第16話 撮影


「バードカメラがいるんだね、公園に人が少ないのに」


 時々公園で飛んでいるのは見かけるけれど、それは防犯のためだ。

「まあ、とにかく投げて遊ぼう。ボールの実を集めてからだ、ロロ」

「うん」


医療星にはボールの実という変わった実がある。手の中に納まるフカフカした実で、ちょっとだけ弾むので、ボールの代わりに投げて遊ぶことができる。


俺は何日か前に集めておいたボールの実を、クリーム先生に投げることにした。キャッチボールと言っても俺は投げる専門、先生は取る専門になる。


「先生、行くよ!! 」

「こんな遠くでいいのかロロ」

「多分大丈夫、何度か投げたから!! 」

そう言いながら俺は投げた。百メートルくらい先にいる先生は真横にかなり走ってジャンプしてパクっとボールを噛んだ。

「先生ナイスキャッチ!! だいぶん球がそれたね、こんなに方向が変わるの? 吹いてないと思ったけど」

「ロロ、ビル風だ、ここの特有のものだ。ビルに当たって跳ね返された風が今度は隙間を通って来るから、風が読みづらいぞ」

「そうみたいだね、でも建物の位置は変わらないから、やっぱり決まった方向みたいなのはあるだろうから」

「ほう」


そうやって風の方向を読みながら投げると、何投目かには先生はほとんど動かなくなった。


「ロロ! 凄いな!! でもこれじゃ私が運動にならない、ボールを曲げても良いぞ! 」


「本当!! 大変だよ!! 」

ボールの実はつぶしながら投げると曲がるけれど、何せ自然のものだからどういう軌道を描くかは全くその実の個性による。



「行くよ、先生!! 」

「いいぞ!! 」


するとかなり横に曲がったり、ちょっとブーメランのように戻ってきたりした。でも何となく投げている間にわかってきたような気がした。その実の硬さとか、ちょっとだけ片方が重いものとか。似たようなものは、やっぱ同じようになると気が付いた。


「ねえ先生、凄く遠くに思いっきり投げてみたい!! 」

「いいぞ。でもなるだけ道路に、まあ道路までは出ないかな」

それを聞いてちょっと、いや、かなりやる気が出た。

此処の公園はとても広い、片方は病院の建物、片方は林になっている。そして公園の周りにはぐるりと大きな木が植えられている。つまり道路に出るということは木を超えるか、越えられなくても、枝に当たって跳ねるだけの威力を持続したままでなければいけない。


「先生、道路まで届くかもしれないよ」

「できるか? いいぞ、行くから投げて見ろ」


俺は百球以上集めていた中から一番飛びそうなものを選んでいた。


「ヨシ、行くよ、さあ、飛んでいけ!!! 」


「わあ! 凄いな!! 」

先生も驚いて走り始めた。


「道路!! 本当に届くか!! 車に当たると!!! 」


投げた俺より先生の方が叫んでいた。俺の球はそこまで高くは上がらなかった、というか上空の読みにくい風で空高く上げなかった。その分ほとんどまっすぐ飛んでいった」


「あ! そっか! 今葉っぱが落ちているんだ!! 」


急いで俺も走り始めた。人がいないのでスピードを上げても全然気にしなくていい。すると、ボールが木に当たって公演側に跳ね返ってきたのがわかった。


「良かった・・・出なかった」

二人でしばらくぶりに一緒にいたが、今度は俺の元いた場所ぐらいから医療スタッフが走って来た。


「先生! クリーム先生! 会議です!! 」

「あ! 忘れてた・・・全くお前のせいで」

「俺のせい?? 先生?? 」


その日のキャッチボールはそれでおしまいだった。見上げると、バードカメラはずっと俺たちの上にいた。


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