第53話 舞踏会

 この後、城で舞踏会が開催されるらしく、俺達も参加することになった。

 現在は舞踏会の会場に移動している最中だ。

 移動中に謁見の時にあった出来事をアレクシアに説明する。


『……というわけで名誉ある勲章とめちゃくちゃな大金を貰いました』

『なんだかよく分からないけど凄いわ』

『もうお金に困ることはないだろうね』

『……あ、もしかして美味しい料理も沢山食べられる?』

『料理換算!? ま、まぁ食べられるけど』

『それは素敵』


 アレクシアは食欲に素直だなぁ……。

 まあ現代の料理をそれだけ気に入ってくれているのはとても嬉しいことだ。


『このあとも美味しい料理ならこの後沢山食べられると思うよ』

『……なるほど、みんなの役に立つと現代では美味しい料理が食べられる』


 アレクシアは理解した様子でウンウン、と首を縦に振った。


『間違ってはないかな……?』


 白金貨を使えば何もしなくても美味しい料理が食べられる訳だが、それを言うのは無粋そうだ。


 会場に到着すると、白いテーブルクロスの上に沢山の料理が載せられていた。

 それを見てアレクシアは目を輝かせた。


『食べて良い?』

『はは、早速食べようか』

『うん。食べる』


 席に座って、料理を食べる。

 豪華で美味しい料理がいっぱいで、アレクシアは美味しそうに頬張っている。

 社交界ではマナーが重要視されるだろうが、気にせず食べる。

 貴族になるわけでもなく冒険者として過ごすのなら、無作法なぐらいが丁度いいだろうからね。

 それに、マナーなんて気にしてたら楽しい時間を過ごせないさ。


 会場では音楽が奏でられており、貴族達がダンスを踊っている。


「ノア様、私と踊ってくださいますか?」


 クローディアさんが現れた。

 手を前に出して、俺を誘っている。


「もちろん。構いませんよ」


 その手を取って、俺はクローディアさんと踊り始めた。

 基本的なダンスのステップなどは本を見て知っているので、問題なく踊ることが出来る。


「以前、ノア様に助けられた後、私はヒルデガンド様の発言を聞いて驚いたんです。ノア様をいない者として扱っていましたから」


 ダンスの最中、クローディアさんは悲しげな表情を浮かべながら言った。


「はははっ、しかしもうアルデハイム家に帰る気はないので、いないも同然ですよ。それに父上は反省してくれていますから」

「……お優しいんですね」

「そんなことないです。これぐらい普通ですよ」

「ご謙遜なさらずに。誰よりも強い魔法使いで、誰よりも優しい、それがノア様です」

「随分と評価してくれているんですね……ありがとうございます」

「ノア様はラスデアの英雄ですからね。事実を言ったまでですよ。……それと一つ不躾なことをお聞きするのですが、アレクシア様とはどういったご関係なのですか?」


 クローディアさんは少し不安そうに言った。

 アレクシアの名前が出てくるとは思いもしなかった。

 まさか、アレクシアがルーン族だと気付いている? 

 ……そんなわけないか。


「冒険者仲間で俺にとって大切な存在……って感じですかね」

「そうですか……。仲がよろしいんですね」


 ニコッとクローディアさんは笑った。


「ええ。家族みたいなものかもしれませんね」


 アレクシアはこの世界に家族はいなくて、俺を大切な人と言っていた。

 そして俺もアレクシアは大切だと思っている。

 だから俺達はきっと家族みたいなものなんだろう。


「……私なんかじゃかないませんね」


 クローディアさんが小さな声でなにかを呟いた。

 小さすぎてよく聞こえなかった。


「えっと、今なにかおっしゃいましたか?」

「あっ、いえっ! ちょっと心の声が漏れたというか……なんというか……」

「なんだ、独り言でしたか。そういうときたまにありますよね」

「……ええ。そうなんです」


 クローディアさんはそう言って、微笑んだ。

 それから3曲ほどクローディアさんとダンスを踊った。


「ふふ、とても楽しい時間をありがとうございました」

「いえ、俺も楽しかったです。ありがとうございました」


 クローディアとのダンスを終え、アレクシアのもとへ戻る。

 ジトーとアレクシアの視線が突き刺さる。


『なにかあった?』

『……私もノアと踊りたい』

『ああ、なるほどね』


 色んな人が踊っているのを見てアレクシアも踊りたくなったのだろう。

 だけど、アレクシアはまだまともにラスデア語を喋ることが出来ない。

 だから、俺が終わるのをジッと待っていたってことか。


『踊り方は俺に合わせてくれればいいかな。あんまり上手くないけど』

『大丈夫。さっき見て覚えたから』

『ほほう。じゃあお手並み拝見といこうかな』


 リズムに合わせてアレクシアと一緒に踊る。

 アレクシアは見て覚えた、と言うだけあって普通に踊れていた。

 凄いな。

 きっと運動神経が良いのだろう。


 ……いや、違うな。

 これはルーン魔法を使っているぞ。


『《状態解除》』


 アレクシアは無詠唱で《模倣》を使い、さっきのクローディアの動きを真似していたのだ。

《状態解除》で《模倣》の効果を消してみる。


『あっ』


《模倣》がなくなったアレクシアは途端に踊りが不格好になった。


『自分で踊った方が楽しいよ』

『でも踊り方分からないから……』

『だから俺に合わせるように踊れば大丈夫だよ』

『……分かった』


 アレクシアは顔を恥ずかしそうに顔を赤らめた。


『そうそう。その調子』

『……ん……確かに自分で踊った方が楽しい』

『それなら良かったよ』


 アレクシアと3曲ほど踊ってから帰ることにした。

 少し早いが、ファフニールのことも気になるからね。


 ファフニールのお土産にレッドベリーを買うために街へ向かった。

 露店では夜でも果物を売っているところがある。

 そこでレッドベリーを買おうとして気付く。

 お金が沢山手に入ったから並んでいる果物全部買っても問題ないんじゃないか? と。

 そして俺は露店に並ぶ果物全てを大人買いした。

 店主はとても驚いていたが、喜んで全部売ってくれた。


 街はまだまだお祭り騒ぎで賑やかだった。

 そしてめちゃくちゃ声をかけられた。


「ラスデアの英雄だ!」

「ラスデアを守ってくれてありがとうございます!」


 と、声をかけてくる人が多すぎて大変だったので俺とアレクシア

 は《気配遮断》を使って、逃げるようにユンの屋敷に帰ってきた。

 早速ファフニールにお土産のレッドベリーを渡してあげると、美味しそうに食べていた。


『ふっふっふ、我はかなり活躍していたからな。これぐらいの報酬は当然だな。もっとあってもいいぐらいだな』

『そう思ってね。沢山買ってきたよ』


 俺は《アイテムボックス》からレッドベリー以外の果物を取り出した。


『ほほーう! ノア、太っ腹ではないか!』


 ファフニールは嬉しそうに果物を貪った。

 ま、この調子ならもう大丈夫そうだな。

 ファフニールが元気になって良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る