第46話 謎の力
……とは言ったものの、時間は少しでも多く確保したい。
なにせ俺は自分の『力』の存在はなんとなく自覚しているが、使い方は何も分からない。
試行錯誤に必要な時間は多ければ多いほど嬉しい。
だから、まずは魔法師団の攻撃を止めさせる。
見たところ夢幻亀の攻撃は魔法攻撃を吸収して繰り出すカウンターだ。
そのもととなる魔法攻撃の供給を絶てば、時間は稼げるはず。
魔法師団に魔法攻撃を辞めさせる方法……。
各師団長を説得しにいくことも出来るが、それでは時間があまりにもかかりすぎる。
その間に2回目の攻撃がファフニールとアレクシアを襲うことになる。
なので、俺はこの場で魔法師団全員に俺の言葉を届けることが最も効果的だと考えた。
《拡声》を使えば、この戦場全域に俺の声が届けられるだろう。
「皆さん聞いてください! 夢幻亀への魔法攻撃は逆効果です! 吸収して、先ほどのような夢幻亀の攻撃に繋がってしまいます!」
《拡声》を使った声は自分でも驚くほどに大きかった。
この戦場全域に間違いなく届いているはずだ。
◇
ノアの声を聞き、真っ先に行動に移したのは赤龍騎士団だった。
「空を飛んでる少年……さっきの少女の仲間か? それにあれだけ大きな声を出せる奴は滅多にいねえ。テメェら! この場は任せたぞ! 俺は頭の固い魔法師団の連中に魔法を辞めさせるように言ってくるからよ!」
「「「「はっ!!!」」」」
グレンは魔法師団のもとへ移動する。
近くで戦っていたのは第2魔法師団だ。
団長のヒルデガンドが空を眺め、呆然と立ち尽くしていた。
「おいヒルデガンド。第2魔法師団の奴らに魔法攻撃を辞めさせろよ」
「……グレンか。あの少年の話を真に受けてどうする。それに魔法攻撃以外で夢幻亀を倒せるとも思えないな」
「何か策があるのかもしれねえだろうが」
「仮にあったとしてもその策が有効でなかった場合、どうするのだ? それに吸収しているのならどこか限界があってもおかしくはない。攻撃の手を緩める理由はない」
「だが、あの少年は上空から戦況を見てんだぜ? どう見ても只者じゃねぇ。信じてみる価値は十分にあるんじゃねーか?」
「……ふむ。確かにな。第2魔法師団員は魔法攻撃を一旦中止しろ!」
ヒルデガンドがそう言うと、第2魔法師団員達は次第に魔法の詠唱を中断させていった。
「……驚いたぜ。ヒルデガンドが素直に言うことを聞くとはなァ」
「合理的だと判断しただけだ。……それに、あの声はどこか聞き覚えがあったからな。しかし、第1魔法師団を止めるのは難しいだろう」
「第1魔法師団……まさか、第十位階魔法を使う気か!?」
「もちろんだ。もし、あの少年の言う通り夢幻亀が魔法を吸収し、反撃をしてくるのならとんでもない事態になるかもしれないな」
「おいおい! そりゃやべえじゃねーかよ! 今すぐ辞めさせねえと!」
「もう遅いだろうな。それに第十位階魔法が効かないのならどちらにしろ我らに勝ち目はない」
「そ、そうだけどよ……」
人類最強の攻撃──第十位階魔法。
それが夢幻亀に通用しないのなら勝てるわけがない。
グレンもそれには同意する。
しかし、あの二人なら何かやってくれるのではないか、という期待も捨てきれなかった。
◇
少しだけ《拡声》を使った効果は多少あったようだが、全然だな。
上空からも見えるぐらいに大きな魔法陣が完成している。
……まさか第十位階魔法か?
威力は見たことないから分からないが、放たれた瞬間、夢幻亀はかなりの魔力を吸収することになるだろ。
『ノア、急げ! 地上でとんでもない魔力を感じるぞ!』
ファフニールが言った。
第十位階魔法がもうじき放たれるのだろう。
思っていた以上に残された時間は少ないな……。
『どれぐらいで魔法が放たれそうだ?』
『我の見立てでは後3分ほどだな』
『3分か……。十分だ』
笑みを浮かべるが、少し不安でもあった。
この3分間でファフニールとアレクシアの生死が決まる。
全てが俺にかかっているのだ。
とてつもない緊張感の中、俺は深呼吸をした。
──よし、早く結界を解除しよう。
まず、俺が真っ先に思い出したのは古代遺跡での出来事だ。
真っ白な世界で見つけたルーン文字で書かれた一冊の本に、扉というルーン文字を《刻印》すると、何もなかった壁に扉を出現させた。
あれは古代遺跡の仕掛けだったのか?
アレクシアと初めて出会ったとき、
『此処に辿り着けるのは権限のある者だけ』
と、言っていた。
俺はそのことについて一度、アレクシアに聞いてみたことがあった。
『アレクシアと初めて出会ったときに言っていた権限のある者ってどんな人物なの?』
『ルーン族の中でも地位の高い人達じゃないとあの扉は開けられないの。詳しいことは私も知らないけど、ノアがあの扉を開けたのはとても驚いた』
アレクシア曰く、あの扉を開けられるのはルーン族でも地位の高い人達だけとのこと。
そして、俺はそもそもルーン族ではないため、あの扉を開ける条件はルーン族の地位の高い人物ではない。
ルーン族の地位の高い人物が俺と同じような力を持っていたと考える方が理にかなっているのだ。
俺は結界に触れ、目を閉じてみた。
静かに集中力を高める。
あのとき、扉を開けることが出来たのはルーン族の遺跡があの力と関わりがあったからこそ使えたのか。
もしくは、あそこで力が目覚めたか。
……ま、関係ないな。
俺はあのときの力をここでも使うだけだ。
そう思った次の瞬間、視界が真っ白に変わった。
一冊の本があった。
ひとりでに本は開いた。
パラパラとページがめくられていく。
それを眺めていた俺は確信した。
この力があれば夢幻亀を倒せる──と。
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