第32話 誤差って何? 誤差で任務失敗? 困るわそれ!
マリア・テレジアは<適当>に人を過去に送る・・・・・・
それが、どういうトラブルを招くのか、まだ想像がつかなかった。
でも、良い方に向かわないことくらいはすぐにわかる。適当なんてとにかくまずいでしょ。
このサンジェルマン伯爵、不気味な存在で、今どう捉えていいのか。
同じように十八世紀にタイムスリップしてきた「仲間」とは到底思えない。
アンの華やかな美しさにも、アイリスの柔和な美しさにも、それほど関心がないように見える。ここがもうおかしい。過去、ほぼほぼ百%の男たちは、隣に妻や恋人がいなければ、アンやアイリスの美貌を見れば、必ず動揺したし、態度にそれが現れたのだ。
この男にはそれがない。普通の男性が常に必ず持っている、美女に心を奪われるエネルギーまで<他の何か>に取られているということだ。
「どうされましたか? お二人とも。美しい顔がひきつっていらっしゃいますよ。特にアン殿」
当たり前だろう。今の今まで、アンはタイムスリップに誤差があるなんて思ってもみなかった。
マリア・テレジアの能力がいい加減だったなんて、想像したことがなかった。
そして、このからかうような、情報を小出しにする態度。
じわじわと、二人の心に恐怖を植え付けてくる。身体がこわばっている。
でも負けてはいられない。
「ひきつる? それはあなたのせいでしょう? 仲間と言いながら、こちらを不安に陥れることばかり言っているわ。 何のつもりなのよ、これは?」 アンもそろそろサンジェルマン伯爵の物言いにむかついてきた。
「本当にその上から目線、何とかしていただきたいわ」アイリスもにらみつける。
サンジェルマン伯爵は全く意に介さない。それどころかにやにやしている。
とにかく、仲間と言いながら、全く親しみを感じさせないこの男。
彼が次に何を言いだすのか、それが、ハリウッド女優3人のタイムスリップにどんな悪影響を及ぼすのか。
「そんな風に怒らなくてもいいではないですか。美人が台無しですぞ。私は上から目線などというつもりはなく、あなた方に早く伝えたほうがいいと思っただけですから」
「何を伝えてくれるのかしら? そうなら、さっさとして。私達エメ男爵夫人に呼ばれてきただけなんだから」
「そうですな、エメ男爵夫人と化粧水とクリームで打ち合わせでしたな」
サンジェルマン伯爵は後ろのドアを確認する。エメ男爵夫人が入ってこないか、気にしているのだろうか。
「では早速。今西暦何年かご存知ですかな?」
斜め上からの質問に、二人はハッとする。タイムスリップしてから出会った人物には、メルシー・アルジャントー伯爵もいたし、彼の口からマリー・アントワネットの話も聞いている。敵、ポリニャック伯爵夫人の存在も確認した。
十八世紀のヴェルサイユ宮殿にタイムスリップしたのは間違いない。
でも、西暦は確認していない。
「……確かマリア・テレジアは、マリー・アントワネットの二十五才の時に送るって言ってたんじゃなかった? アン」
アイリスが、アンとフィービーと十八世紀行きの準備のオンライントークを思い出してアンの耳元にささやく。
「そうだわ、マリー・アントワネットが二十五才のときに送るって言ってたわ。だから、今は1780年だわ」
マリー・アントワネットは1755年生まれなので、二十五才なら1780年だ。
サンジェルマン伯爵は紅茶を口元に運ぶ、優雅さと上品さは消えない。
「今は1782年ですがね。二年の誤差がある。それをご存じないわけだ」
「な、なんですって! 今は1782年?」 知らず知らずのうちに声が大きくなる。
アンとアイリスは顔を見合わせる。確かに今まであった近衛兵にもメルシー伯にもシャルロットにも今が何年か確認したことはない。
自分たちのタイムスリップにも誤差があったなんて。
「相変わらずのマリア・テレジアですな。やはり誤差がある。私の時の二十年が二年になったと思えば、ずいぶんマシになったとも言えますがね」
マシ・・・・・・? 誤差は一日だってあったらまずいでしょう?
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