなか栄えている街だよな」

「ええ。なんでも枯れた土地を豊かにしたとか」

「おぉ! 詳しいねぇ!」

「たまたま本で読んでいただけですよ」

「いやいや、謙遜するなよー! 俺は商人で結構世界を回っているんだけどな、街の今を知っている奴は沢山いるが、歴史について知っている奴は中々いないもんよ。だからアンタすごいぜ」

「はは、ありがとうございます」


 彼はエドガーという名前らしい。

 乗合馬車での移動中は退屈だからよくこんな風に乗客と話すらしい。


 やっぱり乗合馬車に乗って良かった。

 これは本を読んでいるだけだと分からない知識だ。

 やっぱり実際に色々なものを見て回らないと、本質は分からない。

 尚更、世界を見て回りたくなった。



 それにしても商人か……。

 冒険者になる以外にもお金を稼ぐ方法はいくらでもあるな。

 でも、一番心が躍るお金の稼ぎ方は冒険者だと思う。

 うん、俺は冒険者になってお金を稼ぐんだ。



 ◇



「ヒヒィィーーーン!」


 馬車が急に止まり、乗客は姿勢を崩して前のめりになった。


「おいおい、一体何があったんだ?」


 エドガーは馬車から顔を出して、前方の様子を確認した。


「ありゃ魔物じゃねーか……しかもめちゃくちゃ強そうだぞ! それに誰かが戦ってるな」


 俺も馬車から顔を出して前方の様子を確認する。

 エドガーの言うように魔物と鎧を着た騎士が戦っていた。

 魔物はA級モンスターのウィンドタイガーだ。

 風を纏った巨大な虎である。

 この付近にはE〜D級のモンスターしか出ないため、A級モンスターの出現は異常事態だ。


 すぐさま馬車は反転し、来た道を引き返し始めた。


「やれやれ、戦っている奴らには悪いが今のうちに逃げさせてもらうのが一番だよな」


 エドガーは冷や汗を拭って呟いた。


「……いえ、俺は助けに行きます」

「は、はぁ!? 助けるって死んじまうぞ!? 命を無駄にすることはねえよ!」

「放っておけないんですよ。心配してくださってありがとうございます」

「馬鹿野郎……ッ!」


 俺はエドガーに微笑んで、馬車から飛び降りた。


 《着地》


 その場に俺は着地をして、ウィンドタイガーのもとへ駆け出した。


 理屈じゃなかった。

 何かに突き動かされているような、そんな感覚だ。


 ウィンドタイガーとの距離は30mほど。

 この距離なら魔法を当てることが出来る。


 攻撃系統の古代魔法を使うのは初めてだ。

 だけど、やるしかない。

 やらなきゃ誰も助けられない。


「《終極の猛火》」


 メラメラと燃え盛る紫の火炎がウィンドタイガーに向けて放たれた。

 ウィンドタイガーは瞬く間に紫の火炎に飲み込まれ、黒焦げになり、骨だけが残った。


 俺はウィンドタイガーと対峙していた人達に近寄り、安否を確認する。


「あの、大丈夫ですか?」


 唖然とした様子で騎士がこちらを見ていた。

 その後ろには、高貴なドレスを着て、まるでどこかの国のお姫様の様な美しい女性が座り込んでいた。


「これは其方がやったのか……?」


 騎士が兜を脱いで言った。

 女性だった。


「ええ、お二人とも無事なようでなによりです」

「……こちらこそ危ないところを助けていただきありがとうございます。あ、あの……お名前はなんと言うのですか? さぞ高名な魔法使いだと見受けられるのですが……」


 ドレスを身に纏ったお姫様のような女性は言った。


「名前はノアと言いますが、そんな大した者じゃないですよ」

「ノア様……素敵な名前ですね。助けて頂いたお礼をしたいので、これから私とアルデハイム家の屋敷にご一緒してもらえませんか?」


 アルデハイム家だって!?

 俺はもうアルデハイム家を追放された身分だ。

 戻ることは避けた方がいい。

 この二人には悪いが、逃げさせてもらおう。


「お二人が無事だったことが何よりのお礼です。先を急いでますので、これで失礼します」


 《空間転移》


 俺はさっきいた場所から姿を消して、3km先の道まで転移した。


「ふぅ……人から感謝されたのは初めてだったな。お礼を蔑(ないがし)ろにするのも悪かったよなぁ……。まぁ仕方ないか。気を取り直してルベループに向かおう」


 古代魔法の《疾駆》を詠唱して、走ってルベループに向かう。

 整備された街道を走っていては他の人に迷惑をかけるかもしれないので、街道から外れた道を走った。

 正直、馬車よりもこちらの方が速いのですぐにルベループに到着するはずだ。


 そして、そこから俺の冒険者生活が始まる。


 将来のことを思い描くと、今からとても楽しみで、すごくワクワクした。



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