第10話 十八世紀のちょっとした美人なんかに負けるはずない

 

突っ込まれても、ここでめげるわけにはいかない。



「私たちはどうあってもヴェルサイユ宮殿では新人&異邦人でしょう?」


「まあ、そうよね、未来から行くんだから」


「でしょ? 下手したらアントワネットとは話せないかもしれない。それじゃ行き損になってしまう。行くなら、できる限り成功率を高める準備はしていかないと」


「成功率?」


「そうよ! ガンガン二十一世紀の文明の利器を使って目標を達成しなくちゃ」


「たとえば、カメラとかでアントワネットを撮影して喜ばせる? みたいな?」


 写真を撮られるのが大好きなフィービーがいう。


「そうそう、そういうこと。でももちろんカメラなんて持って行くわけにはいかないわ。十八世紀で二十一世紀の文明を披露したらまずいじゃない?」



 アイリスが引き取って、


「そうすると、向こうに持ち込む二十一世紀のものは、わからないように持っていくことね。じゃあ、十八世紀に持ち込むものを 至急決めて用意することが大事になるわね。」


「そう。私が考えてみたんだけど必要なものは大きく分けて四種類よ」



✔ アントワネットに振り向いてもらうためのプレゼント類、

✔ 私たちが使う日常品、

✔ ポリニャック伯爵夫人と戦うためのツール、アイテム

✔ ヴェルサイユ宮殿で情報収集するためのアイテム



「この四種類が必要だと思うの」


「そうねぇ、日用品が意外と大切だと思うわよ、だってフィービー知ってる? ヴェルサイユ宮殿と言えば聞こえはいいけれど十八世紀は信じられないくらい住みにくいのよ」


「そうなの、アイリス? ゴージャスなイメージだけど」


「不潔なのよ。だって貴婦人の頭にはしらみがいたんですって。のみとかしらみとかって、私たちは耐えられない生活よ」


 笑いながらアイリスが言う。


「ええ~嫌よ、そんなのは嫌、しらみものみも絶対に嫌だわ」


「フィービー、ご褒美欲しいんでしょう? だとしたら対策を考えていきましょうよ」


「難しく考えても仕方ないわ。答えなんてどこにもなくて、聞く相手もいないんだから。長期の発展途上国への旅行、電気はつながらない環境でできる限り心地よく暮らすために何を持っていくか? こう考えましょう」


「そうね、OK。それならわかりやすいわ」


 基準が決まれば、リゾート旅行の準備に毛が生えたくらい、、のはずだ。


 三人は口々に十八世紀に持っていくものは何がいいか? リストアップし続けた。


 意外に楽しい女子会のイベントがスタートする。


「長期の発展途上国への旅行だと思えば必要なものが浮かんでくるでしょ? その中からコンセントやWi-Fiを必要とする電化製品とパスポートを抜いたものが持ち物だわ」


「それでね、コスメはたっぷり持っていくわ。ポリニャック伯爵夫人に負ける気はしないけれど、ノーメイクで戦うなんてハードルを作る必要もないから」


 アンは、ポリニャック伯爵夫人との美貌対決に闘志を燃やしているようだ。


「あら、戦う気満々ね」アイリスが茶化す。


 アンは気にせず、


「私たちがいく時代のポリニャック伯爵夫人は三十才なの。私たちより年下なの。そしてアントワネットは二十五才。アントワネットから見てうんと年上のおばさんに見えたら、たぶん彼女の寵愛は得られないわ」


 なるほど。


 自分より若い美女より美貌で勝たなくてはいけないのだと 二人はさとる。


「できるだけメイク用品を持参して、うんと綺麗にして憧れの美人お姉さまのポジションを勝ち取るのよ!」




憧れの美人お姉さま―――



「三十才なのね、ポリニャック伯爵夫人は……」アイリスが年齢を気にする。


「若いアントワネットに憧れられないとだめなのね、男性なら得意なんだけど……」といいつつ、決して不安を感じさせないフィービー。


 三人の心にさっきの肖像画の美女へ、意味不明なライバル心がそろい踏みした瞬間だ。


 アンは三十二才、アイリスは三十四才、フィービーは三十一才。


 少しくらい年上のハンディがあったとしても、負けたら二十一世紀のハリウッド美人女優の名が廃るではないか。


「そうよ、でもほら所詮十八世紀の三十才よ、私たちより絶対老けているわよ、だから負けるはずないわ」


 アンは強気の発言をした。ポリニャック伯爵夫人は絶対に老けているはずと決めつける。


 二人はアンの言葉に思わず笑う。なんというか場がほどけた笑いだ。


 慎重なアイリスも、まだポリニャック伯爵夫人について知識のないフィービーも、アンほど強気ではなかったが、十八世紀の美容業界の知識が乏しいことくらいは想像できた。


 紫外線の害についても、保湿の知識についても、今とは比べ物にならないほどお粗末なはずだと推察をめぐらす。


 事実、十八世紀の化粧品は肌に悪いものも多かった。


 ポリニャック伯爵夫人が三十才なら、相応の正しいケアをしてなければ、それなりに老け顔になっているはず。


 きっと今の四十才くらいに相当するに違いない。


 対して、自分たちはどうだろう。


 もともとの美貌に加え、美容業界の最新の知識をもって様々にメンテナンスしている。


 さらに食事やエクササイズやメンタルにまで気を配っている。



 たとえ、貴族であっても負けるはずがないのよ、だって私達、美女で鳴らしたハリウッド女優なんだから!

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