第20話 アイリスが仕掛け、フィービーは応じる(見せ場です)
アイリス(Iris)から突然、「お父様」と呼びかけられて驚きの表情を隠せないメルシー伯爵。
(こんなところで、アイリスったら出たとこ勝負するのね!)
アン(Anne)は、自分が次に何をしなくてはいけないか、一瞬のうちに考える。
しかし、フィービーがアンより素早く動いた。
フィービーはアイリスの位置とは反対側に進み出る。
昨日はどぎまぎしていて、アン(Anne)やアイリス(Iris)の後を追うだけだったが今日は違う。
アイリスとフィービーが真ん中のメルシー伯を挟む形ができた。フィービーもひざまずき、メルシー伯を見上げ、声を絞り出す。
「私の心も、姉上とまったく同じ。私の愛の深さも、まさしく同様とお考えくださいませ。まことに姉上のお言葉は、そのまま 私の愛の真情を語りつくしてくださいました。
もし、あえて一言つけ加えるべきことがあるとすれば、どれほどに類まれな喜びも、私にとっては敵にほかならぬということばかり。私の唯一無上の喜びは、ただ、ひとえにお父様を愛することのほかにはございませぬゆえ」
輝くブロンドのフィービーが、この言葉を発すると場の空気もまた変わる。
言葉は優しくいたわりを感じさせるが、その裏に一物ありそうな、そんなどす黒さを伝えてくるのだ。
二人からいきなり父親と呼ばれて、驚愕の表情が続くメルシー伯。
「な、なんと!! そ、そなたまで! そなたたちは一体ーー??」
アイリスとフィービーは、水を得た魚のようだった。今までとは全く違う人格になっている。
次の瞬間、ひざまずいていたアイリスがすっと立ち上がる。そしてメルシー伯から離れ、アンの前に歩み寄る。
(アイリス、今度は何をするつもり? もしかして?)
アイリスは、突如、腰を曲げ、かがんだ姿勢でアンを見つめる。そして、老人さながらのしわがれた声で、
「お前とお前の子孫とに、わが王国のこの広大なる三分の一を、とこしえの領地として分け与えよう。その広さ、ゆたかさ、楽しみ、どれ一つを取ろうと、ゴネリルに与えた土地に寸分劣らぬ。
さて、わが喜び、末の娘ではあるが、いとおしさにおいては、末席にすえるつもりはけっしてないコーディリア。
その若々しい愛を得ようと、フランス王とバーガンディー公とが、たがいに競い合って相譲らぬが、そのお前は、姉たちよりもさらにさらに豊饒な三分の一を引き当てるにあたって、さあ、なんと言うてくれるな?」
優雅で美しい顔立ちからは信じられないような迫力でアンに向かってくる。
メルシー伯爵はといえば、息をのまれて立ち尽くしたままだ。
(アイリスとフィービーが作ってくれたこの流れを消しちゃだめだわ!)
脇を見れば、フィービーが意地悪そうな眼付きでこちらをうかがっている。
アンにはわかる。
フィービーが今、<リーガン>としてアンを見ていることを。
アンはアイリスを見つめ 唇をそっとひらく。
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