第52話 勲章と白金貨1000枚

 王様と謁見するために、城内を移動する。

 どうやらユンの言う通り、俺達に勲章が授与されるらしい。


 城内に仕えている者達は廊下の端に寄り、道を空けた。

 城内は流石と言うべきか、とても煌びやかだ。

 アレクシアは珍しそうに城内のあちこちを見ていた。


 案内をしてくれているのは第1魔法師団の団長ローレンスさんだ。

 とても気さくで話しやすい方で、父とは旧知の仲なのだそうだ。

 そのことをさっき話された。

 小さかった頃の俺とも会ったことがあるらしいが、俺は何も覚えていなかった。


「そういえばノア君、ヒルデガンドは夢幻亀を倒した後、父親失格だと自分の過ちを咎めていたよ」

「へー、父上がそんなことを──って、父上は生きているんですか!?」

「あれ? もしかして死んだと思ってたのか?」

「は、はい。てっきり父上は死んでしまったのかと……。凱旋のときも父上の姿が見当たらなかったので……」

「それは俺も聞いていなかったな。ま、近いうちに会えるさ。会って、親子の溝を埋めてやればいい」

「……ローレンスさん、ありがとうございます」

「礼を言うのはこっちの方だよ。ノア君がいなかったら、こうして平和も訪れていなかったわけだからな。さて、謁見の間についた」


 ローレンスさんはそう言って、謁見の間の扉をゆっくりと開いた。

 入り口から玉座まで赤い絨毯が伸びている。

 踏んでみると、とてもふかふかだった。

 大変高価なものだろう。


 謁見の間には多くの貴族が集まっていた。

 服装や雰囲気などからこの国の重鎮なのだろうと感じた。


 ローレンスさんは玉座から少し離れた位置でゆっくりとした動作で傅いた。

 俺とアレクシアもそれに倣う。


「面を上げよ」


 声の通り、顔を上げる。

 玉座にはラスデア国の王様が腰を下ろしていた。

 そして、その付近に見覚えのある顔を見つけた。

 あ、あれは! アルデハイム領を出るときに助けた少女じゃないか!


「此度は夢幻亀の討伐、ご苦労だった。ノアとアレクシアがいなければ、ラスデアは滅んでいただろう。ラスデアを救ってくれて、本当にありがとう」


 王様は頭を下げた。


「さて、我は其方達の功績に見合う勲章と報酬を与えねばならん。だが、その前にノアよ。我が娘クローディアの顔に見覚えはないか?」

「……あります。ウィンドタイガーと対峙していたところを手助けしました」

「ノア様、申し遅れましたが、私、ラスデアの第二王女のクローディアと申します。あのときは助けたいただき、誠にありがとうございました」


 だ、第二王女……。

 俺はかなり地位の高い人を助けていたらしい。


「恐縮です」

「ふむ。報酬を与えるに至って、クローディアの証言と共にノアの生まれを調べさせてもらったのだが、どうやらアルデハイム家の者らしいな。どうして家名を名乗っておらんのだ?」

「私が家のことを隠して、自由に冒険者稼業をやっていきたいと思ったからです」


 アルデハイム家から追放されたことを話せば、父上に迷惑がかかってしまうはずだ。

 だから、あくまで全て俺が独断でやったことと説明しよう。

 これが俺に出来るせめてもの親孝行だろう。


「──それついては当主である私から説明させていただきます」


 謁見の間の扉が開いた。


「父上!」


 現れたのは父上だった。

 驚いたけど、父上はローレンスさんの言う通り本当に生きていたようだ。

 ……良かった。

 少し気持ちが楽になった。


「ほう。ヒルデガンドか。申してみよ」

「ありがとうございます。……私はノアに酷いことをしてきました。ノアが5歳のときに魔法の才能が無いと鑑定されてからアルデハイム家にいない者として扱ってきました。そして15歳になったとき、アルデハイム家から追放し、ノアの命までも奪おうとしました」

「なんと……!」


 貴族達から驚きの声が上がった。


「ノア、本当にすまなかった。許してくれとは言わないが、相応の償いをする覚悟は出来ている。……陛下、以上が私からの説明になります」


 父上が俺を見る目は凄く悲しそうだった。


「なるほど、よく分かった。正直に述べてくれたことを嬉しく思う。ではヒルデガンドに処罰を与える。異議はないな?」

「はい。何もございません」

「よろしい。ではヒルデガンドの処罰は伯爵から男爵に降爵とする」

「な……! 陛下、それだけでよろしいのですか……?」

「今までの功績と夢幻亀討伐でヒルデガンドが残した功績を考慮すると、これぐらいが妥当だろう。それから息子と会話する時間を作るのだな」

「……ありがとうございます!」


 父上は涙を流しながら平伏した。

 俺も少し涙腺が熱くなった。


「よし、それではノアとアレクシアに勲章の授与を行う。勲二等聖魔勲章を授けよう」


 周囲がざわざわとした。

 勲二等聖魔勲章はかなり名誉なもので確か、最後に授けられたのは100年前とかって本で見たことがある。

 ものすごい勲章が授与されたものだな……。


「それからアレクシアに授けるのは難しいのだが、ノアには準男爵の地位を授けよう」


 ユンが予想していた通り、爵位の授与も行われるようだ。


「爵位の授与については申し訳ありませんが、辞退させて頂きたく思います。今後私は冒険者として世界を旅する予定なので、貴族として責務を果たすことは出来そうにないので……」

「なるほど、それならば仕方ないな。では次に報酬だ。夢幻亀の素材は大変貴重で高価なものである。それを買い取るに見合った報酬を二人に支払う必要がある。よって、二人には白金貨1000枚を与えよう」

「せ、せ、せんまいッ!?」


 白金貨は1枚で金貨が100枚分ぐらいの価値がある。

 つまり白金貨1000枚は金貨100000枚分ぐらいの価値があるというわけだ。

 もう一生遊んで暮らせるぞ……。

 俺とアレクシア、二人合わせて白金貨2000枚を貰うことになるわけか……。


『ノア、一体何を驚いているの?』

『後で話す……なんか凄いことになってるから……』


 アレクシアはコクンと頷いた。


「最後に冒険者ギルドより昇級の連絡が来ている。ノアとアレクシア、両名D級からS級へと昇格させるとのことだ。おめでとう」

「あ、ありがとうございます……」


 ……とんでもないものを色々貰って、謁見は終了した。


 謁見の後、俺は少し父上と話をした。


「ノアには本当に償っても償い切れないことをしたな……。本当にすまない」

「理由はなんとなく分かってます。俺の母上が関係しているんじゃないですか?」

「……ああ、その通りだ。ノアの母であるレイナが死んで、私は悲しみに暮れていた。そして、あろうことか、ノアを怨むことでレイナがいなくなった悲しみを拭おうとしていたのだ」

「ええ。だから俺は父上の気持ちに整理がつくまで待っていようと思っていました。それで今回、父上が俺のことを見直してくれたからもう満足です」

「ノア……」

「父上、また今度アルデハイム家に訪れても良いですか?」

「……ああ! もちろんだ。いつでも来てくれ……。歓迎しよう」


 父上は涙を流しながらそう言った。


「ノア……本当に立派になったな……」


 きっと俺は父上に認めてもらうことが出来たのだろう。

 その事実がとても嬉しかった。

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