第26話 ルーン族の王女
彼女はゆっくりと瞳を開けた。
俺達を認識すると、目を見開いた。
『誰? 此処まで辿り着けるのは権限を持つものだけなのに……』
彼女は入っていた魔導具の中から飛び出ると、腰を低くして臨戦態勢になった。
「な、何て言っているの……?」
話す言語は古代言語。
ユンは彼女が何を言っているのか分からないだろう。
『何を話している……? まさか悪魔……?』
彼女は何か勘違いをしていた。
早く誤解を解かないと状況はまずい方向に行ってしまう。
「ユン、すまないが話は後にしよう。彼女すごい誤解してるみたい」
「わ、分かった!」
まずは彼女は多分、現代の言語が分かっていない。
不信感を抱かせないためにもユンとの会話は出来るだけ避けた方がいいだろう。
『誤解だよ。俺達は此処を探索しにきただけです』
『貴方はルーン言語を話せるの』
『ええ、でもこの人を含めて他の人間はルーン言語を話せないと思います』
ルーン言語は俺が古代文字と言っているルーン文字を言語化したものだ。
|失われた技術(ロストテクノロジー)とされているなら、俺以外では話せる人間がほとんどいないと考えて間違いないはずだ。
『嘘……』
彼女は酷く落ち込んだ様子だった。
『ねぇ、今ってルーン暦何年になる?』
『ルーン暦? 紀年法は文明暦ただ一つですよ。紀元前の情報はほとんど残っていませんから』
『……ルーン族は?』
『分かりませんけど、俺の知る限りは見たことも聞いたことも……』
『そんな……』
絶望した表情で彼女は地面に座り込んだ。
『やっぱり紀元前から眠っていたんですね。……残念ながら、多分君が眠ってから世界はものすごい時間が経っていると思います。少なくとも今は文明暦779年。最低でも779年は眠っていたことになるはず』
『一瞬、目を閉じただけなのにそれだけの時間が過ぎていたなんてね』
もしそれが自分だったらと考えたらゾッとする。
次の瞬間に何百年と時間が経っていて、自分の知らない世界に放り出されるのだ。
なんて恐ろしいのだろう。
『……よければ君がなんでここで眠っていたのか、教えてくれませんか? 嫌なら無理に言わなくてもいいですから』
『……大丈夫。私も現状を把握しなければいけない』
『……強いんだね』
『ううん。そんなことない』
彼女は一呼吸置いてから、今までの経緯を話し出した。
『私はキルクシーシャというルーン族の国の王女だった。第二次人魔大戦のときに悪魔と異界の化物から私を守るためにこの場所が作られた。大戦後、私を目覚めさせ、キルクシーシャの復興をする予定だったけど、そう上手くはいかなかったみたいね』
『……ちょっと待ってください。第二次人魔大戦とは一体なんですか?』
『そう。知らないのね。貴方の言う文明暦よりも前の歴史は何一つ残ってなさそう。第二次人魔大戦は、ルーン族と悪魔の戦いのこと。悪魔陣営は異界の化物も召喚して、まるでこの世の終わりのようだった』
『そんな戦いがあったなんて……』
『それが私の今までの経緯。そして、貴方が私を目覚めさせた。何故?』
彼女は俺という人間を深く観察するように、じーっと見つめていた。
『こんなところで一人でいるのは可哀想だったからで……後は好奇心かな』
『それだけの理由で私は起こせないことになっている。どうして私のもとまで来ることが出来たの? 最深部まで来られたとしても壁とゴーレムがいたはず。あれは権限を持つ者だけにしか対処出来ないはずなのに……』
『権限って何か分からないけど、扉のような壁のことなら、文字を壁から扉に変えたんだ。ゴーレムは俺にだけ何も襲って来なかったね。申し訳なかったけど、無力化させてもらったよ』
『……どうしてルーン族でもない貴方がそんなことが出来るの? 一般のルーン族でも出来ないことなのに……不思議』
『俺も不思議で仕方ないんだ。突然目の前に本が現れて、そこに記されていたルーン文字を書き換えたんだ』
『本……。思えば、権限を持つ者はみんなそう言っていた。つまり、貴方も権限を持っているということ?』
『えーっと……身に覚えがないから何とも言えないね。ちなみにその権限ってどういうもの?』
『私も詳しく聞かされていないけど、世界に干渉する力と聞いたことがあるわ』
『世界に干渉する力か……。随分と凄い力だね』
『貴方も世界に干渉してみせたからここにいる。それも無自覚で使うなんて、不思議』
彼女は本当に不思議そうに俺をじーっと見ていた。
そしてぐ~っとお腹をすかせた。
『……お腹すいた』
彼女はそう言って、お腹に手をあてた。
『ひとまず此処を出て食事にしようか』
『うん。そうする。どうせ行く宛もないから』
『……あ、そういえばまだ名前言ってなかったね。俺の名前はノア。君の名前は?』
『私はアレクシア』
『良い名前だね。よろしくアレクシア』
『うん。よろしく』
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