第59話 予選開始
そしてヘクイルテイマーズカップ開催の日がやってきた。
大会は2日かけて行われる。
1日目にA~Cブロックに分かれ、予選が行われる。
各ブロックの参加者は約100人で、この中から勝ち残った5人が本選に駒を進める。
これで1日目は終了。
2日目は本選で、各ブロックを勝ち残った15人と前年度優勝者のミーシャを加えた計16人でトーナメント戦が行われるようだ。
開催される場所は大きな闘技場だ。
1階には受付があり、広いスペースがある。
その奥には闘技場があり、2階から観戦できる構造だ。
「わ。人がいっぱい」
「……そうだね。凄い人の数だ」
闘技場に訪れた俺とアレクシアはその人の多さに驚いた。
「あれは何? ノアの名前が書かれてる」
アレクシアは受付にある掲示板を指差した。
この大会は賭博ができ、受付の掲示板には各テイマーの倍率が表示されている。
[テイマー『ノア』 従魔『ファフニール』 倍率『16.5』]
出場するテイマーは多く、このような表記がずらーっと並んでいた。
「お金を賭けて、結果を予想しているんだ」
「ふーん」
人気が高ければ倍率は低くなり、人気が低ければ倍率が高くなる。
ファフニールの人気は低い方だ。
「……ん? あれって」
俺は掲示板を見て、聞き覚えのある名前を見つけた。
[テイマー『ドイル』 従魔『アウルベア』 倍率『1.4』]
ドイルは昨日、ファフニールをバカにしていたテイマーだ。
倍率は1.4倍でかなり人気のようだ。
「あれれぇ? ファフニールは随分と人気が低いみたいだなぁ?」
横から声をかけてきたのはドイルだった。
「そうみたいですね」
「誰も本物のファフニールって信じてねえってことだ。恥かく前に辞退した方が良いじゃねえか? ハッハッハ!」
ドイルはファフニールの頭を撫でて、バカにするように笑って、去って行った。
『コイツ……今すぐにでもぶち殺してやりたい』
ファフニールは頑張って怒りを抑えていた。
昨日のフェンリルとの一件を経て反省しているのが伺えた。
「ははっ、なんだよファフニールって。ありえねーだろ」
「本当ならもうとっくに有名になってるよな。Aブロックは前回ベスト4のドイルが無難だぜ」
横で掲示板を見ている二人がそんなことを話していた。
『今に見ておれ……。我に賭けなかったことを後悔させてやるぞ』
その話を聞いてファフニールはかなりやる気になっていた。
観客達を見返すつもりなのだろう。
『まあ……ほどほどにね』
嫌な予感がした俺はファフニールを軽く忠告しておいた。
◇
俺とファフニールは出場選手が控える控室に移動してきた。
控室は4部屋あり、約25人とテイマーと25体の従魔がいる。
そして予選は従魔のみで行われる。
テイマー自身が出場するのは本選からだ。
予選は各ブロックで約100体の魔物が出場するため、テイマーまでが出場すると数が多くなりすぎてしまう。
観客の見やすさとテイマーの身の安全を考慮した結果、予選は従魔のみで行われるようだ。
「どうやら逃げなかったみたいだなぁ。それだけは褒めてやるよ」
俺と同じAブロックのドイルが声をかけてきた。
「まあ出たくて出てますから」
「ハハハッ、見るからに貧乏そうだもんな。賞金に目がくらんだか」
「あ、あはは……」
一応白金貨1000枚の貯金があるため、金には困ってない。
ただそれを言いふらすのも気が引けるので俺は愛想笑いを浮かべていた。
「ま、残念だったな。お前のところのファフニールは俺様の従魔アウルベアが真っ先に潰してやるよ。これでミーシャの奴に恥をかかせることが出来る……フハハハ!」
ドイル、そんなこと言わない方が良い。
ファフニールがキレるから……。
『……』
あれ? ファフニールはドイルの発言に対して怒ると思ったが……。
何も言わず、ただ予選が始まるのをじっと待っているようだった。
……俺はそれが嵐の前の静けさのように感じてならない。
「まもなくヘクイルテイマーズカップAブロック予選を開始します! 選手の皆さんは従魔を闘技場に向かわせてください」
控室に備え付けられた魔導拡声器から音声が流れた。
テイマー達は皆、従魔を闘技場に向かわせ始める。
『ファフニール……ほどほどだぞ? 分かってるよな?』
『うむ。手加減はする』
本当だろうな……。
俺は少し不安に思いながらもファフニールを闘技場に送り出した。
「さてお前の従魔はどれだけ粘れるかな?」
ドイルはニヤニヤと笑いながら腕組みをして言った。
戦闘力のないハズレ才能【翻訳】で古代魔導書を読み漁っていたら実は世界最強になってました 蒼乃白兎 @aonohakuto
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