第32話 日常生活

 ユンの魔導具をアレクシアが完成させた後、またしばらく二人の会話を翻訳することになった。

 ユンはアレクシアに当時の生活のことについて聞いていた。

 古代遺跡で眠っていた詳細については質問しないように俺からユンに言っておいた。

 それはアレクシアの触れてほしくない思い出だからだ。


 今朝、アレクシアにラスデア語を教えながら雑談していたときのことだ。

 俺は、あの古代遺跡で眠るようになった経緯について詳しく聞いてみた。

 すると、アレクシアは話すのを嫌がった。

 アレクシアが目を覚ましたとき、悪魔と戦っていたというのだから悲惨な出来事ばかりだったのかもしれないと俺は推察した。

 触れてほしくない思い出なんて誰にでもあるだろう。

 俺も自分で聞いてみて、デリカシーがなかったと反省した。


 ユンがアレクシアに聞いたのは以下のようなことだ。


 本当に魔物がいなかったのか。

 生息していた動物について。

 食べ物について。

 住居について。

 などのことをアレクシアに聞いていた。


 アレクシアの話は興味深かった。

 やはり驚くのは地上に魔物が本当に存在していなかったということ。

 生息する動物は魔物のように体内に宿す魔力が少ないものばかりだったという。


 ただ、体の大きさは大きいもの、小さいもの、分かれており、弱肉強食の世界だったようだ。

 ルーン族は食物連鎖の圧倒的な頂点に君臨していたことだろう。

 しかし、動物達を支配するようなことはせずに最低限の食糧だけを頂くようにしていたらしい。


 聞けば聞くほど、ルーン族という民族は不思議だと思った。


「よし、ありがとう! とても興味深いことが聞けたわ! それからこのことは私だけの秘密にしておくから安心して欲しいわ! アレクシアの生活を脅かすような真似はしたくないもの!」


 話を聞き終わったユンは満足した様子だった。

 そして、ユンは魔導具の研究を再開していた。

 理由は魔物を探知する機能を自分では再現出来ないから。

「同じものを作ってくれ」と今後頼まれたときに応えることが出来ないのを危惧して自分で魔物の探知機を作ることに励んでいた。

 魔導具技師としてのプライドもあったのかもしれない。

 とりあえず、アレクシアに作ってもらったものはそのまま納品するみたいだが。


 その日の夕食は昨日に引き続き豪華なものだった。


「手伝ってくれたお礼よ!」


 ということで美味しいものを沢山食べられた。

 慣れない手つきでフォークとナイフを使い、アレクシアは美味しそうにご馳走を食べていた。

 そして夕食後、今日も一緒にお風呂に入ろうとアレクシアに誘われた。


 お風呂は身体を清めるために、そして疲れた心を癒すために入るものだと思う。

 異性との入浴は何か責任感を覚えてしまう。

 誘ってくれることは嬉しいが、流石に二度目は遠慮しておいた。


『ふっ、意気地なしめ。では我がアレクシア達と一緒に入ってくるとしよう』


 そう言って、ファフニールは一緒に浴場へと消えていった。



 ◇



 ファフニールから入浴が終わったことを告げられ、俺も浴場へ行った。

 浴場に行くと、嗅覚が刺激された。

 花のような甘い香りが鼻孔をくすぐった。

 そのことについてはあまり考えずに俺は身体を洗い流した。

 部屋に戻ると、ファフニールは既に眠っていた。


 俺も寝る準備をした後になんとなく窓を開けた。

 薄く雲がかかった月が見えた。

 夜風が火照った身体を良い具合に冷ましてくれた。

 なんだか心地が良い。

 しばらく俺は椅子に座り、背もたれに寄りかかりながらボーッと夜空を眺めていた。


「……さて、そろそろ寝るか」


 体温が下がって、眠気が生じてきたところで俺は呟いた。

 窓を閉めたとき、扉の外から声がした。


『ノア、起きてる?』


 アレクシアの声だった。


『ああ、起きてるよ』

『一緒に寝てもいい?』


 アレクシアは予想外のお願いをしてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る