第11話 <美貌>のほかに何を持っていく?何が役立つの?
二十一世紀に生きる、私達。
それもハリウッドの美人女優。
この三人が束になって負けるわけはない、心からそう思えた。ずうずうしいなんて、誰にも言わせない!
「そうね、そう考えたら私はフィービー・フロストだもの、ポリニャック伯爵夫人に負けるつもり、ないわ」
フィービーの瞳がきらりと光る。ついでに彼女のブロンドもきらりと光を反射する。
「アイリス・ヴァンダーウォーターもよ。この業界にいたら、アンチエイジングには気をつけざるを得ないし、ポリニャック伯爵夫人がどれほどの美貌だろうと、望むところよ」
アイリスは炎上を招くような自慢は絶対にしないタイプだけど――
今日はさらりと、こんなことを言う。
二人の声に、
「ええ、当たり前よね。二十一世紀のハリウッド美人女優が三人もそろって、十八世紀のちょっとくらいの美人に負けるもんですか!」
アンは朗らかに笑う。
言っておくがポリニャック伯爵夫人は、「ラファエルの描く、マドンナのようだった」と当時の人が語るほどの美貌だ。
その彼女をちょっとくらいの美人とは!! 言い方! 言い方!
二人はアンの言葉につられてまた笑った。
「ちょっとくらいの美人!! アン、言うわね」アイリスが言う。
自分で美人女優と平気で言えるのがアン。なおかつ聞いている方が嫉妬を感じるよりも、やや滑稽に感じて微笑みたくなるのがアンの性格だった。
フィービーが男性受けでは一番なのだが、とはいえ、アンやアイリスも負けてはいない。
アンは女性たちが憧れる顔立ちで、しょっちゅうメイクを真似されていて、アンが新しいヘアスタイルを試せば、SNS上に同じヘアスタイルの写真が溢れかえる。
アイリスと言えば、共演俳優が
「撮影中、アイリスにいつも心の中でひれ伏していたよ。彼女に見つめられると自分の演技がまずかったんだって反省してしまうんだ」
と言ったために、目で男性を意のままにする美女という称号をもらっていた。
さらにこの三人は、目の前の美女の美貌と自分を比べて嫉妬したり、悲しんだりすることはなかった。
アンがアイリスを選び、アイリスがフィービーを誘った、この流れは偶然だったが、結果的にベストな協力体制をひけそうだった。
三人は会ったことのないポリニャック伯爵夫人に会うシーンを想像する。もし五十センチの距離で、お互いの顔を見つめたら……口には出さなかったが、全員、「私が勝つはず」と思っている。
いつの世でも人は対戦ものが好むものだ。ローマ時代のライオンと人間の闘いから、現代のオリンピックのスポーツ競技にしろ、対戦は楽しい。
しかし、十八世紀と二十一世紀の美貌対決は、今まで誰も聞いたことはないし、考えもしないだろう。
物理的に相まみえることなんてありえないのだから。
でも今この三人は、十八世紀の老獪ろうかいな美女、ポリニャック伯爵夫人に美貌で戦いを挑む話で大盛り上がり。
三人はどうやってポリニャック伯爵夫人に勝つか、を考えると元気が出てくるのを感じていた。
「美貌対決」と考えると、負けたくない意識が生まれる。なんだか気持ちが高揚する。
美人は一人でも美しいが、二人、三人とまとまると、相乗効果がものすごいパワーを生む。
今回は、三人よ、三人。この相乗効果をみせてやりたい。
「何かリアリティ出てきた、男性相手じゃなくても頑張るわ、楽しそう!」
フィービーの顔がほほ笑んでいる。
「チークもファンデーションもアイブロウもつけまつげも、口紅もグロスも何でも持っていけばいいわね」
アイリスはゴールドのアールヌーヴォー調の丸いパッケージのチークをポーチから取り出す。ピンクとオレンジピンクの色の混じった美しい色を画面越しに見せながらいう。
「化粧品はかさばらないわ、スキンケア、メイクアップ、両方徹底的に持参していきましょう、二十一世紀のコスメパワーをポリニャック伯爵夫人を浴びせてやりましょうよ」
アンが引き取る。それに乗ったのか、アイリスもフィービーも口々に言う。
「いつの世も長いまつげは美しさの基準よ、つけまつげは死ぬほど持っていくわ」
「あとは、塗れた唇はやっぱりいつの世もセクシーで人を魅了するわ、私はグロス!」
十八世紀にタイムスリップできるとは、この段階でも信じてはいない。繰り返すが、信じていたらバカ以下、でしかない。それでも、
「ポリニャック伯爵夫人に美貌で勝つために何を持参する?」
このゲームになると火がついてのめり込んでしまう、三人だった。
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