第41話 ヒルデガンドの思惑

 ラスデア国内にある魔法師団の数は全部で6師団存在する。

 師団の番号は、結成した時期が早いものから割り当てられる。

 1つの師団の規模は大体1万人である。


 騎士団は7つの騎士団が存在している。

 魔法師団とは違って、白薔薇騎士団、赤龍騎士団、といったように色で騎士団が分けられている。


 魔法師団、騎士団には夢幻亀の情報が既に伝達されている。

 それをもとに、各部隊の将官、司令官が夢幻亀討伐の作戦を立てていた。


 ノアの父であるヒルデガンド・アルデハイムは第2魔法師団の師団長を務めている。

 第2魔法師団の本部はアルデハイム領内に置かれており、この緊急事態に第2魔法師団の編成部隊を総動員させていた。


(私の得た情報では、ノアが冒険者として夢幻亀討伐の緊急クエストに参加していると聞いた。

 これは間違いなく好機だ。

 事故を装ってノアを始末することも出来るのだからな)


 ヒルデガンドが第2魔法師団の総動員させたのは、武功をあげればアルデハイム家が没落することはないと踏んだからだ。

 クローディア第二王女がノアについて摘発したとしても、今回の夢幻亀討伐に際して活躍していれば、お咎めなしになる。

 そして、ノアまで始末出来るとなれば一石二鳥だ、とヒルデガンドは考えた。


(……しかし、ノアの奴め。魔法を使えることを隠しておったな。

 だが、もう後には引けん。

 あれだけの魔法の実力を持っていれば、私に恨みを持ち、復讐することも考えられるだろう。

 ならば、ここで始末しておくのが最善……)


 ヒルデガンドが息子であるノアに対して、このような感情を抱くのは訳があった。

 それはノアの母親──レイナが関係している。

 レイナはノアを生んでからすぐに亡くなってしまった。

 それでヒルデガンドは悲しみに暮れた。


 レイナの死因は不明だが、ヒルデガンドはノアに宿る魔力の量が関係しているのではないかと思った。

 レイナは妊娠中からよく体調を崩すようになっていた。

 出産間近もレイナの体力はもう限界を超えていた。


 そして、生まれたばかりのノアの魔力の量は赤子とは思えないほどに膨大だった。

 一流の魔法使いに匹敵するようなレベルだ。

 普通じゃない。

 まさに規格外。

 そんな子を産んだのだから亡くなったレイナも報われる。

 そう思い、レイナの死を乗り越えたヒルデガンドに突き付けられたのは『ノアに魔法の才能がない』という現実。

 その瞬間にヒルデガンドはノアに対する愛情は憎しみに変わってしまった。

 自分の気持ちを守るために、我が子を犠牲にしたのだ。

 そして、ノアがレイナとの間に身籠った子ではない、別の男の子を身籠っていた、とすら考えるほどだった。

 才能は遺伝することから、『魔法の才能がない』という理由だけでその考えは比較的合理的ではあった。


 ラスデアでは一夫多妻制が認められているため、次男のグレンは別の妻が生んだ子だ。

 しかし、ヒルデガンドが真に愛していたのはレイナだった。

 彼の心にぽっかりと空いた穴はとても大きかったが、それを埋めるようにヒルデガンドは魔法の才能をちゃんと授かったグレンを愛するようになった。


 多くの要因が重なり、ノアは悲しい子供時代を過ごしたのだ。


「ヒルデガンドさん、夢幻亀討伐の作戦、第2魔法師団員全体への伝達が完了いたしました」


 ヒルデガンドのテントに副師団長が顔を見せた。


「ご苦労だった。明日の指揮はお前に任せたぞ」

「承知いたしました。ヒルデガンドさんの実力を考えれば指揮役に回るよりも、自ら戦う方が良いでしょうから」

「……そうだな。さて、明日の決行は早朝からだ。今日はもう身体を休ませておくといい」

「ありがとうございます。それでは失礼します」

「ああ、おやすみ」


 明日、ヒルデガンドは第2魔法師団とは関係なく、自由に動く。

 それは夢幻亀討伐のためという口実で、実際はノアを始末するためでもあった。


(ノアが消えたとき、私は本当の意味でレイナを忘れることが出来るだろう)


 ヒルデガンドの瞳はもう一つの迷いも無かった。

 なんの躊躇いもなく、我が子を手にかけることが出来るだろう。

 そう決心したヒルデガンドは静かに目を瞑ったのだった。

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