第38話 エドガーと再会
次の日、街を出歩くと人々は皆避難の準備をしているようだった。
その光景が事態の深刻さを物語っていた。
決戦の日は明日。
夢幻亀の移動速度を考え、決戦の場所はリードルフ平原になった。
王都リードルフとルベループの丁度中間あたりにある平原だ。
既に昨日から現場に向かう者達もいるとユンから聞いている。
「なんだよ、あの巨大亀は……! せっかく王都に来たってのに台無しじゃねえかよ……!」
愚痴をこぼしながら、青年は荷物で一杯になった大きなバックパックを背負っていた。
俺はその青年に見覚えがあった。
「あの、すみません」
声をかけてみた。
「ん? ──おお! もしかしてアンタ、ノアか!?」
「ええ。久しぶりですね、エドガーさん」
エドガーさんは、ルベループに向かう乗合馬車で出会った商人だ。
ウィンドタイガーに遭遇して別れてしまったが、明るくて気の良い人だったことは覚えている。
「ちゃんと無事だったんだな! 心配したんだぜ!」
「ウィンドタイガーの隙をつくことが出来たので、なんとか無事でした」
「……やっぱりあのウィンドタイガーはノアが倒していたんだな。馬車から降りて、姿勢を何一つ崩すことなく着地していたのを見て、只者じゃないと思っていたんだ。それにウィンドタイガーも真っ黒焦げになっていたらしいからな」
「結構詳しいところまで知ってるんですね」
「ああ、一応商人だからな」
「言ってましたね。王都には商売で来たんですか?」
「そうなんだよ。でもあの亀のせいで商売あがったりさ! 勘弁してもらいてえよな。それでノアはどうして王都に?」
やはり夢幻亀には多くの人間が苦労しているようだ。
「冒険者をやってまして、依頼で王都に来たんです」
「なるほどな……もしかして、巨大亀討伐の緊急クエスト、ノアも参加するのか?」
「はい。参加するつもりです」
「やっぱりな。まあ報酬もデカいし、そもそもあの様子だと止めても無駄だろうから一つ言っておく。死ぬなよ」
「もちろんです。まだまだやりたいことは沢山ありますから、こんなところで死にませんよ」
「おう。またどこかで会えることを祈ってるぜ」
「ええ、エドガーさんもお元気で」
エドガーさんは笑顔で手を振り、この場から去って行った。
エドガーさんは助けに行こうとする俺を心配してくれていたから、こうして無事を伝えることが出来て良かったな。
しかし、少し話しただけのエドガーさんにも色々俺の性格がバレてしまっていた。
俺ってそんなに分かりやすいのかな?
そんなことを思っていると、向こうから声援が聞こえてきた。
「あ、騎士団と魔法師団だ!」
「あの巨大亀を討伐してくれー!」
「頑張ってくださいー!」
道の真ん中を騎士と魔法使いが馬に乗って移動していた。
魔法使い達の中に父の姿を見た。
視線が一瞬だけ合った。
流石にこの場で声をかけてくることはなかった。
しかし、夢幻亀討伐に父もいるのか……。
予想はしていたが、少し複雑だ。
◇
その日の昼過ぎに、俺達も平原に向けて移動を開始した。
《空間転移》を使って移動するのは、魔力を多く使ってしまう。
夢幻亀との戦いに備えて、魔力は出来るだけ節約しておきたいところ。
なので、ユンの魔導具である魔動四輪車に乗って移動することになった。
ルベループから王都リードルフに来たときに乗った魔動二輪車は二人乗りだったが、この魔動四輪車は最大四人まで乗ることが出来るようだ。
なんとも便利な乗り物だ。
「ユンも戦いのサポートをするとか言ってたけど、一体何をするんだ? その場で魔導具を作ったりとか?」
魔動四輪車に乗りながら、運転するユンに話しかける。
「あははっ! そんなことするわけないじゃない! 私、こう見えても一応回復魔法ぐらいなら使えるわ! だから、怪我した人たちを治療の仕事をさせてもらう予定よ!」
「なるほど、それは確かに重宝するな」
……しかし、夢幻亀はとても大きい。
平原に向かう道中でも夢幻亀の姿が見えるぐらいだ。
まるで山のようなのだ。
アレクシアの父は食べられてしまったと聞いている。
攻撃された際、怪我で済めばいいのだが……。
日が暮れた頃に、決戦場所である平原に到着した。
夢幻亀との距離はもうそう遠くはない。
着々とこちらに近づいてきているのが分かる。
平原にはテントが多く並んでいた。
多くの関係者がテントで一晩を過ごすようだ。
『人が沢山いる』
アレクシアは呟いた。
『だな。俺もこんなに大勢の人が集まってるのを見るのは初めてだ』
『私も初めて。ルーン族はこんなに多くなかったから』
『じゃあこれだけいれば夢幻亀もきっと倒せるよ』
先ほどまでアレクシアはどこか緊張している様子だった。
だが、この光景を見たおかげで少し安心したようだ。
周囲を見てみると、冒険者が多い。
騎士団、魔法師団はそれぞれ離れた場所で集まっているようだ。
冒険者達はテントの外で焚火をして、夕食をとっていた。
俺達が到着すると、ユンの魔導具を珍しがって、視線が集まった。
魔導具は高価なものが多いため、所有者はそう多くない。
ユン曰く、C級ぐらいから、ちらほら現れるらしい。
冒険者で最も多い等級はD級であるため、この場にいる冒険者の大半はD級である。
視線が集まる理由の一つはそれだろう。
ただ、ユンの魔導具は魔導具の中でも高価で珍しいものだ。
魔導具を所有していても珍しく思うに違いない。
それらが注目を集める理由になっていそうだ。
周囲を見渡してみる。
「あっ」
以前、絡まれた冒険者3人組と目が合った。
「「「ひ、ひいっ!」」」
すると、3人は悲鳴をあげてすぐに俺の視界から消えていった。
脅した効果は絶大のようだが、何もそこまでしなくていいのに……。
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