第30話 騒然の後の行動


 それからほんの数秒後、今度はがやがやと話し声がし出した。

「どうする、ルートを考えの直すか? 」

「そうだな、セキュ=レンが出ないなら、もっと、もっと」


ほとんどそう言っていた。


「皆さん、お静かに願います、それともう一点、これはお気づきかとも思うのですが「山の王」が出場されることになりました、明日にはこの事を公表しますが、それまでは外には、報道関係者には言わないようにお願いします」

そしてすぐさま解散となった。部屋を出るときの選手全員の表情は緊張とやる気に満ちていた。


そうなのだ、セキュ=レンが出ないということは、すべての人間に優勝のチャンスがあるということなのだ。


山から始まり、森を抜け、平地で遠投、この付近には大きな河はないけれど、湖はあるから、それを超えるショットを挟んでゴール、セキュ=レンはきっとそんなルートを描き、完璧にこなすつもりだったのだろう。

こんな完全無欠のオールラウンダーが出場しないとなれば、俺たちはそれぞれのフィールドで自分の最も得意なものを、存分に精一杯披露するしかない。元々きっとみんなそうするつもりだっただろうが、そこに「全宇宙大会の優勝」が付いてくる可能性が出てきたのだ。これで燃えないわけもない。


「帰ろう、帰って作戦会議だ」

俺もすぐ部屋を出たが、同じ建物の中、ハーナの事を思い出さずにはいられなかった、それにハーナを始め、幾人かの選手がまだ到着していなかった。


「最悪参加者が半分になるかもしれないな」

そんなざわめきも聞こえる中、俺はとにかく協会の人を捕まえて、ハーナの事を詳しく聞くと


「内緒なんだけれど、総司令部がキャプテンサマーウインドに頼んでいるらしいんだ」

「キャプテンサマーウインド! じゃあ来れるの! 宇宙一のパイロットでしょ? 」

「それがね・・・」


簡単な事ではなさそうだった。



そしてその後、何人かで散歩を始めた。全部の距離を一日で歩くことは大変なので、数日に分ける事になっていた。

「エンランに最適なんだ!! 」

この場所をそう評価していたにもかかわらず、俺の様子がおかしいので、


「ロロ、ちょっと集中できていないね、どうしたの? 」

ルートの責任者から言われた俺に、すかさずカイウが助けるように

「ロロ、そんなにハーナの事が心配? ハーナとは恋人同士なの? 」

「それは絶対にない! 」

「そんなに強く否定しなくても、逆にハーナが可哀そうじゃないか、ロロ。普段は礼儀正しい子だよ、ただ試合になるとね、男勝りというか、男になるというか、凄い思いっきりもいいしね。私はハーナと同じリーグの選手のルート担当だったんだこともあるから、よく知っているんだよ。ロロ、最悪ハーナが出場できなくなったなら、猶更良い試技をしてやるべきだ。「出ることができなくて悔しい」ともちろんハーナは思うだろうが、一方ではロロに誰よりも頑張って欲しいとも思うだろう。ロロの試合を見てエンランを始めたんだから。ロロ、ちょっと落ち着いて、本番までにもう一度集中力を高めよう。今日はほんとに懐かしい散歩でいいと思うよ」


「ルートの方って・・・選手の心理担当って言われていますよね、凄いです」

「そうかい、カイウ、では今ちょうど三人しかいないから話そうか、きっとカイウは知っているだろうから」

「え? 何を? 」

「ロロはキャプテングリーンの娘さんに夢中ってこと、だから誰にもぶれない」

「あ!! なんで知っているの!!! 」

「わかるさ!! でも誰にも言っていないんだよ、ロロ。君は年ごろだし、からかわれたら困るだろう? あまり大勢で」

「ハハハ、好きな子ができたとは聞いたけれど、誰かは知らなかった。キャプテングリーンの娘なら俺ちょっと知っているのに。医療星で入院してたんだよ、近くの病棟だった。すぐに退院したけど」

「けど、何なんだいカイウ・・・」

「・・・・・・」

「知ってるよ、可愛いけど、かなり上から目線の女の子だったんだろう、昔は」

「知っていたの、ロロ」

「自分で言っていたんだよ、それが医療星に行って変わったって言っていた」

「それはそうらしい、自分よりも小さい子に文字を教えたりしていたよ。でも最初にこう言われたんだ「あなたがカイウ? 動物の事たくさん知っているんでしょ? 私と勝負しましょう」だよ。びっくりした」

「それはまた凄い女の子」

「でも知ってる量が凄いんだ。しかもほら、キャプテントミとか、キャプテンヤーマに直接聞いているだろう? レベルが違い過ぎて・・・それでそっちに進まなかったのもある、しかもだ、「私より年が下でもっと詳しい子がいる」って」

「そりゃ、テランと比べられたら困るよな」

「そうか、君たちはテランと同じくらいか、有名か」

「有名だよ、キャプテントミの子の天才児なんて、恵まれてるよね」

「そうだね」

本当に楽しい話になったけれど、だんだんと他のチームの散歩の姿が見え始めると、急に俺の何かが変わり、一人で走り出した。


「やれやれ、ちょっとスイッチが入ったかな。カイウ、君はロロの気持ちのコントロールの仕方も上手だね、その手の研究もしているの? 」

「少しだけ、でも凄いですね、やっぱりプロのサポートの人たちは違います」

「そりゃあ、これで給料をもらっているんだから」

「でも、本当にロロは優勝するかもしれませんね」

「感、データー? 」

「優勝する選手は、他人の不出場を喜ばない、って書いてありました。マイナスな事を考えると、自分の試技に迷いが生じるとか。ロロは

本当にエンランに向いているんでしょう」

「カイウ、君ならば、そのままサポートメンバーとして迎えてもいい、という意見も出ているよ、それはこれから考えて見てくれ。みんなロロよりも年が上だろう? やり辛いんじゃないかなって思うこともあるんだ」

「きっと皆さんが思うほど、ロロは気にしていませんよ、そう言う選手です。ただ、湖越えをしてみたいと言い出すかもしれませんね。

セキュ=レンがやるはずだったことを、やってみたいのかも」

「それは我々も予想しているよ」

「さすがです」


次の日にセキュ=レン欠場、山の王出場のニュースが全宇宙を駆け巡った。

だが、森のハーナは、自分の出場云々よりも、ハーナらしくないことに悩んでいた。



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