第28話 現代の料理

 ユンの屋敷に到着。

 アレクシアはキョロキョロと周りを見ながら移動していた。

 屋敷内の廊下を歩き、部屋に入る。

 豪華な長机の前にある椅子に座ると、続々と料理が運び込まれてきた。


『……いいにおい』


 アレクシアはきょとん、と置物のように椅子に座っている。

 長机に並ぶ料理を凝視して、じゅるりと涎が垂れていた。

 ハッとしてアレクシアはすぐに涎を拭った。


「さぁさぁ! 温かいうちに食べちゃって!」


 ユンが俺の横の椅子に腰掛けて、笑顔でそう言った。


『食べていいみたいだよ。食べ方は分かる?』


 アレクシアはコクリと頷き、机に置かれていたフォークを握った。

 そしてステーキにグサリ。

 タレが飛び散るのを気にすることもなく、ステーキを豪快に口へ運んだ。

 ガブリ。

 むしゃむしゃ。


 アレクシアは目をくりくりとさせて、


『美味しい……!』


 そう呟いて、無心でステーキにかぶりついていく。

 なんとも食欲をそそる食べ方だ。


 アレクシアが幸せそうな表情を浮かべていて、俺は少しホッとした。


「ふふ、美味しそうに食べるわね! そして食べ方も原始的だわ!」

「ゆっくりと色々現代のことを知っていけばいいさ」

「そうね。さ、私達も食べましょ!」


 アレクシアには色々と現代の常識を教えてあげなきゃいけないだろう。

 アレクシアの様子を見るに世界はとても変わってそうだ。



『たまには肉も食わんとな』


 ファフニールはそう言って、美味そうに肉を食べていた。


『あれ? ファフニールって草食じゃなかった?』

『うむ。基本は草食であるが、たまには肉も食わんと栄養不足になってしまうのだ』


 がつがつむしゃむしゃ。


『それなら先に言えば肉も用意してあげたのに』

『いや、基本的に肉は求めておらん。気にしなくて良いぞ』

『まあたまに肉をあげるようにすればいいかな? それともファフニールなら自給自足してくるのかな?』

『ふむ。ならば一週間に一食ぐらいは肉が食えれば良いな』

『ははっ、分かったよ』


 そして俺もステーキを食べ始める。

 ナイフとフォークを使って、肉を一口サイズに切り分け、それをフォークで刺して口に運ぶ。

 うん、美味しいな。


 その様子をアレクシアはじーっと見ていた。


『そうやって食べるもの?』

『うん。だけど、食べ方はあんまり気にしなくていいと思うよ。ゆっくりと現代に馴染んでいけば良いだろうし』

『なるほど、ちょっとやってみる』


 アレクシアは既に半分以上なくなったステーキを皿の上に置いた。

 そしてナイフとフォークで見様見真似で使おうとするが、微妙に違う。


『こうやってやると良いよ』


 俺は手本として、もう一度ステーキを切る動作をした。


『分かった。ありがとう』


 チラチラとこちらを見ながらアレクシアはステーキを切り分けた。

 それをフォークで刺し、食べる。


『美味しい。この食べ方の方が味が分かる』

『それは良かった』



 そして食事をし終えると、アレクシアはとても満足そうだった。


『料理、とても美味しかった。私が住んでいた時代よりも遥かに進歩しているわ』

『そうなんだね。どんなものを食べていたの?』

『お肉を焼いたものは食べていたけど、あんなに豊かな味はしなかった。野菜もそう。色々な味が混ざっているような感じがして、とても美味しかった……』


 アレクシアは頬を緩めた。

 もしかすると、味を思い出しているのかもしれない。

 どうやら現代の料理を気に入ってくれたみたいだ。



 ◇



 ユンの屋敷には浴場がある。

 男女で分かれているわけではないが、広々としたお風呂に浸かることが出来る。

 食事後、しばらくしてアレクシアを浴場に案内した。


「私がアレクシアと一緒にお風呂に入ってくるから、何か困ったときようにノアは脱衣室で待機しててもらえる?」

「ああ。分かったよ」


 そういうわけで俺は今、浴場前の脱衣室にいた。

 後ろで布の擦れる音が聞こえる。

 アレクシアとユンが服を脱いでいるのが音で分かる。

 ファフニールは既に浴場に入って楽しんでいる様子だった。

 ぼーん、と水の音が聞こえてくる。

 自分だけしかいないのをいいことに好き勝手やっているようだった。

 まぁ迷惑にならないなら大丈夫か。


 トントン、と肩を叩かれた。

 振り向くとまではいかずも、首を少しだけ横に回す。

 隣には、生まれたままの姿になったアレクシアが立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る