第56話 テイマー登録
テイマーギルドは木造の二階建てで、なかなか大きい。
茶色と白の壁と薄い緑色の屋根が特徴的だ。
俺はテイマーギルドの扉を開けて、驚いた。
「おお……やっぱり従魔が多いな」
「これが魔物……かわいいのもいる」
そういえば、アレクシアの住んでいた時代には魔物がいないんだったな。
ヘクイルまでの道中も魔物に遭遇することはなかったから、ファフニール以外の魔物を見るのはこれが初めてか。
ギルドの中を見渡すと、色々な種類の魔物がいた。
スライムやウルフなど小型の魔物。
アウルベア、リザードマンなど中型の魔物。
これがテイマーギルドか……。
冒険者ギルドとは一風変わった光景が広がっていた。
『ふむ。中々手応えのありそうな奴もいるみたいだな』
ファフニールはギルドの二階を見ながら少し嬉しそうに言った。
一階と二階は吹き抜けになっている。
欄干が見えるだけで姿は見えない。
だが二階からはファフニールに匹敵するぐらいの大きな魔力が感じられた。
『ファフニールのライバルになりそうだね』
『何を言っておる。あれぐらいなら我の相手にならんわ』
『ほうほう。じゃあファフニールならヘクイルテイマーズカップを簡単に優勝しちゃいそうだね』
『もちろんだとも。我にとってこの催しは息抜きでしかないからな』
ファフニールはかなり自信満々の様子だ。
「それじゃあ俺はテイマーの登録をしてくるから、アレクシアは先に食べてて」
「わかった」
そう言って、俺は受付まで移動する。
アレクシアとファフニールの様子を見てみると、ギルド内のテーブルに座っていた。
どうやらアレクシアは早速、料理の注文をしているみたいだ。
そして受付の前に立つと、受付嬢がニッコリと笑いながら話しかけてきた。
「こんにちは、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「テイマー登録をお願いします」
「承知いたしました。登録の前にテイマーの説明をいたしましょうか?」
「ぜひお願いします」
「テイマーとは従魔を従え、戦う職業のことで、テイマーギルドはテイマーに斡旋するために組織された自治団体となっております。冒険者ギルドと同じようにFからSまでの等級があり、依頼などの実績を積むことで昇格していきます。冒険者ギルドとの大きな違いは依頼がテイマー向けのものが多いところでしょうね」
「ありがとうございます」
「登録する従魔はそちらでよろしかったでしょうか?」
「はい」
「ではこちらの紙に必要事項の記入をお願いします。文字が書けないようでしたら遠慮なくお申し付けください」
「ありがとうございます。文字は一応書けるので大丈夫です」
渡された紙に設けられた項目は冒険者のときとほとんど同じだ。
名前、性別、年齢、種族、才能、これらの項目に加えて、従魔、が追加されていた。
俺は従魔としてファフニールの名前をそのまま登録していいか、少し悩んだ。
ルベループで騒ぎになったことが少し懸念材料だったからだ。
……まあ従魔として従えているなら大丈夫か。
俺は必要事項を記入して、受付嬢に渡す。
「……え、えーっと……従魔の欄にファフニールと書かれているのですが……」
受付嬢は分かりやすく苦笑いを浮かべていた。
……まあそうなるよな。
ファフニールといえば想像する姿は巨竜だ。
まさかこんな小さい姿になっているとは夢にも思わないだろう。
「ファ、ファフニールの子供です!」
「……虚偽の報告だと発覚した際は罰金を払っていただくことになりますが、よろしいでしょうか?」
「問題ありません」
「承知いたしました。それではこちらの内容でテイマーの登録をさせていただきます。ノアさんは冒険者の登録はされていますか?」
「はい」
「テイマーギルドでは冒険者ギルドと同じようにギルドカードを発行しているのですが、もし冒険者のギルドカードのお持ちでしたら、それ1枚で併用することが出来ます。なので新たにテイマーのギルドカードの発行する必要もなくなるわけですね」
「おお、それは便利ですね! 併用する方でお願いします」
「承知いたしました。では冒険者のギルドカードを一度お預かりさせていただいてもよろしいでしょうか?」
俺は言われた通りに冒険者のギルドカードを受付嬢に渡した。
「……えっ?」
受付嬢は俺のギルドカードを見た瞬間に表情が固まった。
ギルドカードは緋色に輝いている。
……そういえば夢幻亀の一件で俺はSランク冒険者になっていたな。
その際にヒヒイロカネで作られた緋色のギルドカードを渡されていたのを思い出した。
「……し、失礼しました。と、取り乱してしまい申し訳ございません……っ! い、今手続きを済ませますねっっ!!」
受付嬢はかなり動揺した様子で受付に置かれた魔導具を操作していた。
「と、登録が終わりましたのでギルドカードをお返しいたします……!」
登録が終わると、受付嬢はぷるぷると震えながらギルドカードを渡してくれた。
俺は苦笑いを浮かべながら受け取る。
「あ、あはは……ありがとうございます」
受付嬢は、はぁ〜、ふぅ〜、と深呼吸をしていた。
そんなに緊張してしまうものなんだな……。
Sランク冒険者の肩書きは便利だけど、俺には似合わないかもしれないと思った。
「それから『ヘクイルテイマーズカップ』の登録をしたいのですが」
「……承知いたしました。登録しておきますね!」
受付嬢は冷静さを取り戻して、先ほどと同じように対応してくれた。
「ありがとうございます」
俺は感謝を述べてから受付を後にして、アレクシア達のもとへ戻る。
「ノア、おかえり」
アレクシアはむしゃむしゃ、とサンドウィッチを食べていた。
ファフニールは机の上で体を丸くして、尻尾を枕のようにし、目を閉じていた。
「ただいま」
「登録は出来た?」
「もちろん。大会は2日あるみたいだから、宿もそれだけ予約しておいて良いだろうね」
「分かった。滞在期間は美味しい料理を満喫する」
「それじゃあ頑張って最後まで勝ち残らないとな」
そう言うと、パチリとファフニールが目を開けた。
『ふっ、それぐらい朝飯前だ』
『ははは、期待してるよ』
そんな会話をしていると、周囲からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
「おいおい……あいつあの従魔で勝ち残るつもりでいるぜ?」
「見ない顔だな。何も知らない新人が夢見てるだけだろ」
「くくく、いるよなぁ毎年。ああいう駆け出しのテイマーがさ」
どうやら嘲笑されているようだった。
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